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若者達の夏合宿

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若者達の夏合宿

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 夜が明けて、最終日。
 別荘はお昼まで利用可能できたが、朝食後を終えてすぐ、遠方から来ていた者達は帰っていった。
 この日はさすがのイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)も、制服姿だった……が。
 彼女は帰宅の準備を整えたあと。
 一通の手紙を持って、森近くの草むらに訪れていた。
「お手紙、ありがとうございます」
 訪れた相手に、イングリットは強く真剣な目を向けた。
「俺からだって分かった? 君との手合せを願う者は、沢山いるようだけれど」
「すぐにわかりましたわ。アキレア花が添えてありましたし。それに、文字でわかりますわ」
 その相手――マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)とイングリットは同じ英国出身の契約者だ。
 彼が用いる文字と筆跡に、イングリットは親しみを感じていた。
「それでは、始めましょうか……」
 イングリットは、マイトの目の前で制服を脱ぐ。
 中には、オレンジ色のチューブトップと白のショートパンツを着ていた。
「……」
 ふとマイトは、以前見た10年後のイングリットの姿を思いだす。
 今の彼女の体は……普通の女性より、引きしまってはいるが、あの時のような筋肉隆々ではなかった。
 あの姿が嫌だとか、幻滅するということはないのだけど。
 今の姿の彼女に、マイトは魅力を感じている。柔よく剛を制す的な意味で。
「全力で勝負と行こうか、イングリット」
 これまでも、百合園で行われた学園祭のとき等、何度もマイトとイングリットは手合せをしてきた。
 手の内がある程度見えていることもあり、双方やり辛くもあり、やり過ぎるのではないかという不安もあるが……。
「準備が出来たのなら、いつでもどうぞ」
 マイトがそう言うや否や、イングリットが地を蹴り、マイトに飛び掛かる。
 マイトはボクシングのガード……脇をしめて、肘でガードをする。
「はあっ!」
 イングリットの2打目のパンチは、パアリング――内側に弾き、体勢を整えるとすぐに反撃。
 マイトの拳がイングリットの頬を掠め、イングリットは後方に跳んで、間合いをとった。
(隙がありませんわ。迂闊に踏み込んで、組まれてしまったら躱せるかどうか……。でも、リーチの長さは同じくらい……それなら、筋力で!)
 イングリットは着々と筋肉質レディへの道を歩んでいた。
 イングリットが攻め、マイトが防ぎ。
 彼女の攻撃の直後に、マイトが技を仕掛ける。間一髪でイングリットが躱す。
 そんな攻防が長く続いた。
「行きますわ!」
 イングリットが何度目かの拳をマイトに繰り出した。
 マイトがガードした直後、それを読んでいた彼女は力を利用し体を捻り、強烈な蹴りをマイトに叩き込んだ。
 マイトの身体がぐらりと揺れた。
 即、体勢を整えたイングリットが連打を浴びせる。
 マイトがガード出来たのは、数発だった。
 止め。そう考えて、イングリットが拳を後ろに引いた。
 その瞬間に。マイトは素早くイングリットの左足を掴み、そのまま後ろに押し倒す。
 朽木倒しだ。
 そのまま覆いかぶさり、関節技に移行しようとするマイトを、イングリットが両足で挟んで、三角絞を決めようとする。
 筋力はマイトが上だが、柔軟性はイングリットの方上だった。
 体をひねり、強引に逃れようとするマイトの足をも掴んで、イングリットは締めていく。
「……ま、まいった」
 と、マイトは負けを認めた。
 確かに彼女の締めはキツかったが……いやもう、それ以上にある意味マイトには強烈な技だったようだ。
 もがけばもがくほど……その。
「ああー……っ。あんなの、躱せるか」
 開放されたマイトは彼らしくなく、赤面してうろたえていた。
「マイトさんの手の内、分かってきましたから。作戦勝ちですわ」
 どうやら彼女は、掴まれないために、この格好を選んだようだった。
 決して誘惑するためではなく。
「ま、今回は俺の負けだ。――10日間の合宿お疲れ様、イングリット」
「はい、ありがとうございます」
 イングリットは深くお辞儀をして。
「手当て、させてください」
 マイトを木蔭へと誘った。
 用意してあった、救急セットで、イングリットはマイトを気遣いながら、手当てをしていく。
(負けたけどなんだろう、この充実感……)
 マイトはイングリットの手当てを受けながら、不思議な幸福感に包まれていた。

○     ○     ○


「がおー、普通の合宿にしない子は、ナラカに叩き落とすぞー」
 初日に、別荘所有者の娘であるミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の背後から、にゅーんと登場した者がいた。
「みるみへーわをまもるためー みるみのあしたをまもるためー あいとせいぎと……あとれつじょうとかもおまけでつけちゃう あるちゃんさんじょうー」
 もちろん、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)である。
 棒読みしながらすりすりむぎゅむぎゅくっつき。
「きゃははははっ、アルちゃん、暑いよぉ〜」
「うんうん、暑いねー。汗かいちゃうね、むぎゅむぎゅして密着してるのは関係ない。ない。暑いせいですよー、みるみむぎゅー」
「もぉー、暑いから仕方ないね。クーラーの効いた部屋にいようねっ」
「むぎゅむぎゅし放題ですねー」
 そんな感じでアルコリアはそのままずっとミルミにくっついていて。
「学生達の普通の合宿っていのは、すくすくと育つ為に、遊ぶことなんだよ! 良く遊んで良く眠ることなんだから」
 というミルミの主張のもと、9日間をお部屋でお遊びとちょっとのお勉強をしながら、むぎゅむぎゅとっても楽しく過ごしたのだった。
 そして10日目。帰る間際。
「そーいえば、ミルミちゃんは宿題は先にやる派? 後に残す派?」
「……え?」
 アルコリアの問いに、ミルミはちょっと驚いていた。
「いやもう、8月末だし、やってないってことはないだろう」
 大きな鞄を抱えながら、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が言う。
 シーマは、白百合団員だがいつも通り主にアルコリアの監視として参加していた。
 アルコリアがミルミとくっついて部屋の中にこもっている間に、苦手とする魔法関係の能力強化のための勉強と、警備も行っていた。
 アルコリアが問題を起こさなかったので、完全に空気のような存在として過ごしていた。
「シーマちゃんは終わらせてからきたの?」
 アルコリアの問いに当然というようにシーマは頷く。
「宿題はそもそも後先にやる物ではないだろう……決められた日に決められた分やるものだ。それ以上勉強したければ宿題帳を使うな」
 合宿があるということは事前にわかっていたのだから、その前に終わらせておくことが当然だと、シーマは言う。
「あれ? そういえば……」
 アルコリアはもう一人のパートナーの姿が見当たらないことに気付く。
 シーマが持っていたはずだけれど。
「ん? ラズンか? ここでまた寝てる」
 服の入った袋をシーマが開ける。中には服の他に、鎧が入っていた。
 魔鎧のラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)だ。
「ん? 宿題? ……シーマのを写すよ」
 その一言だけラズンは喋り、また眠ってしまう。
 暑い陽射しが苦手ということもあり、特にやることもなかったため、合宿中ラズンはほとんどこうして眠っていた。
「写すって……しかもボクの? 間違っている場所が一緒だと、どっちかが写したというのがバレバレなんだが……」
 シーマは戸惑うが、ラズンは丸写しするつもりは元々なかった。
 アルコリアがやったものは正解率が高すぎるのだ。
 間違えていると分かったものを直して、正解の自信があるものは、ダイスを振ってその数間違えていく。
 そうしてそこそこ間違いのあるシーマの宿題をベースに、オリジナルの宿題を作り上げようとしていた。
「ミルミは、ラザンにやってもらったから、へーき!」
「やっていません」
 遠くで片付けをしていたはずの、ラザン・ハルザナクが間髪入れずにきっぱり言った。
「ええっ! 今年は合宿あって出来ないからお願いって、出発前に頼んでおいたでしょー!」
「合宿前に自分でやるようにと、申し上げたはずです」
「うううっ、酷い! ミルミいじめだーっ。執事によるお嬢様の虐待だーっ。アルちゃーん」
 ぎゅっとミルミがアルコリアに抱き着く。
「よしよしよしよし。宿題持ってきてる? 手伝うよ、甘やかすよ、ふふーふ」
 アルコリア自身は、貰った日に学校の図書館で全部終わらせている。
「ここミルミちゃん家だし、もう1、2日滞在伸びても平気だよね。むぎゅーっ」
「うん、のびのびすくすく成長するの、ミルミ!」
「鬼教師に怒られないよう、ちゃんと仕上げましょうね〜。自分平和に貢献いたしますよ、お嬢様ー」
 むぎゅーっとアルコリアがミルミを抱きしめる。
 アルコリアもむぎゅーと抱きしめ返して、嬉しそうに笑う。
 そんな彼女達を見て、ラザンは軽く苦笑するが……互いに互いが必要なのだと分かっているので、口を挟んではこない。
「え? 帰らないの? 団の宿題として合宿のレポートを作成しなきゃならないんだけど」
 シーマが驚く。作成に必要な道具は、ここには揃っていない。
「帰りません。新学期はここから通学しますー」
「します〜。ふふっ」
 アルコリアとミルミの言葉に、がっくり肩を落とす。
 このままでは、宿題を終わらせることができない。
(少しの間、アルの側を離れても大丈夫だろうか? その間に別荘が吹っ飛ぶなんてこと……ないよな?)
 不安に思うシーマだったが。
 実際、彼女が傍にいようとも、アルコリアが吹っ飛ばす時には、シーマごと吹っ飛ばすのでいてもいなくてもあまり変わらなかったり。

「それじゃ、また学校でね! 新学期も楽しいこといっぱいしようね〜、皆お疲れ様〜!」
 帰っていく、百合園の友達や、知り合いになった専攻科の人達を、ミルミはアルコリアと共に、手を振って見送った。

 それから、学生の権利で責務で使命な、夏休み最後の大仕事に勤しむのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

川岸満里亜

▼マスターコメント

シナリオへのご参加ありがとうございました。
のびのびと過ごされる皆様を、楽しく描かせていただきました〜。

さて、多くの皆さんとほのぼの楽しむシナリオは、しばらくお休みさせていただき(合同シナリオの予定はあります!)、9月上旬からドシリアスなプレミアムのシリーズシナリオを開始させていただきます。
百合園生(若干蒼空生も?)向けですが、強制的に百合園に所属が変わっても大丈夫という方や、放校覚悟の思い切った行動が出来る方も活躍可能なシナリオとなります。
参加につきましては、1ユーザー1アカウントまでですが、どなたでも大歓迎です!

それでは近いうちにまた皆様とお会いできましたら幸いです。