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黄金色の散歩道

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家族

 すっかり秋も深まり、紅葉の時期を迎えた頃。
 ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、歩兵科准尉としての任務に明け暮れていた。
 今までと変わったことといえば、ジェイコブの妻であるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)は年明け早々に出産を控えて、事務職に回ったことだろうか。
 妊娠五ヶ月を迎えたフィリシアのこと、そして遠くないうちに産まれてくる我が子のこと。
 パートナーとして共に戦場を生き抜いてきたフィリシアとの過ごし方も少し変わった。
 冬には産休に入って、出産準備を迎えることになるだろう。
 ジェイコブは新たな環境の訪れを、少しずつ実感しつつあった。
(人の親になる……か)
 新しい家族が増える。それは、ジェイコブたちが親になるということだ。
 その日が刻一刻と近づくにつれて、今はどうしようもなくとも、あれこれと色々なことを考えてしまう。
(……こうして考えていても仕方ないな)
 なるようにしかならない。そう自分に言い聞かせて、ジェイコブは細かいことを考えないようにとしていた。

 そんな日々を繰り返したある日、ジェイコブとフィリシアは二人揃っての休暇が取れた。
 フィリシアのお腹も目立ってきた。子どもも順調に育ってきているようだ。
「少し、散歩にいかないか」
 ジェイコブは、あまりフィリシアが家に閉じこもっていても胎教に悪いだろうと考え、フィリシアを外へと誘った。
 気分転換にちょうど良いわね、とフィリシアも快諾して、二人は表に出てきたのだった。
「もうすっかり秋になりましたわね」
「ああ」
 官舎の周囲にある並木通りを二人並んで散歩していると、足元に降り積もった枯葉がさくさくと乾いた音で鳴った。
 ジェイコブは、自然とフィリシアを支えるようにして、そっと寄り添った。
 そんなジェイコブの気遣いに気づいたフィリシアは、幸せそうに微笑んだ。
 フィリシアはジェイコブの腕に自身の腕を絡めて、反対の手で我が子のいるお腹をさする。
 こうしているとなんだか恋人だった頃のような気持ちが戻ってきて、フィリシアは出産をもうすぐに控えていることを忘れそうにもなる。
 フィリシアに腕を組まれたジェイコブは少し気恥ずかしい思いをしながらも、歩く速度をフィリシアに合わせて落ち葉を踏みしめた。
(……いつまでたってもこの辺りはまだガキと変わらんじゃないか)
 内心そう自嘲しながらも、微笑みを浮かべて隣を歩くフィリシアを見る。
 こうして、最愛の妻と、そしてこれから生まれる子どもと一緒に歩いている。それが、どれほど幸せなことか。
 ジェイコブとフィリシアは二人きりで、そして家族三人で、深まりゆく秋の気配を感じていたのだった。

 しばらく散歩をしたジェイコブとフィリシアは、オープンカフェで一休みすることにした。
 ジェイコブは初めて行く店だが、実はフィリシアの通っていた場所だ。
「随分と、風も冷たくなりましたわね」
「そうだな」
 フィリシアがカップに口をつける。ジェイコブもエスプレッソのカップを取り上げ、柄でもない、と思いつつも一息つく。
「事務の仕事もだいぶ慣れてきましたわ。自分のしていた仕事を別の方向から見ると、何だか違って見えて」
 フィリシアは上機嫌に、久しぶりのジェイコブとの外出を楽しむように次から次へと様々な話をした。
 元々無口なジェイコブは専ら聞き役に回り、黙って相槌を打ちながらフィリシアのおしゃべりに付き合った。
「秋が終われば、冬が来る。年明けは、すぐですわね……」
 ふと、フィリシアの言葉が途絶えた。少し肌寒い風が抜けていく。
 「……これが家族になるってことか」
 ジェイコブが、フィリシアを見つめてぽつり呟いた。
 フィリシアも優しくお腹に手を当てて、小さく笑みを浮かべた。
「……ええ。そして、この子もやがて、私たちと同じように……」
 家族になる。世代を繋ぐ。人の親になることの不安は尽きなくても、それがどれほど幸せなことだろうか。
 その想いはジェイコブだけでなく、フィリシアにとっても同じだ。
 ジェイコブは静かに微笑むフィリシアを見つめて、どこかはともなく湧き上がってきた幸福感に身を委ねたのだった。