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リアクション
第5章 新しい家族の始まり
空京に来る両親と買い物へ行く。だがその前に、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)と黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)には――特にユリナには、やらなければいけないことが1つあった。
「い、いつも竜斗しゃ……竜斗さんにはお世話になってて、め、めいわ……迷惑もかけてしみゃうこともありますが……………………。これからも一緒に頑張りますのでよろしくお願いします!」
言い終わるや否や、ユリナは黒崎 克哉(52歳)と黒崎 雪絵(47歳)に思いっきりお辞儀をした。彼等には見えていないが、目はぎゅっと瞑っている。
竜斗の両親に、結婚の報告と挨拶をする――
この一大ミッションを行うにあたり、ユリナはすごく、もうものすごく緊張していた。克哉達が来る前から先程の台詞を練習し、『……これ、噛まずに言えるかなぁ』と不安にも思っていたのだ。竜斗は大丈夫と言ってくれたし、勇気を出して本番を迎えたわけだが。
(わーーーー、や、やっぱり噛んじゃった……)
ちなみに、台詞中の長い三点リーダーは頭が真っ白になった間であり、「一緒」は「ひっしょ」と発音されている。心臓がまだドキドキする中、彼女は少しずつ顔を上げる。その先では克哉と、穏やかな笑顔を浮かべた雪絵の顔が見える。表情は大きく変わらないものの、克哉もそう気分を害してはいないようだ。
2人と目が合った瞬間、彼女をフォローするように竜斗がすかさず口を開く。
「ユリナはいつも俺を支えてくれて、家事に勉強にと頑張ってるいい嫁さんだよ。2人で助け合いながら頑張ってくから、心配せず見守っててくれ」
実際、彼女が噛んでも可愛いだけで、挨拶された方は眉を顰めるどころか癒されるくらいだろう。厳格な人物ならその限りではないかもしれないが、雪絵にその要素は全くないし、克哉は渋い雰囲気と筋肉質な体が相まって厳しく思われそうだがその実は正義感があるのみで融通が利かないわけではない。
竜斗の言葉を受けた克哉は、表情こそ大きく変えないものの真摯な声でユリナに言った。
「こいつはしっかりしているようで、抜けているところもある。いろいろ苦労をかけるかもしれんが、よろしく頼む」
「は……はい! こちらこそ!」
「さあ、じゃあ買い物に行きましょうか。めいっぱい買い物しちゃうわよー♪」
楽しみにしていたのか、雪絵のにっこりとした温和な顔に期待がこもる。結婚の報告が無事終わり、改めて家族となった4人は揃って街を歩き出した。
「竜斗はこういうところで生活しているのか」
買い物も終えて帰路の途中、両手に大量の荷物を持った克哉は空京の空気も大体分かったところで感想を漏らした。自分の子供だから心配はいらないと思っていたが、これならばまあ大丈夫そうだ。すれ違う人々の中には特殊な外見の者もいるし近未来的な建物も多いが、本質的なものは地球とあまり変わらないような気もする。
「……相変わらず父さんは荷物持ちなんだな」
「いつもの事だな。もうすっかり慣れたよ。しかし荷物持ちも悪くないぞ?」
荷物を見て言う竜斗に、まんざらでもない気分で克哉は答える。彼等2人の前では、ユリナと雪絵が楽しそうに話をしていた。ユリナの手にはファンシーな店の袋がいくつか提げられ、表情からも、挨拶時より随分とリラックスしているのが分かる。
「それにしても、竜斗が結婚なんてねぇ。いつの間にか大人になってたのね」
子供の頃のことを思い出しているのかしみじみと言う雪絵に、興味があったのだろう、ユリナが聞いた。
「小さかったころの竜斗さんって、どういう感じだったんですか?」
「そうねえ……実はこの子、結構昔はやんちゃだったのよ?」
「!? 母さん!? ちょっと……」
何の暴露を始めるのか、と、竜斗は慌てる。しかし、彼女達の会話は止まらなかった。
「そうなんですか?」
「でも、困ってる人を助けるお人好しだから……面倒事に巻き込まれてないかしら」
「え、えっと……」
これには困り、ユリナは、どう答えたものかと竜斗を見る。制止の声をすぼめた彼は、少々ばつが悪そうに母に言った。
「ほら、こうして元気にしてるだろ」
「ふふ、そうね。ね、ユリナさん、たまには我儘言っても大丈夫だから、こんな息子をよろしくね」
「……は、はいっ! ……ひゃっ!?」
無意識のままに、ユリナはぴんっと背筋を伸ばす。その様子が可愛くて、雪絵は我慢できないというように彼女に思いっきり抱きついた。白くて長い髪から、ふわりと良い香りがする。
「小動物みたいで可愛い娘ねー。気に入っちゃったわ」
どこか妖艶な印象もある竜斗の母は、新しい娘をそうしてしばし愛でるのだった。
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