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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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第10章 空を引き裂くもの(図書館)

 空が、ひび割れた。

 目にした瞬間、キアは図書館の外に飛び出した。
 すぐさま陸斗が、そして黎達が後に続く。
「サンクチュアリが使える人は張って!、攻撃出来る人は攻撃して! あれを出しちゃダメ……喰われる前に、押し戻して!」
「あれを攻撃すれば良いのでありますね」
 真っ先に反応したのは比島真紀だった。軍人たるもの、戦場では一瞬の隙が命取り……それは身に叩き込まれた習性だった。
「いけるか?」
「あんなデカい的、外したらスナイパーの名折れであります」
 狙撃用ライフルを構え、発砲。
「同感であります」
 やはり姿を隠したままクリスフォーリル・リ・ゼルベウォントが、アサルトカービンにログバレルを装着したライフルでの狙撃を試みる。
 流石にシャンバラ教導団に所属する者は冷静で、正確だった。
 二発の弾丸は空を裂き、亀裂に突き刺さった。

 そして、空気が震える。

 聞く者の魂を凍りつかせる、生き物めいた『音なき音』。
「くっ……っ!?」
 ヴェロニカは咄嗟にエンデュアを使っていた。
 精神を強く保つ。
 そうでもしないと、恐怖にすくんでしまうような、魂が壊されるような、それはそんな『声』だった。
 証拠に、パタパタと倒れ伏す生徒や、しゃがみ込む生徒が続出する。
 ただ、一声だけで。
「しっかりして下さい!」
 メイベルや伽耶が治療に当たるが、その表情は険しかった。
「このままじゃ、みんな……」
 その中、キアはパートナーを振り返った。
「ごめん陸斗、あんた死ぬかも!」
「いいよ、そういう契約だしな」
 苦笑し、井上陸斗はキアから剣を抜いた。
 ふっと息を吐き、構える。
「ちょっと待て陸斗殿!」
 今何かとっても不穏な発言を聞いた気がする……藍澤黎は陸斗の肩を掴んだ。
 魔法抵抗力を上げたのは、反射的。
 瞬間。
「我が魂を喰らい、力と成せ」
 剣から光が伸びる。
 黎の身体から急速に力が抜けていく。おそらく、陸斗からも。
 同時に。
 北都達の結界に阻まれ、真紀達の攻撃にさらされた『黒きもの』。
 空に入った亀裂に押し戻された、その瞬間。
 ペタン、空にばんそうこうを張るみたいに、光は亀裂を覆い隠した。

 がくりと膝を折ると共に、陸斗の手元から剣が消えた。
「……っぱ、キツ。てか黎、すまん」
 倒れる陸斗を黎は支え……ようとして、諸共に倒れ込む。
「謝らないで……本当に……怒る……」
「てかキミら本当に何やってんのや! とにかく保健室、直行やで!」
 顔を歪めるフィルラントが怒鳴りつつ、他の者達の手を借りつつ、黎と陸斗を保健室まで搬送していく。
 キアはいつの間にかその場から立ち去っていた。

「はいはい、ケガした人は順番に並んで〜」
 事態の収拾を確認してかに、赤月速人は片っ端からケガ人の手当てに回った。
「ヤケドは放っておくと痛いよ。後、気分が悪くなった人もちゃんと申し出る事!」
 ヤケドにはキレイなタオルを当て、気分が悪くなったという人には、冷やしたタオルを額に乗っけてやる。
 ちなみにヤケドは戦闘に参加した者が負ってい、気分が悪いと訴えるのは一般生徒や図書委員達だった。
「ちゃんと治しておかないと、な」
 メイベル達とも協力しながら、速人はケガ人病人を励ましつつ、手当を続けたのだった。



「何だろう、あれ」
 図書館に禁猟区を張ったままだった清泉北都は、危険を察知し足早に図書館に戻った。
 そこで目にしたのは、一冊の本。
 避難誘導の際にはなかったはずの、床に置かれた本。
 それが影に沈んでいく、影が本を呑み込む。
 そんな在り得ざる光景であった。
「何にしろ見過ごせる事態じゃなさそうだねぇ」
 本に当てないように、デリンジャーを発砲する。
 影は床にとけるように消え、後には本だけが残った。
 それは背表紙の厚い古びた本だった。
「これが狙われていた……?」
 手に取ろうとした北斗はただでさえ大きな目を更に見開いた。
 触れられないのである。
 まるで何か見えないバリアーでもあるみたいに。
「全く、妙に勘の働く人がいるってのも考えものね」
 と、溜め息まじりの声がした。
「これを開くには資格が必要なのよ。」
 声の主……キアは言って、本を拾い上げた。
「開けないその本。その本には、封印されているモノの正体や、巫女を解放する方法が記されているんじゃないか?」
 やはり図書館の資料を案じていた仮面ツァンダーソークー1……風森巽が、問うた。
「そんな便利なアイテム、あるわけないでしょ」
 対するキアは静かに笑んだ。
「本当に、大した事は書いてないのよ。そうね、一人の可哀相な女の子の話。生まれたばかりの頃に大いなる災いを封印され、長じて災いと呼ばれ閉じ込められた女の子。そして、暴走し身体を失い、魂を御柱に拾われた、可哀相な女の子の話」
 こんなの見たら、戦い辛くなるでしょ……キアは溜め息をついた。
「御柱があぁなった以上、あの子を倒すしかないのに……踊らされてるのよ結局、やつらに」
「やつら?」
 巽に対する答えは一言。
「鏖殺寺院」


「やっぱ和食っていいよなぁ」
「中々良い食材を使っておるな」
 ようやく落ち着いたカフェテラス。ケイとカナタは遅い昼食に舌鼓を打っていた。
「それにしても、あれ……何だったんだろ?」
「分からぬ。が、酷く危険で邪悪なものであったのは、確かである」
「そっか」
 蒼空学園で起こっている異変。だがそれは本当に、この学園内だけの問題なのだうか?、ふと思うケイの皿から里芋の煮付けが一個消えた。
「いらぬなら、わらわが貰ってやろう」
「あっ、それは今食べようと思ってたんだよ!」
 ケイの喚き声は、幾分暑さの和らいだ空に楽しげに響いた。

「はぁ〜、生き返りましたわ」
 涼しい校長室で飲む冷たいジュースって最高! 一息つくエリシア・ボックに苦笑してから、影野陽太は眼前の人物……御神楽環菜へと視線を移した。
 既に事の顛末は報告してある。
「世界の異変、鏖殺寺院の暗躍……今回の事も何か関係があるのかもしれないわね」
 ゆっくりと太陽が沈んでいく中。
 環菜の言葉はどこか重く苦く響いた。

「無事に終わって良かったな」
「うん。図書館が守れて良かったね」
 一応、全てが終わった。終わった、と言い切ってしまっていいかどうか、正直自信はなかったが、それでも。
 沈みゆく夕日を眺め、夕緋はふと気づいた。
「そうだな。頼み事をした以上、礼をするべきだ……何が良い? 但し、出来る範囲で、になるが」
「そんな、お礼なんていらないよ」
 夕緋の申し出に、セルマは慌てて首を振った。
 サラマンダーを止める事が出来たのは嬉しいし、夕緋からのお願いなんて滅多にない事で……少しでも役に立てたなら、嬉しいし。
「だけど、そういうわけには……」
「じゃあ……せっかくだから一緒にケーキとか食べに行こう?」
 ドキドキしながら言ってみる。上目遣いで伺うと、夕緋は何だか肩透かしっぽい顔をしていて、セルマは慌てた。
「あの、ダメなら別に……」
「いいけど……そんな事でいいのか?」
「うんっ!」
 大きく頷いて、とびっきりの笑顔を浮かべるセルマ。
 オレンジ色の夕日に照らされたその笑顔に、夕緋は思わず見惚れてしまったのだった。