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リアクション
第9章 『大切な人』との再会
「ええと、優斗さん……ですか?」
「はい、僕です。本当に久しぶりですね……カレン」
待ち合わせた先で、進藤 カレンは慎ましやかに佇んでいた。目視できる所まで近付いても目が合うことはなく、相変わらず人探しをしているらしい彼女に風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)は声を掛ける。カレンは戸惑ったように彼の名を確認してから、上品に笑った。
(あら? 見知らぬ女の子と待ち合わせ……ふふ、これはデートね)
空京の街。幸いにも隠れる場所には困らないこの土地で、諸葛亮著 『兵法二十四編』(しょかつりょうちょ・ひょうほうにじゅうよんへん)――リョーコは生垣の後ろから顔を出して目を光らせた。彼女の視線の先にいるのは2人の男女、優斗と銀色の長い髪を持つ10代後半位の少女がいる。少女はリョーコと同様に和服を身に着けていたがリョーコとは違い着崩してはいない。
手直しの必要を感じない綺麗な着こなしを見せている。
朝から妙にそわそわしている優斗を見てぴんときたリョーコは、彼を尾行してみることにした。何事もなく家を出られて心底ほっとした様子の彼は、それでもしばらくは周囲に気を配ったりと不安が拭えないようだった。それが、空京が近付くにつれて肩の荷を下ろしたようで次第に表情を明るくし、今はとても楽しそうに銀髪の少女と話している。少女の方も、優斗に会えて嬉しそうだ。
(でも、あの女の子、どこかで見たことがあるような……? ま、いいわ)
リョーコは早速、親密そうな2人をカメラで撮影する。同じ年頃の男女が2人きりで会っている時点でこれはデートである。たとえデートではなかったとしても、それは彼女が目撃した時点でデートになるのだ。
(後で、テレサちゃん達に教えてあげなきゃね)
「それにしても、良くすぐに私と分かりましたね。別れたのは子供の頃だったのに」
「え? あ、いえ……髪の色と面影で分かりました。あまり変わりませんね、カレン」
街の中を歩きながら、優斗は少し慌てつつもカレンに答えた。彼女に似た女の子と同居しているから、とは何となく言いづらい。
そう、カレンは剣の花嫁であるテレサ・ツリーベル(てれさ・つりーべる)の基となった少女だ。テレサの封印を解き、孤児院で一緒に暮らし始める前。カレンは優斗達とやはり孤児院で過ごしていた。やがて、進藤家に行くことが決まり別れることになったのだが、最後の日に彼女が泣きじゃくっていたのを覚えている。まだ幼かった弟も声を上げて泣いていて、優斗はその中で泣くのを一生懸命に我慢していた。カレンは、兄弟にとって最初の、本当の妹のような存在だったから。
兄弟揃って見つけた中、テレサの姿はどちらの想いを反映したのかとも思ったが。契約したのが優斗だった以上――彼の大切な人としてテレサは今の外見になったのだろう。
「そうですか? 少なくとも、前よりは女性らしくなったと思うんですけど」
「それは、勿論……素敵な女性になったと思いますよ。和服もとても似合っています」
優斗の言葉に、拗ねるように僅かに膨らましていたカレンの頬がほんのりと染まる。そして、彼女は機嫌良さそうな笑顔で問いかけてきた。
「今日は隼人さんは来ていないんですか? 隼人さんにも会いたかったです」
「隼人はルミーナさんと用事があるって言っていました。隼人、結婚したんですよ」
「そうなんですかー、結婚……。え、結婚!?」
「はい。知り合って何年かはお友達としてだったんですけど……」
ゆるりとした雰囲気で聞き流しかけたカレンは数拍の後に驚き、優斗は弟の結婚について、その相手であるルミーナについて話して聞かせる。
「それで、今年の6月に……ですか。もう大人ですもんね。私は子供の頃しか知らないので何か変な気もしますけど」
「子供の頃かあ。色々ありましたね。3人でシスター・ユラに怒られたり……」
「あっ、そうそう! シスター、全然変わっていなくて驚きました」
カレンは先日、久しぶりに孤児院を訪れてその時に優斗達がパラミタにいると知ったのだという。子供達と遊んで和服が乱れて大人気なくつい怒ったら皆に泣かれて由良に久々に叱られたのだとか。
何年会っていなくても、話していると昔の感覚が懐かしく甦ってくる。カレンは今でも優斗の妹で、優斗の家族だ。
こうして昔を振り返ったり近況を語り合っているのも良いものだ。思えば、どこかに身の危険を感じずに平凡な1日を過ごすのはどれくらいだろうか。最近、家では火花が散る回数が以前よりも増えていて――
「今日はありがとうございました。観光も楽しかったし、夕食もとても美味しかったです。それに、昔の気持ちを思い出すことも出来ましたし……」
和食料理屋での夕食を終え、カレンが宿泊するホテルまで送り届ける。別れ際、カレンは優斗ににっこりと微笑を向けた。
「また会いましょうね。優斗さん」
「はい。また。今度は家族皆で会いましょう。新しい家族になったルミーナさんも一緒に」
「家族皆で? ……ありがとうございます。じゃあ、お待ちしていますね」
嬉しそうに、そしてどこか恥ずかしそうに、カレンは言った。
「ただいまー」
「……優斗さん!」
平穏という余韻に浸りながら家に帰る。すると、鬼の形相となったテレサが玄関にすっとんできた。「え? え?」と訳が分からずに目を白黒させていると、彼女は隠し撮りされた写真を扇状に広げて迫ってくる。
「リョーコさんから浮気デートをしていると聞きました! 絶対に許せません!」
「え!? デート!? そ、それは違いますよ、彼女は家族で……」
「優斗さんにこんなおしとやかで可愛い家族はいません! でも……私に何となく似ていますよね、この人。やっぱり優斗さんの好みは……だからといって仕方ないとは言いませんよ、お仕置きです!」
「えっ、え? テレサ、あの……うわああああ!?」
――その夜、彼の家の明りはいつまでも消えることはなかったという――
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