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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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 ラズィーヤはヴァイシャリー家の客室に関係者を集めて、相談を行っていた。
 保護したミクル・フレイバディも、ベッドの上ながら話し合いに参加している。
 これまでにヴァイシャリー家が捕らえた鏖殺寺院の関係者には、鏖殺寺院の幹部といえるような人物はおらず、情報もなかなか得られずにいた。
 鏖殺寺院側にこちらの動きが知られてしまうことは望ましくないため、慎重に調査を進めており、拠点の突き止めにはまだしばらくかかりそうであった。
 ミクルは1年前、地球でファビオの声を聞き、彼と契約をした。
 ヴァイシャリーに戻ったファビオは現状を見て、鏖殺寺院のメンバーが潜んでいる可能性を指摘した。ファビオを手伝うために、ミクルは百合園女学院に、女装をして生徒として潜入したとの話だった。
「電話、してみましょうか……」
 携帯電話を取り出して、ミクルは皆に尋ねた。
「んー……」
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)が眉を寄せる。
「ミクルが目を覚ましたということは、ファビオが重体から回復したということだろ」
 呟きながらケイは考え込む。
「もしファビオが拘束され、口封じのため、生かさず殺さずに置かれていたのだとしたら、この状況はおかしい気がする。やはりファビオは負傷はしていたが、どこかに身を潜めて、回復を待っていたのだろうか」
 首を左右に振って言葉を続けていく。
「だが、敵が意図せず、あるいは何らかの意図があって、ファビオを回復させたとも考えられるよな。となると、今すぐミクルに連絡を取ってもらうのは危険かもしれない」
 ケイは顔を上げて皆に目を向ける。
「携帯で話すことが出来る状況なら、パートナーのミクルに連絡の1つくらいは残すはずだ。連絡がない以上、少なくとも、まだファビオが連絡が取れる状況ではないことは明らかだ」
 迂闊に携帯電話などで連絡を取れば、逆にファビオが危険な状況に陥ってしまうかもしれない。
 それでなくても、ミクルが目覚めたという事実を外部に漏らすことになる。
 そういった危険性をケイは次々に指摘していく。
「とりあえず、連絡は後回しにしよう」
「うむ。まだミクルには肝心なことを聞いておらぬ。電話を掛けてもらうのはその後でもよかろう」
 ケイのその結論に、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がそう言葉を続け、ラズィーヤを含む一同も、首を縦に振った。
「……取調べを受けていて、喉が渇いてしまったな」
 不機嫌そうな顔をしていた黒崎 天音(くろさき・あまね)が、軽く片眉を上げて、ラズィーヤに目を向ける。
「お詫びなら、美味しい飲み物が嬉しいね」
「直ぐに用意いたしますわ。最高級のワインといいたいところですが、お酒はまだ少し早いかしら。地球の紅茶でよろしいですわね」
 ラズィーヤがテーブルの上においてあるベルを鳴らして使用人を呼んだ。

「5000年前に離宮を守っていた6騎士の一人ファビオが、ヴァイシャリーを騒がせた怪盗舞士グライエールの正体……そして盗まれていた品物がそんな物だったとはね」
 良家の子息らしく、洗練された仕草で紅茶を飲みながら、時折、砂糖菓子をひとつ、指先で弄びつつ、天音はラズィーヤ達の説明を聞いていた。
「美味いな……」
 隣で、パートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は茶菓子をつまんでいる。ブルーズは会話にはあまり興味がなさそうであり、あくまで天音を守護し、サポートしていた。
「ハロウィンに事件があった事は知っていたけれど、ファビオの生死と消息は不明のまま、今は離宮の封印解除を進めている所か」
「そうですわ」
 天音の言葉にそう答えて、ラズィーヤがカタンとカップを皿の上に置いた。もう疲れは見せていない。
「そして、あの少年がファビオのパートナー……消息不明の騎士様……」
 天音は深く考え込む。
 ミクルは今は横になっており、護衛についていた者達が付き添っていた。
「ファビオの事を微に入り細に入り調べている、熱心で詳しい人物がいたら少し話を聞いてみたいね
何か僕たちが思いつかない心当たりを持っているかも知れないし」
「……呼びましょう。ですが、その者達の存在は他言無用ですわ」
 にっこり微笑むラズィーヤ目には多少迫力が含まれていた。天音は軽く笑みを浮かべて「勿論」と頷いた。
「横になったままで構わぬ」
 カナタがミクルに近づいて問い始める。
「ファビオは鏖殺寺院や関連組織と繋がりがある者について何か言っておったか?」
 問いに関して、ミクルは首を左右に振る。
「賢しきソフィアについてはどうだ?」
「特に何も言っていませんでした。過去の記憶は曖昧な部分も多かったようです。ただ、ファビオが特に親しみを感じていたのは、マリルさん、マリザさん、ジュリオさんの3人のようでした」
「そうか……縁の場所などはないだろうか? 敵の手から逃れたファビオが向いそうな場所だ」
「……盟約の丘。ヴァイシャリー家、騎士の橋。くらいです、ファビオが気にかけていた場所は。盟約の丘は昔、騎士達と再会の約束を交した場所だと言っていました。ヴァイシャリー家と騎士の橋には当時の面影が僅かながら残っているらしいです」
 いずれも潜伏できそうな場所ではない。
「となると、頼れる可能性があるのは、ルリマーレン家や別荘辺りくらいだろうか」
「調べさせてはいますが、匿われている可能性はなさそうですわ」
 ラズィーヤがそう言い、カナタが頷く。
「ミルミの家にも事情話さないで、探ってるってことかよ」
 ケイは不満げな言葉を呟く。
「……そうですわね」
 ケイのそんな言葉にも、ラズィーヤは変わらぬ態度であった。
「ファビオさんは、具体的にどのような点に鏖殺寺院の気配を感じたのでしょうか?」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)はミクルの傍に座って、彼を気遣いながら問いかける。
「現在のヴァイシャリーの体制が穴だらけだから潜んでいないはずはないと言っていました。検問とか殆どないですし、住民登録とか、取り締まりとか緩くて。ファビオも本名名乗る必要もなく、ヴァイシャリーで暮らすことが出来ていましたし。……勿論、そういうことなしで、皆が平和に暮らせる世の中ならいいのですけれど」
「調査を貴族や百合園関係者絞った理由は何でしょうか?」
「一般人の関係者も勿論いるでしょうけれど、貴族や契約者達の中に紛れていた場合は、与える影響が大きいからです」
「では、離宮については何か仰っていませんでしたか?」
「離宮ですか……」
 ミクルは目を閉じて考え込む。
「ファビオさんが殺害されないということは、敵側にとってなんらかの利用価値があるからだと思うんです。更に、ファビオさんを捕らえたままで、あえて彼を回復させたのだとしたら……」
 目を開けたミクルに、ソアはゆっくりと問いかけていく。
「それは、離宮のファビオさんに対応した封印に関係があるのではないでしょうか? 推測ですが、敵は離宮に残された鏖殺寺院の兵器や女王器を手に入れようとしていて、そのためにあえてファビオさんの封印を私達に解かせようとしているのではないでしょうか……」
「わからない、です。そうかもしれないし、別の目的があるかもしれません。離宮の話は多少は聞いたことがあるのですが、情報になりそうなことは特に聞いてはいません。でも……」
 ミクルがソアに目を向ける。
「封印を解かせようとしている、というのは、そうなのかもしれません。ファビオは自分は殺されはしないということを、多分解っていましたから。今の状況も全て、ファビオがヴァイシャリーに残したメッセージ……のはずです。でも彼自身、記憶が鮮明であったらこういう手段はとらなかったとは思います」
「ファビオさん自身にも敵側の目的が全てわかっているわけではない、ということなのですね」
 ソアの言葉にミクルは首を縦に振った。
「ところでさ」
 ソアと一緒にミクルの話を聞いていた雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)の方に目を向ける。
「6騎士って名前の前に肩書きが付いてるよな? 『麗しき』マリル、『美しき』マリザ、『賢き』ソフィアってのは見た目や能力を表しているし、まあ分かる」
「まあとは何よ、まあとは」
 この場にいるのは、その美しきマリザだ。
「いやまあ、うん。わかるわかる」
 ぽふぽふとマリザの肩を叩いて、ベアは言葉を続ける。彼女は確かに美人だ。
「しかし、どうも『嘆きの』ファビオ、『激昂の』ジュリオ、『悲恋の』カルロって肩書きがピンと来ないんだよな。それぞれに、そういうエピソードがあったのかね?」
「エピソードからついたわけではないとは思うけど……」
 マリザが額を押さえて思い出そうとする。
「ファビオに関しては鏖殺寺院との戦いで戦死したって話だが、名誉の戦死なんて言い方をされるみたいに、戦死が原因で『嘆き』って肩書きは付かないと思うんだが……」
「そうね……。ファビオは、一般人をもよく助けに出てて、辛い戦いを愁い、嘆いていたから街の人達にそういう印象が残ったんじゃないかしら。ジュリオは私達のリーダー的存在で、よく怒っていたからね。カルロは、恋に破れたことが知れ渡ってたんだと思う……その辺りは良く覚えてないけど」
 それは一般人が見た6騎士の印象のようだ。
「本人からは聞いていませんが、ファビオはそういう人です。多分マリザさんが仰っている通りだと思います」
 ミクルがそう補足し、大きく息をついた。
「あんまり無理すんなよ」
 轟 雷蔵(とどろき・らいぞう)がベッドの傍に腰掛ける。
 ミクルは自分の体調に関して何も言いはしないが、顔色や会話の間に、こうして大きく息をつくことからあまり良くはないことを雷蔵や付き添う者達は解っていた。
「ごたごたしたけどひとまず無事でよかった」
 にっと笑みを向けると、ミクルは「ありがとうございます」と首を縦に振った。
「俺も質問してもいいかな? ゆっくり答えてくれればいいからさ」
「はい、何でも聞いて下さい。知っていることはあまり多くはないですけれど……」
 ミクルの言葉に頷いて、雷蔵は彼の負担にならないようゆっくりと問いかける。
「既に出た話もあるけど、ファビオが怪盗をしていた意図、過去の騎士達の関係、過去の戦いの詳細。闇組織の存在を知った時期、関係があるならそれも。それから、今、彼の存在をなんらかの方法で感知することができるかどうか。ゆっくり考えて、順番に説明をしてほしいんだ」
 ミクルは頷いて、マリザが語ったことも交えて説明をしていく。