リアクション
「さあ、第1回戦も半ばを過ぎました。続いては、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)さんの土佐対、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)さんのウィスタリアです」 土佐もウィスタリアも、先のヴィモークシャ回廊での戦いでH部隊として戦った僚艦だ。共に戦艦型で、左右に副船体を有する構成となっているが、その形状や運用法はかなり違う物であった。 土佐は、左右にイコン格納庫とカタパルトを有した副船体を持ち、個々に分離できる構造を持つ。中央船体が一番長く、山の字形の巨大な空母である。 対するウィスタリアは、先端がやや開いたV字型のシルエットをしており、イコン搭載能力はさほど高くない。優雅な船体は、戦闘艦と言うよりも多目的型移動拠点としての性格の方が強かった。 「あ、あれは、きっとハサミのようにチョキチョキと……」 ウィスタリアを見て勝手なことを言いだすラブ・リトルを、コア・ハーティオンが高天原鈿女の目配せで素早く口を押さえて動けないようにした。 「空母対重巡という戦いだけれど、予断を許さないわね」 高天原鈿女が、無難な解説で締めくくる。 「さあ、結果はどうなるか、いよいよ、試合の開始です」 ★ ★ ★ 「ウィスタリアが相手か。敵として、不足なしだな。さて、派手に行こうか。コンピュータ、主砲照準合わせ。まずは御挨拶だ。てーっ!」 『こばー』 パートナーたちにイコン部隊を任せた湊川亮一は、小ババ様型サポートAIの助けを借りて、一人で土佐を動かしている。 ★ ★ ★ 「来たよ。さすがに素早いね」 参謀としてブリッジに詰めた柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)が、機晶制御ユニットにほとんど全身を沈めたアルマ・ライラックの斜め後ろで、キリッと後ろで手を組んだ参謀然とした態度で言った。 「すでにバリアは艦首に展開してあります。問題ありません」 機晶制御ユニット上の立体投影モニタ上に浮かんだ二つの円を両手で前方に引き寄せたアルマ・ライラックが、落ち着き払って答えた。 その言葉どおりに、土佐からの砲弾がウィスタリアのジャマー・カウンター・バリアに弾かれる。 「主砲、発射……」 アルマ・ライラックが、スクリーン上でさっきから明滅していた緑色のヘクスマーカーを、指先でピンと弾いた。マーカーの色が赤に変わると同時に、ウィスタリアの要塞砲が発射される。 ★ ★ ★ 「状況報告!」 『こばー』 「こばーじゃ、分からん!」 即座に防御態勢をとろうとした湊川亮一であったが、間にあわず、土佐の左舷対空砲のいくつかがごっそりと持っていかれる。 「アンチビームファン展開、イコン部隊発進準備!」 湊川亮一の命令と共に、左右のイコン格納庫に警報が鳴り響いた。 「リニアカタパルト、チャージ完了」 ウィンドセイバーのサブパイロットシートで、ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が報告した。 「指示があり次第、すぐに発進しますわよ」 メインパイロットシートに座った高嶋 梓(たかしま・あずさ)が、イコンデッキのハッチが開放されるのを待って身構えた。 ジェファルコンのカスタム機であるウィンドセイバーは、重装甲に重火器を装備したコバルト色の強襲型イコンだ。ウィンドセイバーの後ろには、同じカラーリングでスフィーダをカスタマイズして推進力を強化した陣風と、プラヴァー重火力タイプの紫電改(重火力試験型)、高機動型プラヴァータイプのテンペスト、ストークタイプの震電、ブルースロートタイプのアルテミスが出番を待っている。 『こばー!』 「弾き返せ!」 少し小ババ様AIに慣れてきた湊川亮一が、艦首アンチビームファンを斜めに展開した。ウィスタリアから放たれた第二撃が、アンチビームファンに弾かれて後方へと逸れて爆発する。 「そちらにできることは、こちらもできるということを教えてやろう。荷電粒子砲はチャージ終わっているな。てーっ! 続いて、イコン部隊、及び、雪風、発進!」 敵の砲撃の切れ目に素早くアンチビームファンを動かしてカウンター攻撃を放つと、直後に艦載機の発進指示を出す。 「皆さん、行きますわよー」 『こばー』 左右のカタパルトから、高嶋梓とソフィア・グロリアのウィンドセイバーを先頭に、次々とイコンが発進していく。同時に、艦尾イコン発着口に船体を突き刺すかのように収納合体していた大型飛空艇の雪風が分離発進していった。こちらもコバルト色のパーソナルカラー一色に塗られた、スリムな駆逐艦だ。 「私が切り込んで道を開きます。ついてきてください」 雪風に乗ったアルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)が先頭に立つと、被弾して煙をあげているウィスタリアへとむかう。本来の雪風は土佐の護衛艦であるのだが、今日はイコン部隊に先立つ突撃艦の役割を担っている。 『こばー』 モニタに閃光が走った。ウィスタリアの船体から、激しい黒煙が上がっている。 「左舷直撃か。だが、この程度で沈みはしないだろうな。砲身の冷却と、エネルギーチャージを急げ」 湊川亮一が、荷電粒子砲の準備を急いだ。 ★ ★ ★ 「左舷船体直撃。隔壁緊急閉鎖。自動消火システム、予備回路にて起動。稼働率10%」 あわただしくダメージコントロールを行いながら、アルマ・ライラックが柚木桂輔にも分かるように音声で報告していく。 「左船体を切り離すんだ。この程度でウィスタリアは沈みはしない。消火作業を中止して、左船体を射出。全エネルギーをグラビティキャノンへ。敵は、休ませてくれないぞ」 柚木桂輔のアドバイスに、アルマ・ライラックが即座に左船体をパージした。同時に、スラスターに点火して加速して押し出す。機晶制御ユニットによってウィスタリアの船体状況を感覚として共有しているアルマ・ライラックにとって、これはかなりの苦痛だが、だからといって躊躇していると致命傷になりかねない。柚木桂輔もそれを分かっていて、あえて淡々と切り離しをアドバイスしていた。 「敵艦載機部隊接近。敵要塞との最適射線計算。姿勢修正」 船体分離によって傾いた姿勢を、アルマ・ライラックが修正する。 「グラビティキャノン、重力子生成率80%。フィールドシェル安定……」 その間に、柚木桂輔がグラビティキャノンの発射準備を行う。 「重力子生成率100%。加速フィールド、ガイドエネルギー接続。加速設定60万ガル。グラビトンブレッド、チェンバー内へ移動。透過フィールド、発射可能レベルへ。加速導体、チェンバー内注入。オールグリーン。撃てるぞ!」 「副船体爆破。グラビティキャノン、発射します!」 ★ ★ ★ 「敵要塞の一部瓦解を確認しました。離脱したブロックが下降しつつこちらへむかってきます」 先頭を進む雪風のアルバート・ハウゼンから、パージされたウィスタリアの副船体の状況が報告される。土佐の方にむかって来てはいるが、高度を維持できずにイコン部隊の下方へと沈みつつある。 「あのままだと、爆発しますわ」 ソフィア・グロリアが、接近してくる船体内温度上昇率を確認して言った。 「部隊を上方へ。敵船体の爆発に巻き込まれないでくださいませ」 高嶋梓が、雪風を含む全機に指示する。 イコン部隊が上昇した直後、ウィスタリアの副船体が自爆した。下方からの爆風を受け、編隊がやや乱れる。 「レーザーマシンガン、射撃開始……なにっ!?」 アルバート・ハウゼンが、射程内に入ったウィスタリアに攻撃を開始しようとしたとき。ウィスタリア前面の空間がゆらぎ、中央部の発射口からグラビティキャノンが発射された。まんまと、副船体の爆破によって射線上へと誘い込まれたのだ。 避ける間もなく、雪風やウィンドセイバーなどを巻き込み圧壊させながら、重力子弾が土佐へ迫る。 「やられた。荷電粒子砲は……間にあわないか!」 回避する間もなく、土佐の艦首部分があっけなく圧壊する。 「まあ、こんなもんか。データは取れたことだしよしとしよう」 非常灯が激しく明滅するブリッジで、倒れた湊川亮一がやや自嘲気味につぶやいた。そのまま、事象の地平に呑み込まれて消滅していく。 ★ ★ ★ 「試合終了です。勝者、アルマ・ライラックさんです」 |
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