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第2章 十二星華の、結婚

(このお店、トラットリアって名乗ってるけど内装はリストランテ並なのよね……お陰で何度来ても緊張するわ)
 空京にあるイタリア料理店に入った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、一瞬どきりとした。
 入る店を間違えてしまったかと思うほど、その店はエレガントな内装だった。
「……あら、あれは?」
 席を選ぼうとした祥子は、窓際で窓の外を見ているひとりの女性に目を留めた。
「一人かしら?」
 せっかくだから、相席をお願いしてみようと、祥子はその人物に近づく。
「ごきげんよう。相席させていただいてもよろしいかしら? ……それとも彼が来るのかしら?」
「あ、いえ……。今日は一人です。祥子さんはこちらに何しに?」
 顔を向けた人物は、テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)だった。
 テティスはロイヤルガードの仕事の関係で、よく空京を訪れている。
「今日は大学に実習の報告と買い出しのために来たの。空京の方が揃いやすい品もあるからね」
 祥子はそう説明すると、メニューを見ずにいつもの料理――フルーツトマトのサラダ焼きチーズのせと五種のキノコと牛肉のリゾットを注文した。
 テティスはほうれん草のクリームスパゲッティとスープを頼んでおり、ほぼ食べ終わっていた。

「テティスは大学の単位ちゃんと取れそう? 私は依頼や任務もあれば事件もあって、実習ちゃんと進んでないのよね……。『教育実習』随分長くしちゃったわ」
「そうね。私はなんとか大丈夫かな。他の十二星華の皆が、女王や宮殿の警備、引き受けてくれてるから」
「そっかー。あ、きたきた」
 リゾットを食べ終えた祥子は、デザートを注文していた。勿論テティスの分も一緒に。
「本命はこのジェラートだったりするのよね」
 届いたのは、お皿にのった鮮やかな色のジェラートだった。
「ディナーだったら、リゾットじゃなく鶏とジャガイモのオーブン焼きにしてたかな」
 言いながら、祥子はジェラートをスプーンで掬う。
「私はディナーの時間に、このお店に来たことないかも……夜は、1人じゃ入りにくいしね」
「彼と来ればいいじゃない?」
「……いつも一緒ってわけじゃないから」
 テティスはふふっと微笑んだ。
 とくに寂しさを感じる笑みではなくて。
 恋人――皇 彼方(はなぶさ・かなた)との関係は順調なのだと感じられた。
 ジェラートをぱくっと食べて、味わった後。
「ところで……」
 祥子がテティスの目を見る。
「ん?」
「結婚について、どう思ってる?」
 カシャン
 途端、テティスがスプーンを皿の上に落とした。
「わ、私達まだ学生だし、彼方とはまだ付き合っているともいえないような……っ!」
 慌てだすテティスを見て、祥子はぷっと小さくふき出した。
「テティス達のことじゃなくて……それも興味はあるのだけれど……」
 祥子は少し目を伏せて、語りだす。
「私、あなた達、十二星華のリーダだった人と、恋人関係になったの」
 祥子は2年ほど友達付き合いをしていた相手、ティセラ・リーブラ(てぃせら・りーぶら)と最近、恋人になった。
「この時期って、ウエディングの話とか、婚活イベントとかよく耳すするじゃない?」
「そうね……」
「そういうのを見ると、なんとなく意識しゃうのよね。
 付き合い始めたばかりでまだ早い。とは思うけど、その人と幸せになりたいし幸せにしてあげたいと思うの」
「だけど、あなたもまだ学生だわ」
 テティスはちょっとうらやむような目で、祥子を見ていた。
「うん。自分自身の事も儘ならないくせに何考えてるんだって思う反面、悔いも憂いもその人となら受け入れられる。限られた時間が惜しすぎるって思う」
 祥子の言葉に、テティスは軽く瞳を彷徨わせた。
「テティスは、プロポーズされたら幸せ? 限られた時間を生きる、人間の彼に」
「そ、それは……困る。まだ学生だし。そもそも、私達まだそういうこと考えられる関係じゃないし」
「じゃ、全く考えてないの?」
 祥子の問いに、テティスは赤くなって俯く。
「……ふふ、女の子だもの。考えるわよね」
 テティスは彼方に将来、結婚しようという言葉を貰ったら。
 多分、とても喜ぶだろう。
「思い切ってプロポーズしちゃおうかな……」
 呟いた後、祥子はジェラートの最後の一口を口に入れて。
 冷たく濃厚な甘さに、目を細めてふうっと息をついた。
「ダメなら時期が来たらまたすればいいんじゃない?」
 テティスのそんな言葉に、祥子はうんと首を縦に振る。
「考えてみる」
 ドリンクを飲みながら軽く雑談をして。
 それから、2人は帰路につく。
 祥子はヴァイシャリーへと。教育実習生として学び、働く為に。
 テティスはツァンダへと帰っていく。