リアクション
○ ○ ○ 東の塔にも地下道への入り口は存在したが、特に封鎖してはいなかったため、ナナとズィーベンは、直接東の塔の中に訪れ、永谷に地下道に関するメモを渡すと、再び地下道へと戻っていった。 早速、永谷は作成している地図に、地下道の情報も書き込んでいく。 更に、本陣の神楽崎優子から届いた資料の中にも、地下道が軽く描かれた地図があった。出発前に、地上で得た情報らしい。それらの地図によると、地下道自体は複雑な造りではないようだ。十字路は宮殿近くに2箇所。後は、東西南北に伸びており、建物の場所に向けて時折分かれ道がある。 「細かく記された地図だな。見せてもらえるか?」 千歳も指向性発信器を持ち、東の塔を訪れていた。 断る理由がなく、永谷は地図を千歳に見せた。 千歳はその地図から大体の地形を頭に入れていく。 そして発信機の俯角を固定し、携帯電話でパートナーのイルマと連絡を取る。 続いて、真北に向けて電波を送信した。 受信ポイントと考えられる位置に、イルマが移動していき、最も強く受信できる位置を探し出す。 発信装置の方向を真南、真東と変えて、同じ作業を繰り返していく。 「三箇所の受信ポイントから発信ポイントへと伸びた3本の線が結んだ点、これこそが私のいる位置、つまり離宮の位置という訳だな」 永谷に説明をしながら、千歳は作業を進めていく。 「負傷者2名入ります」 声が響き、軍人の男性が負傷者を担いで現れる。 使用人居住区では本格的な衝突が始まったようだが、契約者達が直接攻め入って抑えているらしく、負傷者は今のところあまり出てはいない。 「宮殿側は一時撤退をしたらしい。宮殿側からの敵の襲来にも備えるように」 クレアが百合園生達に指示を出していく。 「ローテーションどおり、休憩もとること」 そう指示した後、北の方へと目を向ける。 空が時々光り、戦闘音もここまで届いてくる。 シーリルが操るゴーレムに先行させ、使用人居住区に入ったメンバーは集会所を目指していた。 壊れたゴーレムの一部や、瓦礫をゴーレムに持たせ、武器とし敵を退けていく。 だが、建物の中から現れていく人間の形をした敵、動き出す石像の数はどんどんと増えて、全く対処しきれなくなる。 武尊は拳銃を片手に持ち、遮蔽物の影に隠れながら集会所に近づいていき、殺気看破で探る。 中から殺意を向けている存在はいないと思われた。 「先に行く」 隠れ身で姿を隠した雷號が集会所の敷地に入り込む。ドアには鍵がかかっていた。 「任せろ」 シーリルの操るゴーレムが敵をひきつけている隙に、武尊が走りこみピッキングでドアを開けて、中に滑り込む。 「気をつけて、気配はある」 超感覚で感覚を研ぎ澄ませていた尋人がそう言いながら、雷號の援護を得て駆け込んでくる。 シーリルも駆け込んでくるが、ゴーレムを中に入れることはできなそうだ。 「とても調べてる余裕、ないね……っ」 「大丈夫か、これ……」 続いて、北都と昶も駆け込んでくる。 様子をメモに記そうと思っていたが、作業を行う余裕はなかった。 遺骨も時折目にしたが、近づく余裕もない。 「生身の人間はいないみたいだけど……。襲ってくる像達を操っている知能のある生物がどこかにいるのかな?」 北都は荒い呼吸を繰り返しながらそう言って、部屋の中を見回す。 この部屋には何もいない。 しかし、何らかの気配を感じる。 「地下から音がするな」 武尊がそう言い、ドアを開けていくが、地下への階段は見当たらなかった。 最初の光や、石像の稼動。それらが居住区防衛用の魔法的な罠だとしたら。 ここに動力源や管理用の基盤があるのではないかと思った武尊だが。 見える範囲には存在しなかった。 「話が出来そうな人は今のところいないね……」 尋人が窓の外を見てそう言った。 「すみません、お話が出来る方はいませんかー! 地上に戻れるかもしれないよー!」 北都が声を上げてみるが、返事はなかった。 石像が集会所へと次々にぞろぞろと集まってくる。 建物の中から現れた人語を話さない人型の人造人間も。 集会所を取り囲んでいき、ぴたりと止まる。こちらの動きを待っているのか。何者かの指示を待っているのか。 「やっぱり少し……いや、かなりマズイ気が」 尋人が唾を飲み込む。 「動かねば大丈夫と思うしかないな」 雷號は、尋人の側でいつでも彼を庇えるような体勢をとる。 「地下への入り口を探そう――最悪、そこにも兵器がうじゃうじゃいるかもしれないが」 武尊がトレジャーセンスで探っていく。 「僕も出来ることをするよ。通信機は繋がるし、情報は送れるからね」 北都は、集会所の中や、窓から見える状況をメモに記していく。 「なんか、ロボットが歩いているような音だな。それも沢山の」 狼の姿の昶は、床に耳を当てて、地下の様子を探っていく。 「新たなスイッチを入れてしまわないよう、注意しなきゃね」 尋人は雷號と共に家具を動かして、地下への入り口がないかどうか、調べる。 6人はそれぞれ自らの心を落ち着かせながら、調査を続けた。 ただ。 少なくても、今この集会所を取り囲んでいる石像や兵器の類が一斉に襲い掛かってきたら。 6人が生きて戻れる可能性は、限りなく低いだろう。 確保に拘らず、陽動と隠密調査に分かれて、調査を進めるべきだったのかどうかは――まだ判らない。 ○ ○ ○ 「く……っ」 侘助は小さく声を上げた。 北塔の調査は順調だった。上からは使用人居住区を見回すことが出来るため、戦況も把握できそうだ。 そして、使用人居住区から人造人間、魔道兵器と思われる像などが、ぞろぞろとこちらに向ってきていることもわかった。 「俺達の存在は、気付かれてはいないはずです。この塔に用があるのでしょうか」 火藍は冷静にそう言った。 「地下道への入り口がありますネ。いざとなったらここから逃げまショウ!」 ジョセフがそう言い、地下道への入り口を開く。 「何か、音がするよな」 侘助も地下道が気になっていた。他の隊との合流などに利用できないかとも考えていたのだが……。 侘助は近づいて、耳を澄ます。 まるで……ロボットが行軍するような音が聞こえる。 「とにかく、状況を報告します。入り口が塞がれてしまっても空から迎えに来てもらえば、逃げることが出来ますし……」 そう言って、美央は通信機で東の塔のメンバーに状況を報告し、風見瑠奈の指示を待った。 瑠奈も交戦中のようであり、返答は短かった。 『敵が塔を崩そうとしてきた場合には、突破を考えて』 その直後、通信機に異変が起きる。 ノイズが混ざり、音が聞こえにくくなる。 機械音のような変な音が辺りに響いている。 『機器類が…誤作動を……している。妨害電波かなにかが、の影響と思…れる』 通信機は全く使えないわけではなく、本陣からのとぎれとぎれの連絡が届いていた。 ただ、携帯電話はパートナー間でも使うことが出来なくなっていた……。 ―第3回 完― 担当マスターより▼担当マスター 川岸満里亜 ▼マスターコメント
お疲れ様です、川岸満里亜です。 |
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