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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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第2章 着実

 離宮に光が灯って直ぐ、本陣としている南の塔も慌しく動き始める。
 それぞれ通信機で連絡を受けた者が、総指揮官を務めている神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に状況を報告していく。
 優子自身も、全体への通信は全て聞くようにしていた。
「北区に向った防衛隊は、罠による攻撃を受けたらしい。契約者の中に負傷した者はいるが、重傷を負った者はいないようだ」
 優子は皆に随時説明をしながら、手が足りない箇所への増援を検討するが、それぞれ任務についており、待機している契約者はほぼいないという状況になっていた。
 近いうちに数名の契約者がまた地上から訪れると思われるため、それまでは慎重に進めることになりそうだった。
「宝物庫に向っている者のうち、数人は地下道封鎖に動いてくれるとは思うが、念の為ここ近くの地下道入り口は塞いでおいた方がいいかもしれない」
 言って、優子は皆を見回し――笹原 乃羽(ささはら・のわ)シーラ・フェルバート(しーら・ふぇるばーと)の2人に目を留めた。さっきまで、この塔の地下道の封鎖を頑張っていた2人だ。
「周囲の探索に出る者と一緒にこの辺りを調べて、入り口があるかどうか調べてくれ」
 優子がそう2人に言うと、
「了解!」
 乃羽は元気に手を上げた。
「分かりました」
 昼寝をしようとしていたシーラも、腰を上げる。
「……グループ分けはどうする?」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が優子に問う。
「大勢出払われても困る。少人数で数回に分けて行ってほしい」
「分かった。……出来るだけ共に行こう」
 アシャンテは、最初のグループの百合園生2人と乃羽とシーラを連れて、周辺探索に出ることとなった。
「教えたことを忘れずに、でも、だからって油断しちゃダメだからね!」
 御陰 繭螺(みかげ・まゆら)が、出かけることになった百合園生に注意を促しておく。
「一緒に行かないんですか?」
 百合園生達は不安気だった。
「ボクは本陣でアーちゃんと連絡を取りながら、他の人達からの情報を整理してみるよ」
「あの……」
 百合園生は繭螺に近づいて、そっと囁く。
「アシャンテさん、良い方だとはわかっているんですけれど……何話したらいいのか……私、知識ないですし」
 くすりと笑みを浮かべて、繭螺は口を開く。
「必要なことはちゃんと聞いてね。白百合団の人も一緒だから、大丈夫よ」
「はい」
 頷く百合園生に白百合団員の乃羽とシーラが近づく。
「この辺りに罠がないことは確認済みだし、危ない目に遭いそうになったら、来た道をダッシュで戻れば大丈夫だよー」
「転んで怪我をしたとしても、すぐ回復で治療してあげるからね」
 乃羽とシーラの言葉に頷いて、百合園生達は探索用のリュックを背負う。
「……行くぞ。行動は迅速に……な」
 アシャンテが外へと向かい、百合園生達は彼女の後に従って探索に出るのだった。

○     ○     ○


 東の塔にも、北区に向った者達がダメージを受けたという連絡が入っていた。
 ただ、重傷者はおらず、治療も現場で対処できる範囲という知らせも届いているため、救護班はいつでも救助に向える体制をとりながら、塔内で怪我人受け入れの準備及び、周辺警備を行っていた。
「南の塔周辺は探索に出る者がいるようだが、それぞれの塔周辺も戦況を見つつ、探索を進めていった方がいいだろうな」
 そう言いながら、大岡 永谷(おおおか・とと)は地図の作成に勤しむ。
 各現場からの報告を受けた神楽崎優子から、現在南の塔周辺の調査と、地下道の調査の指示が出ている。ただ、東や西の塔周辺や全体的な調査についてはまだ提案も、指示も出てはいなかった。
 本来ならもう少し全体的視野での首脳部――本部の意見も欲しいところだが、ラズィーヤがヴァイシャリーの件で奔走しているようで、本部からの連絡もこれといってない。
「本陣に向う者がいたら、指揮官に最新版を届けてほしい」
 永谷は封書に地図を入れて封をする。
 気にしていない人も多いようだが……やはりある程度の情報統制は必要だと永谷は考える。
 使いやすい地図を作成して、地図が統制下にあるとすれば、その地図を得ようと蠢動することで、スパイが割り出されるなどの副次的な効果も期待できるかもしれない。
 永谷のその方針は優子にも伝わっており、本陣からの情報も含め、永谷のいる東塔に一番離宮の地理的な情報が送られてきていた。
「では、物資を取りにいかせる者に一緒に届けさせよう」
 東の塔内の救護班を任されているクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が、永谷から封筒を受け取る。
「幸い、重傷者は出なかったらしいが、気を引き締めておけ」
 クレアは待機している百合園生達に厳しい目を向ける。
「戦場における医療活動は、怪我人が来たらヒールをかけて終わり、というような生易しいものではない。ここは比較的安全とされるが、志願した諸君には実戦であるという緊張感を持って、しかしその緊張に押し潰されることなく事態に対処して欲しい」
「はい」
 クレアの言葉に、百合園生達が声を上げる。若干緊張で声が上ずっているようにも聞こえた。
 クレアは百合園生の1人……たまたま目に付いた少女に、禁猟区をかけておく。
 更に、殺気看破をこまめに使って、警戒に努めている。
「この救護所では対処しきれない重傷者が運ばれてくる可能性もあるだろう。また体内に弾丸などの異物が入った状態では、ヒールは応急処置にしかならない。そういった際には、ここより設備が整っている別邸の方へ搬送できるよう手配を進めている。付き添って共に向う者もいるだろう。最低限の救護用具は身につけておくように」
「はい」
 百合園生達は緊張した面持ちでひとつひとつの指示に返事をしていく。
 東塔のメンバー達は、この2人の教導団員の下纏まっており、現在のところ非常に良い状態にあった。

「何か罠があるかもしれない。気をつけていかないとな……」
「敵に見つからないよう、慎重に行きましょう」
 小声で話しながら、久途 侘助(くず・わびすけ)と、香住 火藍(かすみ・からん)は北の塔へと向っていた。
 突然降り注いだ光は幸い2人の元には届かず、2人とも無傷だった。
 使用人居住区の辺りからは、なんらかの気配というか音が感じられつつあったが、そちらの方は他の契約者に任せ、自分達は目的の北の塔へと急いでいた。
 塔が見えた時点で、侘助は光術を使い、別方向から塔に向っているはずの赤羽 美央(あかばね・みお)ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)へ合図を送る。
 その後、侘助は火藍と共に禁猟区で周囲に警戒を払いながら、一気に塔の扉まで走った。
 ほぼ同時に、別の方向から美央とジョセフが現れ、合流を果たす。
「怪我は?」
「大丈夫です。誰にも会いませんでした」
 侘助の問いに美央がそう答える。
 互いに敵と遭遇することはなかったようだ。
 即座に侘助はピッキングで扉の鍵を開ける。
 中には光が灯っておらず、禁猟区の反応もないことを確認し、侘助、続いて火藍、美央、ジョセフが塔の中に入り込む。
 外から光が射し込んではいるが薄暗い。
「下の方から調べていこう」
 侘助が小声で提案し、一同頷いた。
 美央がライトブレードで中を照らしつつ、確認をしていく。
 トラッパーの知識を活かして、周囲を見て回るが、罠らしきものは……特に見当たらない。
 ただ、他の塔とは少し違い、塔の中には色々と荷物が置かれていた。
「倉庫として使われていたのでしょうか」
 言いながら、美央は木箱に近づいて照らしてみる。
「フム……。毛布にカーペットでしょうカ」
 ジョセフが覗き込んで中を確認する。
 多くの木箱の中には、生活用具のようなものが入っているようだ。
「迂闊に触らない方がいいかもな……。照明が点いた時と同じパターンも考えられる」
 侘助がそう言う。4人共、降り注いだ光を目にしていた。
 一同頷いて、置かれている物には触れずに、塔の中を調べていく。
「離れないで下サイネ」
 ジョセフはディテクトエビルを使い注意をしながら、使い魔のフクロウにも危険確認をさせる。
 慎重に、慎重に4人は調べを進めていく。
 時折、後方――居住区の方から物音、大きな音も届くようになっていた。
「無事到着をしました。調査を進めていますが……」
 パートナー間以外、携帯電話はここでは使えない。美央は通信機の子機を使って、全体に報告をしておく。