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黄金色の散歩道

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広がる漣
 
 
 秋の祭を終え、更に季節は移ろい、深まる秋に、エリュシオンのミュケナイ地方首都、ルーナサズでは早々に冬の準備が始まっている。
 雨の少ないルーナサズは、雪もそれ程多くは無いが、山地から吹き下ろす風の影響で寒く感じる。
 また酒場では、祭で飲み干した分の仕入れに余念が無かった。
 龍鉱石の採掘場は冬季完全閉鎖となり、『冬篭り期』には、鉱夫達の多くが酒場に入り浸るのだ。
「ツケ払いの奴も多いけどねえ。ああ、龍騎士様は最近姿を見かけないけどどうしたのかねえ」
 聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)と世間話をする、行き着けの酒場の給仕のおかみが、大袈裟な溜息をひとつついた。
「龍騎士様?」
 出てきた名前に聖が首を傾げると、おかみは笑った。
「まあ基本的にあの方は、街をブラブラして適当な酒場で飲んでるだけだけど、あの方がいると、酔っ払い共も暴れたりしないからね。誰も敵いやしないから。冬迄には戻って来るかねえ」
 世間話をしながら食事を済ませて、店を出た聖は、少し歩いて、周囲の視線を集める見覚えのある顔を見かける。先日の祭で、少し話した青年だ。
 身分に似合わず、従者を一人だけ連れ、馬等ではなく歩いて移動している。
「こんにちは。
 先日は、うちのお嬢様のストラップ付きルグスをご購入頂きありがとうございました。何処かへお出かけですか?」
 近くで見れば、相変わらずの美貌に、立ち振る舞いも高貴だった。
 選帝神の弟、イルヴリーヒは、聖の挨拶で彼のことを思い出したようで微笑む。
「城に戻るところです」
「お時間があるなら、少しよろしいですか? 昼食がてら」
 聖は既に昼食を済ませているが、軽く食べただけだから、もう一軒くらい大丈夫だろう。
 そうですね、とイルヴリーヒは近くの野外テラスを見る。
「今日は天気もいいですし、あそこにしましょうか」

 港町ミュケナイの領主でもあるイルヴリーヒは、そろそろ戻らなくてはと思いつつ、未だルーナサズに留まっているのだという。
「ちょっと、友人が心配で」
「友人?」
「……我々も彼が好きなので、此処を、家だと思ってくれるといいなと思うのですが」
 そう呟いたイルヴリーヒは、首を傾げた聖に微笑して、それ以上は言わない。
「ミュケナイの側にある島は、地熱で暖かいとか。温泉も出るかもしれませんね」
 不思議に思いつつも、聖は別の話を振った。
「温泉?」
「実は、ジェルジンスクの温泉開発に、少し関わらせて頂きました。
 ルーナサズにもそういう候補地があれば、と考えていたのでございますが」
 本題はここからだ。聖は、少し声をひそめた。
「この土地は、水は貴重と聞いておりますが、先日ユグドラシル様から気になることを耳にしまして」
 コーラルワールドで、擬人化したエリュシオンの世界樹、ユグドラシルと会った時、ルーナサズの水事情について問うた聖に、彼は言ったのだ。
「『ルーナサズ……ああ、水脈が塞がれているところか』と。何か、心当たりはございますか?」
 イルヴリーヒは、少し周囲を気にするように視線を左右に走らせた。
 通りを歩く者達の視線を集めてはいるが、それはいつものことで、特に、自分達の会話を気にしている者はない。
 また聖には判別できないでいたが、近くに立っているイルヴリーヒの従者は実はゴーレムなので、密談を解される心配もない。
 視線を聖に戻し、彼は苦笑した。
「あります」

 この地方には、地下水脈があると言われている。
 この地の領主は代々、その水脈を探し当てることを使命のひとつとしてきたが、未だ達成できてはいない。
「水脈は、龍王の存在によって霊的に封印されているのです」
 意図的なものなのか偶発的なものなのかは知る由も無いが、そもそも先にこの卵岩があったところに人が集まって街を作り、更に龍王の恩恵によって成り立っているのだから、龍王に責のある話ではない。
 が、それでも、住んでいるからには尚豊かな生活を求めるのが業というものだ。
「ユグドラシル様よりのお言葉と仰いましたね」
 頷くと、イルヴリーヒは考え込む。
「興味深いお話を有難うございます。この件は兄に伝えます」
「何か……?」
「ユグドラシル様がその件について仰られたのであれば、何らかの働きかけをして下さった可能性があります。
 今後調査して行きます」
「よろしければ、その仕事に私も関わらせていただけませんか?」
 聖の申し出に、イルヴリーヒは是非、と微笑んだ。