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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編

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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編
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●2人も『住人』だ。俺たちに出来るのはこれくらいだか……!

 その、ホルンの家では、二人の身を案じた者たちが訪れていた。
「パパのいない今こそ魔法少女の話をする時あ痛っ!!」
 意気込んで魔法少女の話をしようとした葱の頭を、スワンが用意したツッコミ道具『ピコンと音が鳴るハンマー』で叩く。
「す、スワンちゃん!? やってることがパパと一緒ですよ!? ……ハッ、もしかしてパパ、スワンちゃんに――」
「ご、ゴメンね葱ちゃんっ、翡翠君に葱ちゃんが魔法少女の話をしたら止めてってお願いされてるの。翡翠君が私に頼みごとをしてくれるなんてなかったから、頑張ろうって思って、えっと、本当にゴメンねっ」
「む〜、そういうことなら仕方ないです。キィちゃんも大変なことになってるみたいですし」
「……私のことは気にしないでいいわ。あなたたちの話は、私を楽しくさせてくれるから好きよ」
 心配するような視線を向けられて、キィは気丈に微笑んでみせるものの、それが無理をしていることは誰にでも分かることであった。
「む〜、その光は何なのでしょうね。……ハッ、もしかしてキィちゃんも魔法少女――スワンちゃんもう言わないからハンマー降ろして降ろしてっ」
 叩かれる前に話を打ち切った葱の代わりに口を開いたのは、キィと同じ風の精霊、フェリス・ウインドリィ(ふぇりす・ういんどりぃ)
「あの反応……あたし、知ってるかも」
「そうなの、フェリスちゃん? お願い教えて、私、何も分からないの。どうやって力になればいいのかも分からない、そんなの辛すぎるよ」
 リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)の切実な言葉が響く。イルミンスールに来たばかりの彼女にとって、イナテミスでの出来事は刺激が強いはずであったが、それでも自分に何が出来るのかを懸命に追い求めている様子であった。
「うん、分かった。合ってるかどうか分からないけど……」
 そう前置きして、フェリスが口を開く。
 
 悪しき意思が龍となりて自然を脅かす。
 それに立ち向かったのは、五名の精霊たち。
 精霊たちは力を合わせ、龍を五色のリングに封印する。
 リングは五名の精霊に渡り、そして長い月日が流れた……。

 
 語られたのは、架空の国の御伽話のような、にわかには信じがたい話。
「封印された龍の伝説……もしそれが本当だとしたら、今この街で起こってる天変地異はその龍によって引き起こされた……?」
 リースの呟きに、異を唱えるように『空中庭園』 ソラ(くうちゅうていえん・そら)が口を挟む。
「待って。確かに遺跡では雷龍と呼ばれる龍が復活して、それに呼応するようにこの街を竜巻が襲っている。だけど、今の話にあった『五名の精霊』って誰のこと? 五色のリングと次の五名の精霊は検討がつくにしても、それだけ検討がつかない」
「五色のリングは多分、『シルフィーリング』『アイシクルリング』『ファイアーリング』『ブライトリング』『カオティックリング』だよね。その次の五名の精霊はセリシアさん、カヤノさん、サラさん、セイランさん、ケイオースさんだとして……最初の五名の精霊は誰なんでしょう?」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が両手の指で数を数えながら呟く。五色のリングについては『アインスト』の創立者、カイン・ハルティスによって解明がなされ、レプリカ品がイルミンスール魔法学校の購買に並んでいる。また、セリシアを始めとした精霊の長『精霊長』ともイルミンスールは面識がある。分からないのは最初の五名の精霊、話では龍を封じたとされる者たちであった。
「あぁもう、一体何が何なの!? 私は一体何をすればいいの!?」
「まーまー落ち着いて落ち着いてー。頭に血が上っちゃったら、分かりそうなことも分かんなくなっちゃうよー?」
 キィの様子を見に来ていた春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)が、半ば錯乱しかけていたリースをなだめにかかる。パートナーのエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)は、何かあった時にキィと生徒たちの間に直ぐに入れそうな位置に構えていた。
「……ごめんなさい。役に立てないのかなって思ったら、ぐちゃぐちゃになっちゃって」
「いいよいいよー。マナカもよく分かんないけど、この子はなにかのキーキャラなのかなって思うから、守ってあげるんだー。……あっ、キーとキィって似てるねっ!」
「貴女はこんな時までそんな……悪い意味で感心せざるを得ない性格ですね」
 気付いたことをさも自慢するように告げる真菜華に、エミールが呆れながら呟く。
「……判断するための情報が少なすぎるわね。とりあえず、今は事態を静観する他ないわね。もしこれから、彼女が何かを必要としているならそれに力を貸す。……皆、その為にここに集まってきたのでしょう?」
 意思を確認するようにソラが告げると、顔を合わせた者たちは一様に頷いた。
「済まない……君たちの心遣いには本当に感謝している」
「貸しにしておくだけよ。体調が治ったらちゃんと返してもらうわ」
 ひねくれた言動を見せるソラにホルンが苦笑したところで、扉を叩く音が響く。
「あっ、あたし出ますね!」
「ちょっと、フェリスちゃん?」
 一番扉の近くにいたフェリスが、リースが止めるのも聞かずに扉を開ける。現れたのは見舞いに来た生徒ではなく、街の住人であるらしかった。そして、フェリスには一部の顔に見覚えがあった。
「……何?」
 表情を沈めて、フェリスが隠し持ったハンドガンをいつでも抜ける位置に手を添える。訪れた住人たちは、キィとホルンのことを疑っていた人たちであった。
「ま、待ってくれ。多分、君が思っているようなことを言いに来たわけじゃないんだ」
 住人の一人が弁解するように手を振りながら答える。部屋の奥からホルンがやって来るのを見て、別の住人が口を開く。
「ああ、ホルン。あたしあんたのこと疑ってたんだよ。でもね、あんたと同じところから来た子たちと、精霊たちとが街に来て、あたしたちによくしてくれたのを見て、疑うのは止めよう、って思ったのさ」
「まぁ、あれだ、余所者なのは変わらねぇけどな、それだけで悪者扱いするのは、よくねぇよな」
「もう! あんたは素直じゃないね! ……そういうわけだから。困ったことがあったら言っておくれよ。もっとも、あんたを気遣ってくれる人はもうたくさんいるみたいだけど」
「いえ、ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです」
 口々に気遣いの言葉をかける住人たちに、ホルンが笑みをこぼして応対する。そして、最後の一人を見送ったホルンが家に戻り、事態を見守っていた者たちに笑顔で頷くと、安堵のため息と歓声が漏れた。
「よかったねー! これでもう解決したも同然じゃないかなぁ!?」
「なんと楽観的な……だが、大きな助けを得たのは間違いなさそうですな」
 真菜華の言葉に、今度はエミールも幾分同意するように頷く。
「キィさん、ホルンさん、約束したよね。私達はどんなことがあっても、あなたたちのこと必ず守るから」
「あたしもだよ!」
 リースとフェリスが、力強くキィとホルンに頷く。
「こんな時のために、私がとっておきの魔法少女の話をあ痛っ!!」
「もー、ダメだよ葱ちゃんっ。その話するなら叩くよ?」
「叩いた後に言うところまでパパに似なくていいですよっ!?」
 葱とスワンは変わらず、場を和ませようと動いてくれている。
「ああ……ありがとう」
「ありがとうございます」
 そんな優しい心を持った者たちへ、キィとホルンが心からの笑顔を向けた。