リアクション
午後12時前に、パーティはお開きになったけれど、年長者を中心に会場の食堂には多くの若者たちが残っていた。 ○ ○ ○ ぽーん……。 会堂の12時の鐘が静かに、厳かに鳴り響いた。 「あれ? システィじゃない」 「男の方?」 庭にて瑠奈の姿を確認した円は、同じく訪れていた凛とシェリル……更に。 「きゃー、瑠奈ちゃん告白されてる〜」 「これって絶対そうよね!」 同じく好奇心でつけてきた瑠奈の友人達と鉢合わせていた。 「待って。代表してばっちりしっかり聞いてくるから、大人しくしていて」 円はきりっと皆に言うと、光学迷彩、隠れ身を用いて、瑠奈に接近した。 「私も瑠奈お姉さまに気付かれない範囲まで、近づいてみます」 指を一本口に当てて、皆に静かにしていてくださいと示した後で、凛も隠れ身の能力を用いて瑠奈達に近づいていく。 「報告は皆にちゃんとするからね」 シェリルは皆が騒いだりしないよう見張るためにも、その場に残った。 雲はなく、満月に近い月の光が降り注いでおり、辺りはさほど暗くはなかった。 風見瑠奈は、パートナーのサーラ・マルデーラと一緒だった。 そして、彼女の前には――豪華な金の装飾が施された、貴族服を纏った男性がいた。 その男性のやや後方にパイスが控えるように立っている。 「今日…俺…18歳の誕生日……」 会話を聞こうと、円と凛はより2人に近づいた。 契約者で剣士の瑠奈には察知されてしまう可能性が高い為、男性の後ろの方へと……。 そのため、男性の顔はよく見えなかった。 「ヴァイシャリー家の男子は大人になるまで、素性を明かすことはできない。社交界に出られるのは20歳からだけれど、プロポーズは18から出来るんだよ、瑠奈」 「な、何を仰っているのですか……」 瑠奈は酷く緊張しているようだった。 「はは、キミはホント可愛いな。別にプロポーズしようとは思っていない。 瑠奈、俺はキミと契約がしたいんだ」 「……えっ?」 「ミケーレ“兄さん”から話は聞いている。 キミはパラミタの歴史に名を残すだろう。家柄も問題ないし、優美で向上心があり頭も良い。力も容姿も申し分ない。俺が知る中で、俺のパートナーとして最も相応しい女性だ」 「は、はい……?」 瑠奈は戸惑うばかりで、まともな返事が出来ずにいた。 「すぐに決める必要はない。だが、キミの願いを叶える為には、俺の協力が必要不可欠だということは、忘れるな」 そう言うと、その男性は瑠奈の右手をとって、彼女の薬指に重厚なデザインの指輪を嵌めた。 そのまま、瑠奈の指にキスをして。 「伴侶としても相応しいかどうかは――これから、見させてもらう」 口元に笑みを浮かべ、瞳を煌めかせて言い、青年は去っていった。 その後に、パイスが続く。 「瑠奈……」 茫然としている瑠奈の肩に、サーラが手を伸ばして引き寄せた。 「ええと、隠れている方々、出てきたらどう?」 サーラが、円と凛がいる方に目を向ける。 「流石にバレちゃうか」 「ごめんなさい……」 2人は話をしっかり聞こうと、随分と接近してしまっていた。 「あの方は、どなたですか? ヴァイシャリー家の方のようでしたが……」 凛は遠慮がちに。 「大丈夫、深夜に男性に呼び出されて、口説かれて指輪貰ってたとか、誰にも言わないから安心して! で、誰? 年下のくせにちょー高圧的な男だったね。ラズィーヤさんの弟だったり?」 円は堂々と尋ねる。 瑠奈は首を左右に振った。 「あの方は、フィローズ・ヴァイシャリー様のご長男の、シスト・ヴァイシャリー様よ」 瑠奈に変わって、サーラが答えた。 「フィローズ・ヴァイシャリー……?」 聞いたことがあるような無いような名前に、2人は首をかしげた。 「ラズィーヤ様のお兄さん。ヴァイシャリー家当主の長男」 瑠奈が呟きのように言った。 ヴァイシャリー家の長男は、表舞台にこそ姿を現していないが、6首長家と日本を結びつけて、シャンバラ独立の青写真を構想した人物である。 構想しただけでその後何もしないでラズィーヤに任せていたため、ラズィーヤには恨まれているが――。 実際は日本のキャリア官僚をパートナーに持ち、シャンバラの独立、そして復興を裏で支えている。 「瑠奈〜っ!」 「今、指輪貰ってなかった? 誰よあの人、パーティに来てた??」 「なんか王子様みたいな人だった〜。白馬に乗せてもらう約束でもしたの?」 「プロポーズされたのね!? 白状しなさい、このこのーっ」 つけてきた百合園生達が瑠奈を取り囲んで、質問攻めにしていく。 「ち、違うの、違うの〜っ。そういうのじゃなくて、契約したいって言われて……!」 瑠奈は困った顔で、酷くうろたえながら端的に皆に説明をしたのだった。 |
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