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リアクション
【14】
変態が跳梁跋扈す通りの真ん中で、フランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)は喜びに溢れた表情を浮かべていた。
歴史を紐解けば神の奇跡を体感した先達たちの記録が残っている。とうとう自分もその1人になれたのだと、加わったのだと彼女は思ったのだ。
礼拝を捧げている最中、突如彼女は光に導かれ、この世界に誘われた。これが神の奇跡、神のご意志でなくてなんとしよう。
ーーわたくしもようやく聖人の仲間入り。ここまでの道程は長く険しいものでしたわ……。
「……ラン」
「神の国が空京の町とそっくりだなんて、きっと皆信じませんわね、ふふふ」
「しっかりして下さい、フラン!」
「はい?」
振り返ると、カタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)が立っていた。
「あら、カタリナ。あなたも神の国に導かれましたのね」
「何を言ってるんですか、ここは『変コレ』の世界ですよ!」
「ヘンコレ? ラテン語っぽい響きですわね」
全然わかってないようなので、彼女が話を飲み込む間に説明すると、礼拝中に彼女はAIによって啓示ならぬ変態認定を受け、ここに攫われてしまったのだ。だから現実世界では彼女はスースー眠っている。
カタリナは意識不明になった彼女を救出するべく単身変コレにログインしたのだ。
「へ、変態!? わ、わ、わたくしが変態ですって!?」
神よ! とフランは天を仰いだ。
AIが言うには、彼女は(カタリナもこの世界に来た時にされたが)その「狂信者」っぷりが変態事案として認定されたとのことだ。
「確かに、異教徒に対し些かやり過ぎた事はありますけど、ただ神の教えに従っているだけですのよ、わたくしは」
「そうです。神を想う気持ちを変態扱いするとは許せません」
ああ、何故神はこのような試練をお与えになるのか。
ーー試練?
「そうですわ。これは神のお与えになった試練に違いありません。この苦難の向こうに神への道があるのです」
このような神無き世界にこそ、神の導きが必要だ。きっと自分とカタリナはそのためにここのいるのだ、と。
「主よ、あなたの慈悲に従い、囚われの身となった哀れな魂を救済してみせましょう」
そう、ここには同じように変態AIの暴虐によって囚われた普通の人たちがたくさんいる。救わなければ、神の使者として。
慈悲に満ちた面持ちで……フランは超理の波動で通りにいる全員を薙ぎ倒した。
変態も普通の人も一緒くたに、全員壁や地面に叩き付けられ、ぐぇぐぇとアヒルのような声でもんどりをうった。
「うぉい! おかしいやろが! なんで今の流れでこうなるんじゃい!」
「皆殺しにする気か、このプッツン娘!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ人々にフランは微笑む。
「安らかな死こそ救済ですわ。神の国で第二の人生をエンジョイして下さいな」
変態の地でますます磨きがかかる狂信である。
「代行者とは神への忠誠を誓い、全てを捧げた者の証。狂おしいまでの神への想いがなければ、務まりませんわ」
狂信者? それがどうしたどんとこい。
神の代行にはそれでもまだ足りないぐらいだ。
「そうです。神罰の代行者とは神に代わり、救済の手を差し伸べる者……すなわちわたくしが神?」
色々飛躍したところに着陸したフランは目を煌めかせた。
「わたくしは神罰の代行者にして、神の意を受ける者。すなわち、わたくしの意思こそが我が神の意思! そして、わたくしは天より舞い降りし断罪の天使!」
神なのか天使なのかはっきりしないが、まぁそれはさておき、フランのレアリティはぐんぐん上昇。
レアリティ【レア】に到達。カタリナも【アンコモン】になった。
「く、狂ってる……!」
「狂ってなんかいません」
カタリナは唇を尖らせる。
「私は聖人ですよ。奇跡を起こさなければ聖人になれないと知っていますか。つまり、私は狂信者というちっぽけなものではありません。私こそが、奇跡です!」
「ふふふ……さあ、我が神……いえ、わたくしに逆らう愚者達よ。己の罪を知り、悔い改めなさいーーAmen!」
「ごきゅ、ごきゅ……きゅう…………ぷっはぁー!」
昼間っから飲む酒は何故こんなに旨いのだろう。
揺らぐ昼の世界の景色の心地よさと、こんなことしてていいのかしらんという背徳感が混じり、なんとも言えぬ夢心地だ。
本日、休暇の朝霧 垂(あさぎり・しづり)は町の酒屋に繰り出し、珍しい酒を買いあさりご満悦だった。
しかし酒好きが高じてニルヴァーナに自らの酒造を建設してしまうほど、文字通り【酒豪】の称号も持っているほどの彼女が家まで我慢なんて無理な話である。
天気も良いし、夏から秋に移り往く空京を肴に飲むのもまた一興。並木通りのベンチを宴の席と決め、一杯やり始めたのだった。
「しかし、今日は賑やかだなぁ……祭りでもしてんのかねぇ」
若干、変態入った仮装の連中が町中にいるなぁ、とお気楽なものである。
ホロヨイ気分の所為で、自分がいつの間にかヴァーチャル世界に入っていることに気付いていない。
暴れるフランの波動に吹き飛ばされ、人間が雨のように降ってきても、ぱちぱちと拍手する始末。
「いい余興だなぁ。なぁあんた、こっちで一緒に飲まねぇか?」
「そんな場合か! こちとら吹っ飛ばされてきたんだよ!」
「ちぇフラレちまった」
その時、波動を纏ったフランが目の前に降り立った。
彼女は垂と酒瓶に目をやり、
「堕落した者よ。神、自ら汝の罪を裁きましょう。悔い改め……」
「はっはっはっ! こりゃあいいや!」
豪快に笑って、馴れ馴れしく神の肩に手を回す。
「とんでもねぇあたしゃ神様だよってか。お前、もう一杯引っ掛けてんのか、やるじゃん!」
「ウッ! 酒臭い!」
「へっへっへ、一緒に飲もうぜー☆」
「飲みませんっ。神にぺたぺた触んないで下さい。神はヨッパライが嫌いなんですっ」
「酔ったうちに入んねぇよ、こんなの。『酒は飲んでも飲まれるな?』いやいや『酒を飲むなら瓶底まで(一旦酒を飲み始めたら、その場にある全ての酒を飲み干すまで飲み続ける、と言う意)』だろ?」
「聞いたこともありませんわ!」
「まぁまぁグィっと」
有無を言わさず一升瓶を口に突っ込んで無理矢理酒を飲ませる。
するとフランの目がみるみる据わった。
「どうだ、神様? ンマイだろ?」
「ひっく……悪くないれすわ。ただ肴がほしいろころれす……」
そう言うと、神様は遠巻きに見てる普通の人たちをジロッと見た。
「なにしてるんれすかぁ、気の利かない愚者れすわねぇ! とっととスルメと柿ピー買ってくるのれすわぁーーっ!!」
また波動をぶっ放して、人々にパシリを強要する神様。
どうもこの神様、酒乱の気があるようなのだが、基本普段とすることは同じだった。
垂、レアリティ【アンコモン】。
どこからともなくワッショイワッショイと声が聞こえた。
黒山の人だかりを引き連れ、向かってくるのは神輿。
神輿の上に乗るのは、変態四天王の1人、エロい女こと雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。
担ぎ手はより選りのイケメン。色黒のワイルド系、爽やかなスポーツマン、ストリートのお洒落系男子まで、褌ひとつで逞しい身体を晒している。
しかしその表情は皆、憂鬱そう。彼らはこの世界に囚われた普通の人、レアリティで言えば【コモン】の人たちだ。
そんな人たちをリナは絶大な力でもって支配している。
やはりここはリナにとって理想郷だ。変態度という実社会ではくその役にも立たない項目が、この世界では神にも匹敵する力を与えてくれる。
普段なら言いよっても恐れをなして逃げていくイケメンが、ここでは恐れをなして屈服してくれるのだ。
ひとたび、彼女が「太ももをさわさわしなさい」と言えば、はい喜んで、と居酒屋のようにご奉仕してくれるし、「首筋をぺろぺろしなさい」と言えば、失礼します、と丁寧に快楽を与えてくれる。
まぁ皆その時は沼の底のような表情をしてるけど。
「オホホホホホ! ガチャに金をつぎ込むなら私に使いなさい! 私に投じた金額に合わせて私のレア度が上がっていくのよ!」
グラビアアイドルのようなポーズを決めると、もっと過激なのを、とのコメントとともにちゃりんちゃりんと空からお金が降り注ぐ。
しかしこれはゲームというよりエロサイトの課金のような……。
男装の麗人ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)は執事のように付き従いながら、リナを呆れた目で見ている。
ーーまぁでも、この立場も悪くありませんね。担ぎ手の男達の肉体をむさぼるようにベファは見た。体育会系の男子が大好物の変態【アンコモン】なのだ。男子の身体にはうるさく、ただ筋肉ががあってもダメ、筋肉と脂肪の適度なバランスを理想とする彼のお眼鏡からしてみても、リナの集めた性奴隷はなかなか上物揃いだった。
「……止まりなさい」神輿の進路に、フランと垂の姿があった。
「何のお祭りかと思ったら、これだったのか。で、これ何のお祭りだ? 男祭りか?」
からからと笑う垂の横で、フランは気に食わなそうに一升瓶をあおった。
「……ひっく……神の前でなんれすかぁ! そんなみだらな! 色欲の罪れす!」
「ふふふ、持たざる者の嫉妬が心地いいわ。あんたみたいな、貧相な小娘じゃこれだけの男を虜にはできないでしょうね」
「む……っ!」
その時、フランの身体がピンクに光った。天音がバラまいた変ムスパワーアップ素材の”エロ“が彼女に力を与えたのだ。
「神をなめないでくらさいっ!」
そう言うと、フランはおもむろに服を脱いで下着になった。
色白の肌に纏う白の下着は清楚だが、なるほど、確かに胸は全然ない。けれど、それがいい。
ちゃりんちゃりんと空からお金が降り注ぎ、フランに課金された。
「な、なんですってぇ!」
世の中にはこういう言葉がある。貧乳はステータス。未だ荒野で暴れているだろう詩穂にも届けたい言葉だ。
しかしリナも負けていない。
その瞬間、ちゃりんちゃりん、と額の課金がなされた。
「え? M字開脚も女豹のポーズもしてないのに? どういうこと?」
彼女には太い客がいるのだ。
外からゲームをプレイする天音とリナは友達だ。
つい応援したくなるよね、と微笑を浮かべながらクリック連打。
レアリティがこれで一気に【スーパーレア】に到達した。
「誰だか知らないけど、ありがと。と言うわけで、私の方が上みたいね、貧乳女!」
「むむむ……! ほら、もっと課金してくださいよ! 画面の前の愚者達!」
フランは後ろを向いてブラを外すと、バンソーコーをB地区に貼付けて振り返った。
ちゃりんちゃりんととんでもない額の課金がなされて、レアリティが【スーパーレア】に。
「どうれすかぁ!」
「ま、負けてなるもんですか! こうなったら、パンツを脱いでガムテで……」
「おう、いいぞ。行くとこまで行っちまえー」
垂は2人の裸に乾杯。
天上知らずのゲームはまだ続きそうだ。
「ふぁーっはっはっは!」
高いところでたなびくマフラースカート、セーラー服女装姿で仁王立ちする影があった。
その性、剛胆にして天の邪鬼。幾度となくシナリオで服を置き去りにしてきたあの男。
ここが変態の巣窟ならば、この男の不在など有り得ない。
そう、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)だ。
「オレをただの変態と扱いやがって! 何たる不名誉! 不遜なやつだ!!! 変態は変態でも変態紳士! し! ん! し! をつけろバカ! と
言うかピュアピュアな紳士なんだぞ! もう激おこだ! 倍返しだ!!! これはオレも真の実力を発揮させねばなるまい!」
飛び上がった鬼羅は、ジャンプ中に3回転ひねりを加えながら脱衣して全裸に。
語尾に「〜全裸で」と付け足してもいいぐらいの堂々とした全裸だった。
だが全裸と言えど股間は見えない。ま、まぶしい。股間がまぶしすぎる。
いつも全裸の股間を上手いこと隠してくれる逆光。
だが、これは自然光ではなかった。
「解説しよう。股間の謎の光は実は『裸ーの鏡』という神器だったのだ!!! 絶妙なタイミングで股間を隠して光り俺の神々しさをアピールしているのだ!!!!」
裸ーの鏡が一条の光となって空を指した。
「む、これは……!? その光が指し示す方向に! 他の神器が!!! 感じる……感じるぞ! 神器は引き寄せられる……ふふ待っていろよ、クド! 切!!」
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