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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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第2章 救助作業

 爆音と砂煙を目にして、蒼空学園の七枷 陣(ななかせ・じん)は、パートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)小尾田 真奈(おびた・まな)と共に、別荘があった場所へと興味本位で駆けつけていた。
 現場で呆然としている者に状況を尋ねたところ、瓦礫の下には多くの人が埋まっているという話ではないか。
 単なる野次馬でしかない陣達としても、さすがにこれは放ってはおけなかった。
「リーズ、真奈! 手分けして瓦礫から皆を発掘! 引きずり出した順に手当せぇよ!」
 ただ、その別荘には、なにやら巨大な物体が埋もれていることから救出作業がなかなか開始できずにいるらしい。
 その巨大な物体をこの場に召喚した悪魔がこの辺りにまだ潜伏しているという話だ(しばいた不良談)。

 イルミンスールのいんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)は、ガクリと膝を落とし、怒りと悲しみにくれていた。
「別荘に向かった人まで生き埋めになって死んでしまうとは! せめて、遺体だけでも見つけないと……」
 よろよろと立ち上がり、炎が燻っている瓦礫の方へと、1歩、足を踏み出した。
「お前か! 噂に聞く崩れた顔! その1度見たら忘れねぇほどの醜さ、貴様が諸悪の根原、ぽに夫だな!」
「な、なんですと……」
 ぽに夫は突然の予期せぬ中傷に、ぎょろりとその声の主に目を向けた。
「アンタ、人が怪我したんだぞ! 一杯人が怪我したんだぞ! 遊びで別荘壊してんじゃないよ! 別荘は……別荘は憩いの場なんだ! 別荘はここの人達を支えているものなんだ! それをこうも簡単に失っていくのは。……それは、酷い事なんだよ! 何が楽しくて別荘を壊したんだよ!」
「つまり、ここは鏖殺寺院の憩いの施設だったと? くっ、あなたは人々を実験材料にしておきながら、自分達には憩いの場だったと、そう主張するんですね!?」
「アンタのような人はクズだ! 生きてちゃいけない奴なんだ!!」
「よくもずけずけと現れたものですね! 恥を知りなさい、俗物!」
 話が全然かみ合ってないが、互いに頭に血が上り、攻撃態勢に入る。
「覚悟しろ!」
「だごーん様、万歳!」
 呪文の詠唱を始めた陣に、ぽに夫はホーリーメイスを振り上げて、ただひたすら突撃をする。
「あた……っ、食らえ、ファイブフレアー!」
 陣はゴスゴスッと、打撃を食らいながらも火術を連続で打ち放つ!
「ぐはう……っ」
 精神力尽きるまで放ちまくり、ぽに夫を火達磨にする。
「ただの火術とは違うんだよ! 火術とはぁ!!」
「だごーん様ぁぁぁぁぁぁ」
 炎に巻かれながら、ぽに夫は天を仰ぎ、地に伏した。
「勝った! これにて別荘編完!!
 陣はさわやかな笑顔を浮かべて、暖かな太陽の光を存分に浴びる。
 ボスを倒し、世界に平和が訪れたのだ。
 しかし全てが終わったと思われたその瞬間、陣にはただの巨大マスコットとしか見えていなかった巨獣 だごーん(きょじゅう・だごーん)がのっそりと動いたのだった。
 ぷちっ
 気持ちの良い音と共に、若い命が1つ潰れる。

 ……ここでお話が終わったらこれから登場するはずだった沢山の善良なコメディアンが泣きます!
 たごーん様は人々の夢と希望を守って下さったのです。

 万歳
 万歳!
 万歳!!

 一方、リーズは言われたとおり、瓦礫に埋まっている人々を引きずり出そうとしていた。
 小さな体で瓦礫を一生懸命持ち上げて、誰もいない場所に放り投げ、半身が埋まっている相手をぎゅっと抱きしめて引きずり出す。
「んに〜! っと、もう大丈夫だ……よ。って、うわぁ……この間のオジさんかぁ」
 見覚えのある顔だった。
 近くの集落に立ち寄った際、ナンパしてきた老け顔の少年だ。
「しょうながいなぁ、もう……」
「っ……いてぇだろうが!」
「生きてる証拠だよぉ。よかったねぇ、命あってぇ……」
 リーズは消毒液で簡単に消毒を済ませると、傷口に包帯を巻いてあげた。
「はい、手当完了! ボクもう行くけど、救助の邪魔だけはしないでよね!」
 指をさしてびしっと言い、リーズは救助活動に戻っていく。
 ……だけど、リーズの小さな体では、動かせる瓦礫は限られている。足場もとっても悪かった。
「でもやんなきゃ! んにぃぃ! ……え?」
 瓦礫が突然軽くなる。横から伸びた白い腕――先ほど治療をしてあげた不良の少年がリーズが持ち上げようとした瓦礫を持ち上げて、遠くへ飛ばしたのだった。
「オジさん……!」
「オジさんじゃねぇ! 泣かすぞ。ダチが埋まってんだよ」
「にはは、ゴメンねにーちゃん! 手伝ってくれてありがと! あ、そうそう……」
 何故か自分の腰辺りに手を添えている不良の手を、リーズは肘で叩き落す。
「今度ヘンな事したらホントに脳天叩っ斬るからね☆」
 にぱーと笑みを浮かべると、不良は一歩後に下がるのだった。

 真奈の方は、別荘が倒壊した大きな原因であり、救助の邪魔をしている存在――メカ ダゴーン(めか・だごーん)の上に降り立って、身体を見て回っていた。
 同じ機晶姫とはいえ、ダゴーンの構造を知っているわけでも、機晶姫を製造する知識があるわけでもないので、本格的な修理はできはしないけれど、状態の確認くらいはできる。
「……これは不味いですね。急いで回復させませんと」
 意識を取り戻し、暴れだそうものなら被害が更に広がってしまう可能性がある。
 急いで、主人である陣のところに戻るが……主人である陣は、何故か地に伏してぺったんこ。血だらけでぴくぴく震えていた。
「……良い夢を、見させて貰ったぜ……ぽに夫、さ……ん」
 その言葉を最後に、陣は動かなくなった。

 蒼空学園のリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)、それからパートナーのグロリア・リヒト(ぐろりあ・りひと)シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)レイ・パグリアルーロ(れい・ぱぐりあるーろ)は、しっかり者のグロリアが早い段階で皆の手を引き、背を押して屋敷から避難をさせていたため、全員無傷だった。
「こんな、こんな残虐な破壊活動が計画されていたなんて……。オレには止めることが出来ませんでした……」
「そんなことより救助活動。人命第一」
 うな垂れるリュースの背をバンと叩き、さばさばした口調で言いグロリアは救助に向かう。
 そんなことよりという言葉にひっかかりを覚えるも、リュースは包帯など、看護に必要なものを買いそろえに集落へ向かうことにする。
「はい、お水。一息ついてくださいね」
 シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)は、気になる相手に近付いて、水の入ったバケツを渡した。
 見上げるほど大きなその相手とは、薔薇の学舎の変熊 仮面(へんくま・かめん)のパートナー巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)だ。
 変熊の姿はここにはない。
「あの……子供の頃、どんな栄養を摂ってたんですか?」
「知らんわ」
 真剣にシーナが問うも、イオマンテは不機嫌そうに顔を背ける。……可愛らしいクマのきぐるみ姿のままで。
 ふふふっと微笑んで、シーナは手を伸ばしてイオマンテの手に触れて、そっと撫でた。
「元気が出るおまじないです」
 本当は頭を撫でたいのだけれど、流石に座っていても10メートルほど上の位置にあるイオマンテの頭には触れることが出来なかった。
「お水足りなかったら、呼んでくださいね」
 そう言葉を残すと、シーナは水筒を持って水場に駆けていく。
 シーナの姿が消えた後、イオマンテは水をあおるように飲み、大きく息を付くと、巨大なクマの縫ぐるみ姿で瓦礫を撤去していく。……変熊に命じられているので、仕方なく。

 守護天使のレイは、ぽに夫の様子が気掛かりでもあったが、真奈の要請を受けてメカダゴーンの上に降り立った。
「大丈夫?」
 声を掛けても返答はない。不協和音の電子音が鳴っているだけで。
 側に降り立って、ヒールを唱える。
「あ、ゆっくり起き上がってね。移動はこっちにね」
 レイは起き上がったメカダゴーンを更なる被害を呼ばないよう、そしてメカダゴーン自身も傷つかないよう、人のいない方へと誘導する。
 ゴゴゴゴゴゴ……
 音を立てて、移動したメカダゴーンは、倒壊した別荘と、埋もれている人々を見て、良心回路が正常に作動し反省のあまり、オイルの涙を流した。
 レイはメカダゴーンの頭の上に飛び、小さな手で頭を撫でるのだった。
「シーナからこうすると元気が出ると聞いたので」
 メカダゴーンは機械音を響かせ、両手でハートマークを作りラブ&ピースを表現し、レイにSPリチャージを放つ。
「ありがとう。あのあたり、人が埋まってると思うの。お願いできる?」
 ゴゴゴゴゴゴ……
 レイが示した場所へ、メカダゴーンは移動をし、救出作業を手伝っていく。