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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 浴衣を着て小舟に乗った黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は、黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)にデートに誘われて、舟から見るお月見を楽しんでいた。
「結構賑わってるなぁ。小舟に乗って月見なんて風流だな。たまにはこういうデートもいいもんだ」
「綺麗ですね……」
 竜斗は、頭上の月を見上げるユリナをぼんやりと見つめる。
(……月明かりに照らされてるユリナ、いつも以上に可愛く見えるな。酒も入って少し赤いし……)
 そんな竜斗の視線にも気付かないユリナはユリナで、
(き、緊張しすぎて少し飲み過ぎちゃったかも……)
 と、竜斗と二人きりのお月見が恥ずかしいあまり、お酒を飲み過ぎてしまったことを少し後悔していた。
(でも、今日だけなら、酔っぱらったことにしても……いいかな?)
 火照る頬の熱を感じながら、ユリナは竜斗にもたれかかった。
「ユっ、ユリナ?」
「このお餅を分け合って食べたら永遠に結ばれるんでしたっけ」
 ユリナは、少し驚いたように声を上げる竜斗のことを愛おしく思いながら、月うさぎの餅を手に取って半分に割った。
「はい、あーん」
 ユリナが差し出す餅を、竜斗は口にした。
「……柔らかくて、美味いな」
「今度は竜斗さんも、して下さい?」
 竜斗はユリナの口元に餅を差し出した。
「美味しいですね」
 そう言って微笑むユリナが愛おしくて、つい竜斗はじっとユリナを見つめた。
「……ユリナ」
「何ですか?」
 竜斗は、振り向いたユリナにキスをする。今日誘ってくれたお礼と、今までの感謝を込めて。
「わ、わっ!」
 不意打ちのキスに、ユリナが驚いたように目を見開く。竜斗はそんなユリナをぎゅっと抱きしめた。


 竜斗とユリナがお月見をしている池の畔に、何やら怪しげに蠢く影が二つあった。……ミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)椿 ハルカ(つばき・はるか)だ。
 ミリーネはハルカに誘われて、竜斗とユリナの様子をこっそり見に来たのだ。
「ハルカ殿。見守るというのは建前で、月見がしたかっただけではないのか?」
 ミリーネの突っ込みは適切で、実際ハルカはミリーネとお月見をするためにこうして誘ったのだが。
「というかハルカ殿、さっきから飲み過ぎではないか?」
「なんだか頭がフワフワしますわぁ……」
「完全に酔っているではないか!」
(このお団子を二人で分け合って食べれば永久に結ばれる……これで遂にわたくしも、ミリーネさんと結ばれるのですね!)
 お餅をお団子だと思い込んでいるところを抜きにしても、ハルカはだいぶ酔っていた。
 ミリーネが真意になかなか気付いてくれなかったために、つい飲み過ぎて眠くなって来てしまっていたのだ。
「ミリーネさん、温かいですわねぇ。なんだか急に眠たくなってきましたわぁ」
「えぇい、あまり引っ付くな! 酒臭いぞ!」
 ミリーネに引きはがされそうになりながらも、ハルカは薄れていく意識の端で、お団子のことを考えていた。
(お団子を一緒に食べなきゃ……それに、告白も、しなきゃ……)
 そう思ううちに、ハルカの意識はぱたりと途切れた。
「……今日くらいは大目にみてやるか。だいぶ冷え込んできたし、私の上着を貸してやろう」
 くっついたまま酒臭い寝息を立てるハルカに上着をかけると、ミリーネはハルカを見下ろした。
「まったく、幸せそうな顔で寝ているな……」
 ミリーネはハルカをそのままにして、頭上に煌めく月を眺めた。

「……さっきから聞き覚えのある声が聞こえるけど、気のせいか?」
 一方、池の中央では、畔の方を竜斗が不思議そうに見回していた。
「……竜斗さん」
「ん?」
 そんな竜斗の袖を、ユリナが引っ張る。
「大好きです。これからもよろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、これからもよろしくな」
 改めて言葉を交わした竜斗とユリナは、どちらともなく微笑み合い、もう一度キスを交わしたのだった。