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リアクション
「ひー、危ない危ない、見てるこっちまでドキドキしちゃったよ。ボクが食らうのもイヤだけど、目の前で他の人が食らって黒コゲってのも気分悪いしね。よかったよかった」
ほっ、と胸をなで下ろすズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)の視界に、先程強烈な一撃を食らわせたナナ・ノルデン(なな・のるでん)を追う複数の漆黒の蔦が映る。その動きは執拗で、まるでお返しをしようとしているかのようであった。
「しつこい人って嫌われるんじゃないかな? ……人、ってのもおかしいかな」
呟いたズィーベンの両手に、ぼんやりと光る球が生まれる。それはゆっくりと頭上に浮かび、暴れ回る漆黒の蔦へと向かっていく。
「神聖の光輝よ、全てを浄化する光となりて悪しき闇を打ち払え!」
ズィーベンの詠唱に応じるように、球が弾けまばゆいばかりの光が蔦を襲い、無数の光の線に貫かれた蔦が言葉通り浄化するように消えていく。
(ズィーベン、ナイスタイミングです! これで隙が出来たはずです、頭は――)
回避に専念していたナナが、状況を確認するべく足を止め周囲を見渡す。しかし光が晴れた先に広がっていた光景は、ナナの予想を大きく超えるものであった。ヴァズデルは他二つの首で電撃を吐き生徒たちの連携を絶って、三つの首全てをナナに向けていたのだ。根元から首へ電撃が伝播し、放射の準備が行われる。一人に対して電撃放射×3とは、妨害されたことを相当根に持っているようである。
「……あれって四面楚歌ってヤツ? あ、三つしかないから三面楚歌?」
呟きながら、ナナはどうするのだろうとズィーベンが見守っていると、ナナが手に入れた【丸い黄緑色の球体】を、周りに使用を周知させるように掲げる。
「やるつもりなのー? 当然ボクも援護を期待されてるってわけだよね? もー、ボク疲れてきたんだけど?」
ちょっぴり愚痴りながらも、ズィーベンの頭上には吹風が呼び起こされる。そしてナナの頭上には、球体が放つ黄緑色の光が巻き起こる風と合わさり激しく渦巻いていた。その中心に立つナナも風の影響を受けるが、身に付けていたリングが衝撃を和らげてくれる。
「雷光の輝きよ、優しき風の力を纏いて、荒れ狂う暴雷を封じこめよ!」
ナナが風を放つと同時、ズィーベンも遅れまいと風を放ち、合わさった黄緑色の光を纏いし風は、発射体制に入った首に広がって包み込む。靄のようなそれらに包み込まれた首はもがきながらも電撃を放とうとするが、それまで無尽蔵に吐かれていた電撃が今回だけは生じない。
「成功だね! これで首は無力だ、後は攻撃あるのみ――」
喜んだのも束の間、靄はすぐに消え去ってしまった。流石に三つの首の電撃放射を止めるには、掌に収まるような大きさの球体では数秒が限界のようであった。
(あの人、これで雷龍の電撃を防いでた。こんな小さいのに凄い力を持ってるんだ……)
目の前の戦いを目の当たりにしていた関谷 未憂(せきや・みゆう)が、自分も手に入れた【丸い黄緑色の球体】を見つめて思う。
(……私にも、同じ力が扱えるのかな?)
天井を駆けたり跳んだり出来ない自分が、果たして満足に力を発揮させられるのだろうか。そんな思いが頭を過ぎったところで、裾を引っ張られる感覚に未憂が振り向く。視線の先にいたプリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が、未憂の思いを否定するように首を振って、そっと口を開く。
「……みゆうにも、できる……。私も、がんばる……」
自分の言葉を必死で肯定するように、プリムが掴んでいた未憂の裾をぎゅっ、と引っ張る。その仕草は言葉以上に、未憂に勇気をもたらしてくれた。
「……そうね。ここまで来たんだもの。私に出来ることがあるなら、それをやるだけよね」
未憂の言葉に、プリムがこくり、と頷く。振り返って未憂は、おそらく対ヴァズデル戦の切り札である力をいつ使うのが最も効果的かを、ヴァズデルの過去の行動、これから予測される生徒とヴァズデルの行動を交えて推測する。
(複数に使ってもその効果は短い……だったら一つの首に使って、そこを皆で畳み掛ける……)
ナナが力を使ったことにより、他の生徒も二度同じ様子を見れば、それが球体の力がヴァズデルの電撃を押さえ込んでいるのだと判別出来るはずである。
(蔦の攻撃と首の電撃は独立している……蔦の攻撃を弱めないと、十分な連携が取れない)
無数に伸びる漆黒の蔦は、三つになった首とは別々に動いており、それらが生徒たちの連携を阻む要因となっている。
「リン、あの蔦をお願い! 動けないようにしちゃって!」
「言われなくてもそうしちゃうよー! 炎の方が効きやすいってのは分かってるんだ、くらっちゃいないよー!」
箒にまたがったリン・リーファ(りん・りーふぁ)が、的にならないよう移動しながら生み出した炎弾で蔦を攻撃する。移動しながらの射撃は命中率に大きなマイナス修正をもたらすが、敵が巨大であるためあまり影響を及ぼさない。撃てばどこかしらの蔦には当たる。
「派手に燃えちゃえー!」
二発、三発とリンの放った炎弾が漆黒の蔦を焼き、ヴァズデルの動かす蔦の可動範囲が徐々に押さえ込まれていく。本数こそ減らないものの、再生した矢先から撃ち抜かれていくため、蔦は事実上攻撃力を失っていた。
とすれば、打開を狙うため、首が行動を起こすのもいわば必然。飛び回るリンを標的に定めた首の一つへ、根元から電撃が伝播する。
「黒焦げは勘弁だよ!」
リンの放った氷柱が首を襲い、僅かばかり動きを鈍らせる。その行動は貴重な時間を稼ぐと共に、未憂に球体の力を使わせる合図となった。
「プリム、力を貸して!」
「うん……!」
強い調子で頷いたプリムの手を通して、温かな魔力が伝わってくる。未憂が球体を掲げれば、魔力に反応した球体が光を放ち、一筋の光となって電撃放射を行おうとしてた首を貫く。先程よりも濃い光の靄に包まれた首は、電撃を放射することが出来ずもがく。
そこへ、一時連携を取り戻した生徒たちの集中攻撃が炸裂し、ヴァズデルが悲鳴をあげる。
「……ねえ、本当に、悪しきものを倒すことだけが、道を開く方法なの?」
次々と加えられる攻撃を目の当たりにして、呟かれた鷹野 栗(たかの・まろん)の言葉はその殆どが爆音に紛れ、消えていく。
「んー、どうなんだろ? ……でもね、あたしこう思うんだ。この世界には無数に伸びる枝のように、無数の選択肢があって、そのどれもが正解であって正解じゃない。枝はどれも真っ直ぐ伸びようとして、他の枝とぶつかって曲がったり、折れちゃうことだってある。でも枝は、決して伸びることを止めない。つまりえっと……あれ? あたし何を言おうとしてたんだっけ?」
唯一、栗の言葉を聞き留めた『ウインドリィの樹木の精霊』ミンティが、自分の言った言葉に頭を抱えて混乱していた。それでも、栗はどこか納得した様子で頷き、ヴァズデルを優しさと哀れみの混じった瞳で見つめる。
ヴァズデルは心から、破壊を望んでいるのだろうか。ヴァズデルもまた、大き過ぎる力を持ってしまったが故に翻弄されているだけなのではないだろうか。
そう問いかけても、答えは返ってこない。だったら……
動き出したいのを堪えて、栗は待つ。
枝を真っ直ぐ伸ばし、大きな葉をつけるその時を――。
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