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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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第4章 始動

 離宮本陣。
 地上とこの離宮の空間では、多少時間の流れが違うようだ。
 6人の封印が完全な形で成されていた頃は殆ど時間は流れていなかったようだが、封印が3つ解かれた現在は地上の2分の1くらいの流れとなっているようだ。
 今後も封印が解かれるごとに正常になっていくのだろう。
「戦況はどうですか?」
 と契約を果たし、物資と契約者数名を連れて離宮を訪れたソフィアが神楽崎優子に尋ねる。
「今のところ大きな被害は出ていない。宮殿へ向った隊は撤退をしたようだ」
 掻い摘んで状況を話して、優子はソフィアと資料の交換をする。
「離宮の位置特定の為に、指向性発信器を使わせてもらいたい。西の塔へはどう行けばいい?」
 到着したばかりの朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が優子に尋ねる。
「地上から行ってもらって構わない。サポートに団員を1人つけよう」
 そして、優子は白百合団員の少女に、千歳を案内して西の塔へ行くよう指示を出す。
「私はどこに行けばいい?」
 荷物を下ろして、白百合団員のミューレリアが尋ねる。
「一番人手が足りなくて困っているのは攻略隊だ。とりあえずは医薬品を持って別邸に向ってほしい。敵と遭遇する可能性があるだろう。及びあの別邸を利用していることが敵に知られると非常にマズイ。十分注意して欲しい」
「了解!」
 ミューレリアは返事をすると、援助に別邸に向おうとしていた百合園生から医薬品を半分預かって、共に別邸へと向う。
「私は魔法隊と合流をしたいんだが」
 携帯電話を手にテオフィラス・ヴェン 『魔術の真理』(ておふぃらすう゛ぇん・まじゅつのしんり)が言う。
 パートナーのカレンと連絡を取り合っており、魔法隊の状況は理解していた。
「地下道が気がかりでな」
 テオフィラスは宝物庫よりも地下道が気にかかっている。危険性もそうだが、利便性についても。
「地下道調査も急務だな……。西の塔に向かい、厩舎側にある地下道から宮殿の方面に向ってくれ。他の者も頼む。ただ合流後は現場の指示に従い、宮殿制圧が優先そうであれば、そちらに回って欲しい」
 優子は、テオフィラス。それからリカインアストライトにもそう指示を出した。
 それから、通信機でソフィア到着とそれらのことを皆に連絡をする。
「少し、休ませていただいてもいいでしょうか?」
 資料に目を通していたソフィアが疲れた表情で言う。
「隅の仮眠用のスペースを使ってくれ。助言をいただきに行くかもしれないが、状況が状況なんで体を休めつつも、力を貸していただきたい」
 優子がそう言うと、ソフィアは「ええ」と軽く笑みを浮かべて頷いた。
 そして円に付き添われて、天幕が張られた仮眠用のスペースへと向ったのだった。

○     ○     ○


 本陣の外に探索に出た者達は、利用している別邸と南の塔の中間、やや西よりの地点に小屋を発見していた。庭師などの作業部屋らしい。
「な、中から怪物とか出てこないよね」
「こうい時は、バンとドアを開けて、一旦下がるといいのかな」
 そんな会話をしながらゆっくり近づく百合園生を、アシャンテは後方で見守っていた。
 殺気看破、超感覚で探ってみるが、何の気配も感じられないので止めはしない。
「本陣からも近い場所に、小屋を発見したよ。禁猟区とかに反応ないけど中調べてみる?」
 乃羽が通信機で神楽崎優子に連絡をすると『よろしく頼む』という言葉が返ってきた。
「了解」
「慎重に行きましょうね」
 百合園生達と一緒に、乃羽とシーラは小屋へと近づいて、ドアを開けた。
 鍵はかかっていなかった。
「誰か居ませんか〜。居ませんよね」
 百合園生達はゆっくりと中に入っていく。
 アシャンテも近づいて、ドアから中を見回してみる。
「ほぼ倉庫、だな……」
 床に気になる箇所があり、近づいて取っ手を引き上げてみる。
 床に被さっていた蓋が持ち上がる。
「地下室?」
 乃羽が光精の指輪を使って、中を照らしてみる。
 太い梯子があり、その下には広い地下道があった。
「……例の地下道と繋がっているようだ」
「お、下りてみますか?」
 百合園生が緊張した面持ちで言う。
 アシャンテは首を左右に振った。
 このメンバーでの地下道の探索はやめておいた方がいいと考え、アシャンテはそのまま蓋を閉める。
「工具類があるくらいで、特に貴重なものとかはないけど、敵と遭遇した時にこの小屋に隠れることくらいはできそうだよ」
 一通り調べた後、乃羽は通信機で全体にそう報告をするのだった。

○     ○     ○


 宝物庫に向った班は、地下道出口から宮殿に向かい一気に駆け抜けた。
 通信機から、宮殿に向った攻略隊の方はやむなく撤退した旨の連絡を受けている。
 こちらは人数も多くグレイス以外はそれなりに力をもった契約者だ。敵に囲まれたとしても無傷ではすまないだろうが、突っ切ることは出来そうであった。
「開けるじゃん!」
 イーディが庫らしき場所に駆け寄って、グレイスの頷きを確認した後ピッキングで開錠する。
「とか、簡単にいくわけないじゃん……」
 ドアを開いたその先に壁のような分厚そうな扉が存在していた。
 扉を開けようと足を踏み入れた途端。
 部屋の中に明かりが灯り、置かれていた置物、柱が震え出す。
「侵入を防ぐ仕掛けのようですな」
 陳 到(ちん・とう)がディフェンスシフトを使い、警戒する。
「敵側ではなく、王族側が仕掛けていた番人というところでしょう。解除方法を探している余裕はありませんね」
 カレンに護られたグレイスがそう言う。
「敵の罠などは見当たらないようじゃの」
 周囲を見回し、シェリス・クローネ(しぇりす・くろーね)が言った。
「こちらは任せて下さい。早く」
「わかってんじゃん」
 ステラにそう答えて、イーディは扉の開錠を急ぐ。
 しかし、なかなか解くことが出来ない……。
「頑張って」
「アリアさん、ここに触れてください」
 イーディに声をかけたアリアに、グレイスが指示を出す。
 言われたとおり、アリアは扉に描かれた魔法陣のような模様に手を当てる。
「開いたじゃん!」
 イーディが声を上げる。鍵が開き、扉が開いていく。
「まずは安全確認だな、行くぜ!」
 真っ先に駆け込んだのはウィルネストだ。
 続いて、イーディが入り、異常なしという言葉を受けて、カレン、グレイス、アリアが駆け込んだ。
「任せて大丈夫ね。ダメと言われても行くけど♪」
 ドラゴンアーツで攻撃を一発置物に叩き込んだ後、ヴェルチェも扉の向うに飛び込む。
「中に入ってしまえば、中までは襲ってこないはずです。皆さんもご無理はなさらず!」
 フィルはスナイパーライフルで、置物を破壊しながら、シェリスと共に扉の向うへと走る。
「ステラも行け。自分は最低限ここの置物を砕いてから向う」
 イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)が武器を構え言う。
「任せますね、お気をつけて」
「火事なったら困るからの。魔法はやめておくのじゃよ」
 ステラと景戒も扉の奥へと進んだ。
 残ったイルマ、それから到も武器を抜き、置物や武器、迫り来る像達と対峙する。
 斬り込むのはイルマだ。
 ツインスラッシュで、一気に2本の剣を叩き落す。続いて、人型の像の肩にバスタードソードを叩き下ろす。
「こちらはすぐに片付くでしょうが」
 到はドアの先――外に厳しい目を向ける。
「あの者達はどうしたものか……」
 光条兵器のような武器を持った男達がこちらに向ってきている。
「数が多そうだ。この仕掛けを始末したら中に入り、指示を仰ごう。この扉は簡単には崩せぬだろうからなッ」
 言いながら、イルマは剣を振るっていく。

○     ○     ○


「見渡す限りお宝の山、ってか……」
 ウィルネストはまずは手を触れずに、歩いていく。
 宝物庫は学校の教室以上の広さがある。お宝というか、非常食なども置かれているようだ。
「なぁ、ホントに宝物庫なんてわかりやすい場所に女王器があんのか?」
 呟きながら、歩いていく。
「木を隠すには森の中……つったって俺らが使えるスキル程度で探せちゃうんじゃ、だれだって探せちまうよなぁ……」
 一つ、手にとってみるが、それは乾パンのような食料だった。時間が殆ど流れていなかったこともあり、食べることも出来そうだ。
「俺だったらもっと分かりにくいところに隠すけどなぁ……」
「女王器といっても、備わっている力はそれぞれだからね。ここに保管されたままになっているということは、古代の戦闘で使われていなかったんだろうし、そんなに凄い能力のある女王器じゃないんだと思うよ」
 言いながら、グレイスは箱を開けて中身を確認していく。
「そうだなー」
 ウィルネストは半信半疑状態で、トレジャーセンスの技能で宝物庫内を探し、価値のありそうなものを集めていくことにする。
「色々あるね……」
「でも、我慢じゃん」
 アリアとイーディ宝物庫内を回って、目を輝かせていく。
 つい持って帰りたくなるイーディだけど、今は我慢だ。
「これとか、どう!?」
 カレンが水晶球を見つけ出し、グレイスに見せる。
「……普通の水晶玉のようですね」
「当時の映像や音声なんかが記録されたものとかないかなー」
「キミは歴史に興味があるのかい?」
 グレイスの言葉に、カレンは首を縦に振る。
「ボクは宝物そのものよりも、それが示す意味や、それが何を語ろうとしてるかが知りたいんだ」
 価値があるだけのものには見向きもせず、過去を知ることが出来るような品にカレンは目をつけていく。
「あ、絵画とか、魔道書。こういうのは持ち帰らないとね」
「うん、貴重な資料だね」
 グレイスもカレンと同じような歴史の資料となりうるものに注意を向けていた。
「……!」
 ヴェルチェは隠れ身状態のまま更に皆の死角に入り込み、箱の中にあった宝石の類を素早く服の中に入れていく。
(神楽崎ちゃん、百合園の皆、ごめんねぇ〜ウフフ)
 心の中で一応手を合わせつつも、お宝の魅力には勝てはしない。寧ろこれが最初からの目的であり……寧ろそれは、神楽崎優子にもバレバレなのだが。
「あ、これは……!」
 怪しまれないために、くすねることが出来ない大きな箱を持って皆の元に戻り姿を現す。
「鍵がかかってるね」
 グレイスはヴェルチェが持ってきた大きな箱をあけようとしてみるが、錠前や鍵穴がないのに開かない。
 ピッキングでも開かないタイプの魔法的な鍵のようだ。
「こっちにもありました」
 フィルもまた、鍵のかかった箱を持って、グレイスの側に置いた。
「高価でも魔法的な効果のないものには、頑丈な鍵はかけられてないからのう。この中身は期待できそうじゃ」
 シェリスはわくわくと箱を眺め、持ち上げてひっくり返したり、隙間に爪をつっこんでこじ開けようと試みたりしていく。
「魔法でもぶつけてみたら、開くんじゃろうか」
「でもそんなことしたら……」
 フィルははらはらとしながら、グレイスに問いかける。
「この宝物庫の中には仕掛けは見当たりませんが……こういった箱を無理やり開けようとするのは危険でしょうか?」
「そうだね。慎重に開けたほうがいいだろう。それから、こういった宝物庫には奥の部屋か地下があるものだ。女王器はそこに安置されている可能性が高いかもね」
 言って、グレイスは壁に手を当てて調べ始める。
 その動作はかなりゆっくりであり――場所が特定できるまで、長時間かかりそうであった。
「女王器か、どれ……」
 シェリスも床を探ってみるが特に何も見当たらず、入り口などは簡単には見つかりそうもなかった。
「あ……セラさんから電話」
 鳳明が携帯電話を耳に当てた。
「え、ええっ!?」
 セラフィーナの言葉に思わず声を上げた鳳明に皆の視線が集まる。
「うん、わかった。後でまた連絡するね」
 言って、鳳明は電話を切る。
 内容は――御堂晴海のパートナーに不審な点があったという件についてだった。
(んー、どうしよう。通信機で連絡したら全体に知られるけど……)
「あっ、地図の情報送らなきゃ。地上の人達も地図の作成頑張ってるみたい。地下のマッピングした人、集まって」
 とりあえず、鳳明は地図に関する情報を纏めながら、どうすべきか考えていく。
(……でも、セラさんに言われたとはいえ何で班長になんて立候補したのかなぁ私? う〜、こういうの向いてないのに。お腹がキリキリするよぅ)
 ぎゅうっと目をつぶったあと、鳳明はぱんぱんと自分の頬を叩いた。
(守るって決めたんだ、ヴァイシャリーを、友達が沢山いるここを! しっかりろ!)
 判断を間違えるわけにはいかない。
 直後、通信機から御堂晴海の声が流れてきた。
『御堂から神楽崎指揮官へ。地下道を通り本陣へ向っています。副団長、本陣の北西にある出口まで来てはいただけないでしょうか? 多分発見された小屋と繋がっている場所です。直接お耳に入れたいことがあります』