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リアクション
竪琴を用いて、プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が演奏を始める。
奏でたメロディーは、皆がよく知っている曲。
誕生日に歌われる歌の伴奏だ。
静香の側に、百合園生や静香と親交のある若者達が集まりだし、お誕生日の歌を歌いだす。
「お誕生日、おめでとうございます」
「おめでとうございます〜」
「おめでとう、静香さんっ」
沢山の笑顔と、祝福の言葉が静かに贈られていく。
歌が終わってすぐ。
「お誕生日、おめでとう!」
鳥丘 ヨル(とりおか・よる)がパーン! と特大クラッカーを鳴らす。
「うわーっ、びび、びっくりした」
あ、ありがとう!」
「プレゼントだよ」
それからヨルは、夏の花を集めた花束を静香に差し出した。
「ちょっと……見かけは良くないかもしれないけど、それは気にしないで。1輪1輪はとても綺麗だし」
自分で束にしたため、色合いなのか、バランスが問題なのか、お店の人のように綺麗な花束には出来なかった。
「ありがとう、うん、温かい気持ちになれる花だね」
静香はヨルからの花束を両腕で受け取って微笑んだ。
「校長、私からも〜」
「これは、うちのチームからですっ」
白百合団員も、他の若者達も次々に静香に花を贈り、プレゼントを渡し、軽く抱擁をしたり握手をしていく。
「あ、ありがとう。パラミタで、百合園女学院の校長として僕が活動できているのは、ホント皆のお蔭だから。本当にありがとう! 皆の方こそ、楽しんでね! 合宿お疲れさま」
静香は嬉しさと照れで赤くなりながら、皆に感謝の気持ちを伝える。
「皆さんはお祝いの歌、歌わないのですか?」
関谷 未憂(せきや・みゆう)は、若葉分校生達と共にいた。
合宿中は生徒としてではなく、作業員のお手伝いとして庭や畑の草むしりをしに時々訪れていた。日頃お世話になっている百合園の皆へのお礼もかねて。
「女が多すぎて、なんか肩身が狭いというか……トラウマが……」
分校生達はぼそぼそ呟いている。
何故かこの別荘を訪れると、大人しくなる分校生が多い。ブラヌ・ラスダーを筆頭に何故か。
「夏バテでしょうか……。あ、リンが持ってきたアイスを食べましょう」
未憂はリン・リーファ(りん・りーふぁ)が持ってきたアイスをクーラーボックスから取り出して、皆に配って回った。
「あ、この小豆バニラアイスは、リンのですね。リン……?」
しかし、当のリンは壁際に立っており、じっと一方を見つめていた。
何だか考え込んでいるようでもあり、話しかけにくい雰囲気だった。
(そういえば、先日急に……)
リンは、未憂に「卒業したらどうするの?」と問いかけてきた。
卒業まではまだ3年位あって、卒業してからも学校に残って勉強するかも……というような返事を、未憂はリンにしていた。可能なら、誰かに師事できれば、とも。
ぼんやりとだけれど、経験を積んで教える立場になれればいいなとも思っていたし、若葉分校でも講師……の見習いくらいは出来るようになりたいとも思っていたけれど。
それはリンにでさえまだ言えることではない、未憂の漠然とした目標だ。
リンの視線の先の人物を見て、未憂は複雑な思いを抱く。
「……私たちは契約者でパートナーだけれど、いつまでも一緒に居る必要はないとも思います」
そしてそう、小さくつぶやいた。
後ろ向きな意味ではなくて。
自分達は別の人間で、1人ひとり違う心と考えを持っているのだから。
望む場所や目指す先が違うこともある。
「でもどこに居てもパートナーであることに変わりはないです、からね」
リンはずっと、ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)を見ていた。
彼は最初、白百合団員の若い子達が沢山集まっているテーブルにいて。
今は、静香の周りに集まった女の子達と楽しそうに話をしている。
(ぜすたん楽しそう。……で、特別に仲良くなった子には、ああいうことして『好き』って思わせるのかな)
東シャンバラのロイヤルガードの宿舎でチェスの勝負をした時に事を思い浮かべ、リンはちょっと膨れる。
負けてとても悔しいのと。
それ以上に、負けたあと。自分の気持ちとは違う感情が、自分の中で幅を利かせていたのが、すっごく悔しかった。
(……原宿で会った女子大生さんとかも、自分の心で「会いたい」って思ってるんじゃなくて、魅了でそう思ってるんだとしたら)
リンは自然と視線を落とす。
彼女の心を新たに支配したのは、悔しいという感情ではなく、さみしいという気持ちだった。
でもすぐに、リンはゼスタの観察に戻る。
合宿中も避けていたので、あれ以来、彼とは顔を合せてないし、話もしていない。
じーっとじーっと見続けていたら。
ゼスタがリンに視線を向けてきた。
「よし、今だ!」
リンは自分の頬を摘まんで、みよーんと伸ばす。
指で、眉を吊り上げて、変な顔を作り出した。
途端、ゼスタがぷっと吹き出した。
「勝った!」
リンはなんとなく、ガッツポーズ。
ゼスタはリンに、手を振ってこっちに来いと招く。
リンはすまし顔で、首を左右に振って応じない。
話をするのはまた今度。今はまだ、近づかないって決めてるから。
○ ○ ○
デザートを食べ終わってから。
ヨルの提案で皆で別荘の外へと出た。
「打上げ花火も用意したよ」
「え? 打上げ華美!?」
静香は思わず後ろに足を引いた。
大荒野で度々使われてきた打上げ華美のことは聞いた事がある。
スリルがあり、凄く美しい景色を見られるそうだが……。着地に失敗すると、地面に突き刺さってしまうとか。
「あれじゃないよ。あれも楽しいけどね」
ヨルが取り出したのは、市販の花火だ。
「いろんな種類、沢山買ってきたから好きなの選んでね」
「私あまりぱちぱちしないのがいいな」
「私はしゅーっと出るのがいい!」
若者達が選んでいき、火をつけて花火を始める。
「校長にはコレ!」
静香の花火は決めてある。
「手で持つ吹き出し花火、大人の契約者専用!」
「え? なにその危なそうな花火……」
「最初の反動がダイナミックなんだって。ボクも見たことないんだ」
言いながら、ヨルは静香に花火を持たせた。
「あ、注意書きに、体重の軽い人は誰かに支えてもらってって書いてあるね」
「え? ええ?」
「それじゃ、点火ー!」
火をつけた直後、ヨルはデジカメを構える。
「だ、だだだだ、大丈夫かな……!!」
ドーン!
大きな音と共に、静香の身体は後方に吹っ飛び、前には眩しく美しい3色の光が発射された。
「校長!」
「静香様〜!」
「桜井校長っ!」
百合園生達がわっと集まり、吹っ飛ぶ静香を皆でキャッチして。
静香が持ち続けている花火を、皆で間近で楽しんだ。
花火が全て尽きるまで、若者達は宿に訪れていた一般のお客様と共に。
共に音と光と、穏やかな夜の時間を楽しんだ。
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