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リアクション
●吹き飛ばそうとするお前を、俺たちは吹き飛ばす!
(こ、こんな大きなモノに挑もうとするなんて、皆さん怖くないんでしょうか? もし巻き込まれでもしたらどうなっちゃうのか――)
電撃を迸らせる竜巻を前にして、弱気になっていた影野 陽太(かげの・ようた)の尻を、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が手にしたスタッフで引っ叩く。
「影野陽太、腰が引けてますわよ。何ですのそのみっともない姿は。駄目なのは相変わらずですけど最近少しマシになったと思ったらこのザマですのね」
「そ、そんなこと言われましても……風の魔物ならともかく、竜巻そのものですよ? 何をどうしたらいいのか――痛っ!」
次は頭にスタッフが叩き込まれる。
「それを今から調べるのが貴様の役目でしょう。何もしない内から諦めるなんて、わたくしが許すとでも思いますの!? 分かったらさっさと行きなさい、わたくしは準備に入りますの」
視線を逸らして魔法の詠唱に入るエリシアに何も言い返せず、陽太はうな垂れる。
「おにーちゃん、がんばって? わたしもがんばっておうえんするよっ!」
ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の無邪気にも能天気にも聞こえる応援を受けて、陽太の表情に僅かながら笑みが戻る。
(……こんなところで怖気付いてたら、会長に認めてもらえない……!)
気を入れ直した陽太が、ノーンの精霊としての知識も借りて、竜巻に最も有効な攻撃方法を模索する。
「うーんとねー、なんかわたしいつもよりげんきかもー。なんでだろー?」
模索の結果、竜巻は魔法的な存在――魔法が何らかの入力を受けて外部に仕事を為す現象であると仮定するなら――であること、雷電属性以外の攻撃であれば通常通り効果を発揮すること、氷結属性の攻撃は他の属性よりも発現しやすいことが判明した。
「分かりましたわ。行きますわよ!」
「おねーちゃん、ふぁいと、ふぁいとー!」
陽太の助言を受けて、自らの魔力を強化したエリシアが頭上に氷柱をいくつも生み出し、竜巻へ向けて放つ。陽太のことを散々コケにはしたものの、陽太の能力まで軽視しているわけではなかった。
(今の場所は攻撃に最適かな? もっと有効な場所があるかも……)
陽太がHCを操作して、詳細な周辺の地図を呼び出し、竜巻のこれまでの進路と風向きと地形とを照らし合わせて、最も攻撃及び防御に有効と思われる場所を割り出す。風はどこでもほぼ暴風なのに変わりなくとも、風向きの変化が少ない場所ほど直後の状況が読み易いはずである。エリシアとノーンにそのことを告げ、彼女たちに移動してもらった陽太は、他の迎撃メンバーにもそのことを伝えるべく駆け出していった。
同じ学校の生徒と思しき情報がHCを通してもたらされ、飛空艇を駆ってイナテミスに駆け付けた櫻井 馨(さくらい・かおる)は即座に状況を把握することが出来た。
(ここからだと……あの岩陰でしょうか)
素早く周囲に視線を配らせた馨は、少なくとも一方から風の影響を無視出来るであろう岩陰に身を潜め、攻撃の機会を伺う。
「今まで色んなものを斬ってきましたが、竜巻を斬るのは初めてですね」
「……まったく、いきなり連れてこられる身にもなってください。竜巻を相手にするのは私だって初めてです」
馨の傍で綾崎 リン(あやざき・りん)が、淡々とした口調で呟く。
「放っておけなかったんですよ、この街のことが。……さて、雷電属性は無効となれば、頼れるのは炎でしょうか。リン、準備は出来ていますか?」
「見くびらないでください。いつでもいけます」
リンも傍らの銃を構え、攻撃の準備を整えていた。
「ふふ、頼りにしてますよ、リン」
「マスターこそ、私の足を引っ張らないでくださいね」
そんなやり取りが交わされた後、直ぐ傍で生徒の攻撃が竜巻に炸裂し、その巨体が大きく揺らぐ。ほんの一瞬だけ、風の勢いが弱まったように思えた。
「では……行きますよ!」
馨が飛び出し、そのまま一直線に駆け出す。竜巻が元の姿を取り戻すにつれて風の勢いが増すが、馨の足は止まらない。
「炎よ!」
刀身に炎を宿らせ、馨が勢いのままに振り抜けば、生じた炎が竜巻を包み込む。
「これで!」
リンの構えた銃が火を吹き、弾けるような音が竜巻でこだまする。リンの射撃が続く中、馨がより近くから攻撃を見舞うべく歩を進めたところで、反撃とばかりに竜巻が電撃を纏い、馨へ放つ。一発目と二発目は足元で炸裂するに留まるが、三発目は後方に跳んだ馨の背中辺りで炸裂し、衝撃で大きく吹き飛ばされる。落ちる、そう思われた時、飛んだリンが馨を受け止め、二人は岩陰に隠れる。
「無茶しないでくださいマスター。ここで死なれては私が困ります」
「この程度で帰るわけには行かないんですよ……ですが、リンの言う事にも一理あります。ここは味方との連携を優先しましょうか」
それから二人は、指示を飛ばしている同じ学校の生徒のところで、効果的にその力を振るったのであった。
『こっちは氷龍との戦闘に移行した。そっちも色々起きてるとは思うが、適当にやってくれ』
ごく簡単な戦況報告だけを言い残して、閃崎 静麻(せんざき・しずま)からの通話が途切れる。報告を受け取ったレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)に限って言えば、静麻の様子はさほど重要ではない。向こうは向こうでやることはやるだろうし、こちらはこちらでやるべき事を為すだけだ。
(静麻は私に、イナテミスを死守しろと言っている……ならば、それに応えるまでです)
携帯を仕舞い、周囲に視線を配らせる。電撃や突風で損害を受けた生徒たちが治療を受ける姿が多くなっていた。それでも彼らの瞳には、まだ戦えるという意思が込められているようにも見えた。
「皆さん! 竜巻も無傷ではありません、弱まっています! 龍が倒れるまで待つことなく、私達の力で竜巻を消し去りましょう!」
剣を掲げ、レイナが生徒たちを鼓舞する。感じ方はそれぞれ違えど、終わりの見えない戦いを続けるよりは自分たちの力で戦いを終わらせる方向に持っていこうとする意図は、概ね好意的に受け入れられた。事実、竜巻は先程からイナテミスに近付くことが出来ず、むしろ少しずつ後退しているようにも見えたから、レイナの発言には説得力も加わる。
治療を終えた生徒たちが、再び竜巻へ攻撃を向ける。その波に乗って、レイナも爆発的な加速力を講じて竜巻へ向かっていく。
(取り巻く風は無数の盾……ならば、盾を全てそぎ落としてみせる!)
竜巻の直ぐ傍まで寄ったレイナの、二本の剣による連撃が竜巻を襲う。周りを吹く風を盾に見立て、後から後から追加される盾をその速度以上で吹き飛ばす勢いで、レイナが剣を振るう。風が少しずつ抉られ、そして一撃を繰り出した瞬間、レイナは竜巻の奥にまるで真空のようなぽっかりと空いた空間を見つける。
(ここに一撃を入れれば……!)
何が起きるのか誰も知り得ない状況の中、躊躇いなくレイナはその空間に爆炎を叩き込む。直後爆発が生じ、レイナの身体が衝撃を受けて正門の辺りまで軽々と吹き飛ばされる。
「かはっ……」
強固に修復された門はレイナの激突に耐えたものの、それまで木製だったのが金属製に変わったおかげで、レイナにかかる激突の衝撃は凄まじいものであった。かろうじて意識を手放すのを耐え、吐き出された空気を吸ってそして見上げた先には、どことなく細く小さくなったような気がする竜巻の姿があった。
竜巻を内部から破壊させるような爆発が生じ、竜巻の姿が小さくなったのを見遣って、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は誰かが口走ったことが本当になるのではと思い至る。
(龍の消滅を待たずして竜巻を退ける……攻撃が続けばあるいや、かもしれんな)
自身も攻撃に加わるべく、消耗した魔力を和原 樹(なぎはら・いつき)に補充してもらおうと背後を振り返ったところで、当の樹がヨルム・モリオン(よるむ・もりおん)の手の甲に唇を触れさせる瞬間を目の当たりにする。
「すまない……俺が未熟なばかりに、手をかけさせることになってしまって」
「俺の方が長く勉強してるし、無理させたくないんだ。ちょっと苦手なのは確かだけど――」
そこまで言ったところで樹が、微妙な表情を浮かべているフォルクスと目が合う。
「……そんな顔するなっての。仕方ないだろ、経験の差ってのもあるんだからさ」
「そうだとしても、我とて消耗はする。それに、今そこで樹が我と目を逸らす理由にはなっていないと思うが?」
言い合う樹とフォルクスに挟まれた形のヨルムが、それぞれに視線を向けて表情の消えた顔でぽつり、と呟く。
「……すまない」
「ああ、ヨルムさんが謝る必要はないよ。……分かったよ、フォルクス、余計な真似したら殴るからな」
視線を逸らしたまま、フォルクスに近付いた樹がその唇を手の甲に触れさせ……るところで歯を突き立てる。
「樹、作法が身についてないな。後で我が手取り足取り教えてやろう」
「遠慮するよ! 冗談言ってるくらいならさっさと行けよ!」
樹に押し出される形で送り出されたフォルクスが、不敵に微笑んで魔力を行使し、周囲に冷気を纏わせる。
「あながち冗談でもないのだがな。……この力、有用に使わせてもらおう」
魔力を高め、冷気の量を増していく。ちょうど機械に電圧をかければそれだけ大きな仕事をするように、フォルクスの生じさせた冷気は竜巻の動きを止めるための仕事量を与えられていく。
「……行け!」
機械で言えば回路が焼き切れないギリギリの電圧量をかけたところで、フォルクスが冷気を竜巻へ向けて放つ。冷気の渦は地面を凍り付かせながら竜巻へ飛び、吹き荒ぶ風ごと氷塊に固めんとする。
「真空の刃!」
竜巻の動きが鈍ったその瞬間を狙って、ヨルムの放った真空波が竜巻を切り裂く。刃が通ったところだけが抉れ、その再生速度も戦いを始めた頃に比べて――それでもコンマ秒の世界ではあるのだが――鈍っていた。
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