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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション

「あぁっ、ネズミさんが丸焼けに!」 
 少し離れた場所で、瓦礫の撤去作業を行っていたファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)も、ネズミの無残な姿に心を痛めた。
「なんて酷い事を!」
 と、言いつつも。
「……美味しそう」
 よだれを溢れさせる。
「それ、なんだか危険な臭いがするぞ。食べるのはやめておけ」
 薔薇学の早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が、パートナーのファルを止める。
 漂う異臭は、肉が焦げた美味そうな匂いではない。尤も呼雪は元々ネズミを食したりしないが。
「風向きに注意が必要なようですよ。この臭いも有毒なようですから」
 未沙の呼びかけを耳にし、ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)も、ファルに注意を促す。
「おや……?」
 退かした瓦礫の下に、意識を失った女性の姿があった。ユニコルノは手を伸ばして、女性を引っ張り出す。
「大丈夫ですか?」
「……っ、大丈夫じゃ、ねぇっ。てめぇら……!」
 突如、意識を取り戻した女性はユニコルノの首を絞めかかる。
「はいはいはい、怖かったねぇ、大変だったねぇ、みんなみんないきているんだともだちなーんだー♪ っと」
 タイミングよくカガチが止めに入り、女性をユニコルノから剥がすと、ひょいっと抱き上げてテントの方へと連れて行く。
「…………」
 首を絞められた時に、思い切り胸が当った。
 あれは間違いなく、ないすばでぃー族の女性だった。
 カガチの腕の中で暴れている女性をじろじろと見ながら、ユニコルノはぽつりと呟くのだった。
「やはり、ないよりはある方がよいのでしょうか?」
「こ、これは……」
 瓦礫をどけた呼雪も珍しいものを発掘していた。
「あ、なんだ、変熊かと思ったらただの変態か……」
 袋を被った全裸の男が倒れていた。
 とりあえず、引きずり出して、手早く止血に添え木にと、応急処置を施す。ヒールはなんだか勿体無いので使わない。
 そして無残な姿で放置もアレなんで、青いビニール袋を被せ――たら窒息するんで、瓦礫の中に挟まっていたシーツのような布切れを引っ張り出し、顔……じゃなく下半身に被せておいた。
「っと、これは大変」
 救助作業に戻った呼雪は、剣の花嫁の漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)を発見し、即座にヒールをかけて瓦礫の中から救出した。
「大丈夫か? 刀真も必ず見つけ出してやるからな」
 そう月夜を励ます呼雪だったが。
「ありがとう」
 一言だけ礼を言った後、月夜は全裸の男の元に歩み寄りビニール袋に手をかけた。
「……月夜」
 ビニール袋の中には、蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)の顔があった。
 体の痛みに顔を顰めながら、刀真が身を起こす。
「ゴキブリンガーとか変能マスクとかアホな事ばかりやってゴメ……ぐふっ」
 途端、月夜のいつもの2倍の威力の捻りのきいた右ストレートが刀真の腹に決った。
「刀真だったら二倍で殴るって言った」
「ぐふげほごふ……」
 刀真は口から赤い液体を吐いていく。
「謝る位なら最初からしない」
「はい……」
「お2人さん、限りあるヒールは大事にしないとね。今は力を合わせて救助活動をしよう」
 しゅんとした刀真があまりにも可哀想で、呼雪はヒールをかけてあげた。
「ここは任せておけ。一緒に治療してやるからな!」
 そこへ、白百合団のミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が目を回している不良を一人引き摺って現れた。
「それじゃ頼んだよ」
 呼雪は救助に戻ることにする。
「どうか安らかに……なむなむ」
 ファルはその間、トメが作った墓の隣に、ネズミの墓をつくり、ネズミと潰れていたり現在進行形で駆除されているゴキブリの死骸を埋めて、手を合わせていた。
 つんつん、と肩を叩かれて、呼雪は振り向く。
「やはり、ないよりはある方がよいものでしょうか?」
 ユニコルノがまた1人救出されていく水商売風のパラ実の女性に目を向けて呟く。その女性もまた、ないすばでぃー族だった。
「……ん? なんだかわからないが、あった方がいいだろ(人手とか、命とか)」
「そう、ですか」
 表情を変えずに、ユニコルノは作業に戻っていく。
「さーて、作業頑張るよ。ユノちゃんも来てくれたし捗るよね! ……っと、こんなところにもネズミさんが! お墓に入れないと」
「いや、ファル。埋葬よりも救助を先にしてくれ……」
 呼雪は呆れ声を上げる。
 なんだろう……。捗っていない気がする。でも、片方は変態とはいえ、2人仲間を救出したし、きっとこれからは捗るはずだ、うん。
「治療完了だぜ!」
 爽やかな声に振り向くと、ミューレリアが刀真の治療を終えたところだった。いや、それは治療というか……包帯をぐるぐるに巻きつけただけだった。裸体よりはマシだがマシだがだが……。
「…………」
 深く考えてはいけない。皆頑張ってるんだ、うん。
 呼雪はそう思いつつ、救助に精を尽くすのだった。

 瓦礫の中で意識を取り戻したラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)は、どうにか這い上がるも、それ以上動けずにいた。
 見回せば救助活動に訪れている者が沢山いるではないか。
「ち……流石に治療が必要か……メディーック!! メディーック!!」
「お?」
 声を上げたラルクの元に、真っ先に駆けつけたのはミューレリアであった。
「よーし、こっちに来い、治療してやるぞ」
 彼女の側には、包帯が山のようにあり、その脇には包帯ぐるぐる巻きのミイラ立ちが量産され、寝かされていた。
「何をする気だ、お嬢ちゃん」
「勿論治療だ! 白百合団に入っての初仕事、頑張るぜっ」
「……す、すまん。動けない。ぐふ、誰かヒールをヒールを頼む」
 ラルクは胸に手を当てて倒れる。分厚い胸には傷1つないが。
「そうか、それは大変だ! 呼雪、重傷患者だ」
「ん? ああ、これは今度こそ非常に有望な人材だ」
 ラルクを発見すると、呼雪は貴重な精神力でヒールをつかって、ラルクを癒すのだった。
「うおおお!! おっさん元気ばりばりだ! つー事で暴れてる残党でも倒してくるか」
 ……しかし、癒すなりラルクはあさっての方向に駆けていってしまった。
「ったく、救助が優先だろうが、救助が。さ、頑張るぞ」
 ミューレリアは呆れ顔でそう言った後、瓦礫を持ち上げて、遠くへ放り始める。
「ああ、救助が優先だ。で、救助した奴はテントに運んだ方がよさそうだぞ、きっと、うん」
 呼雪は一応ミューレリアにそう言っておくが、爽やかな汗を流しながら誠心誠意で作業に勤しむ彼女の耳には入っていないようだった。

「あ、ガートルードお姐様だ! 見て、お姐様達も全員ご無事だったみたい。やっぱり救助活動してるのね。美しくてお優しい、完璧な人だわ〜」
 ガートルードの姿を見つけたは、エルの服の裾を掴みながら、尊敬の眼差しを向けるのだった。
「おお、さすが神と認めた女性だ」
 エルは満足そうに頷いた。
「う〜体があちこち痛いです。何だか悪い夢を見ていた気がします」
 ホワイトは、ヒールを1度だけ受けた後、エルと蒼と共に救助活動に加わっていた。
 最終的に自分より重傷を負ったエルだが、完全に傷が癒えていないにもかかわらず、なんか既に元気溌剌状態だった。
「助かったばかりだというのにエル様また良からぬことを考えていますね、そのだらしない表情をみればわかります」
「さて、こっちも頑張りましょう。埋まってたら、かわいそうだしねぇ〜」
 ふうと溜息をつきながらも、ホワイトは蒼と一緒に瓦礫を退かして生存者を探してゆく。
 ガコッと、大きな瓦礫を一塊、エルが退かした。
「今は女性優先ですから〜ごめんね! というか、この頭は不良ヘアーだね。何かイライラする頭だなぁ。あとでちゃんとゴミ箱まで運んであげるからね」
 そんなことを呟きながら、エルは頭がぱっくり割れて流血している不良の少年を放置して、その奥で救助を待っている女性に手を伸ばした。
「さあ、ボクに身を任せてくれ! 救護用のテントまで運んであげよう! その後は水辺でデートしようね、お嬢さん〜☆」
「うう……っ」
 苦しげに呻いている水商売風の女性をお姫様抱っこで抱き上げて、意気揚々とエルは女性をテントに運んでいく。
「しっかり〜」
 とりあえず、蒼は不良少年を助け出す。蒼のことは味方と認識しているらしく、大人しく身を任せてくる。
 ホワイトは無言でエルの後についていった。
 だけど、その後治療の手伝いと称し、女性の体にべたべた触れだした時点で、ホワイトはカルスノウトを繰り出す。
「ごふっ」
 峰打ちだが、改心の一撃に、エルは脇腹を押さえて蹲る。
「真面目にやってください」
「真面目にデートの誘いを……」
「まだ言いますか」
「真面目に食事の誘いをー!」
 ホワイトが剣を振り上げると、エルは這うようにその場から逃走する。
「待ちなさい、お仕置きです。逃げたって無駄ですよ? 足は私の方が速いんですから!」
「節操なくてゴメンねー!」
 ホワイトは諦めない。エルが反省するまで仕置をやめるつもりはなかった。
 エルも諦めない。女の子と女の子と女の子と感動的な出会いができるこの機会を逃してなるものかと。
 2人の追いかけっこはしばらく続きそうだった。

「……なんだか皆さんも大変そうですね。そして」
 瓦礫の前に到着したイルミンスールのシルヴィット・ソレスター(しるう゛ぃっと・それすたー)は、
「いやぁ、見事なまでの瓦礫のヤマですねぇー」
 と、にまりと笑みを浮かべる。
「まったく、どーしてこんな面白い事にシルヴィを連れて来てくれなかったんですかね!」
 見回して見るが、現地にいると聞いていた知り合いのぽに夫刀真の姿はなく、辺りには焦げた物体や量産ミイラが転がっているだけだった。
「うーん、見当たりませんねー。埋まってるんですかねー。ウィールー! うぃーるー!」
 名前を呼んで見るも、全く反応がない。
「そんじゃー」
 シルヴィットは大きく息を吸い込んだ。
「ゴーキーブーリー!!!」
「ぎゃーーーーーーっ」
「あ、なんか悲鳴が。ってことはアッチですねー」
 悲鳴が聞こえた場所に、シルヴィットが駆けつけると、必死で外に出ようとしている手がパタパタと瓦礫の中から飛び出ていた。
「クライノコワイヨークロイノコワイヨー……」
 呟き声の聞こえる周囲の瓦礫を退かして、その手を引き上げて現れた体にヒールをかける。
「マルイノモコワイヨー……」
「ウィル、ウィル? 地下に秘宝があるって話ですけれど、何か知ってますか?」
「クライノコワイヨークロイノコワイヨー……」
「うーん、コレは回復に時間がかかりそうですね」
 シルヴィットは真っ白に燃え尽きたイルミンスールのウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)を、地下を目指そうとしている者達の方へと引っ張るのだった。