リアクション
〇 〇 〇 「天華さん、大丈夫ですか!?」 「飛んでれば、そんなに危険はないみたいだよ」 ナナ・ノルデン(なな・のるでん)とズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が、空飛ぶ箒を操り、天華の使い魔に導かれて彼女と合流を果たした。 天華は南に向って急ぎながら、ナナとズィーベンに手短に大地から聞いたことも合わせて、晴海についての疑惑を話して聞かせる。 「まだ何ともいえませんけれど、何かの思惑はありそうですよね。急ぎましょう」 ナナは天華を箒に乗せて進むことにする。 「一応回復しておくね」 ズィーベンはリカバリィで皆を回復しておく。 晴海達の姿は既に見えないが、晴海が向った出口についても、大地から話を聞いてあった。 罠をつっきり軽く負傷しながら進んで、数分後、その出口へと近づく。 3人は梯子が見える位置で、箒から下りた。 「地上のことは任せるよ。ボクはここに残る」 ズィーべンが小声で言う。 魔道生物や何かが押し寄せてきても、背後から皆が狙われたりしないように、と。 「お願いします」 ナナは光学迷彩で姿を見えにくくする。 天華はおもむろに梯子に手をかけた――。 少し前。 通信機で鳳明から御堂晴海に連絡が入った。 その時には、晴海は既に作業小屋に到着していた。 鳳明は宝物庫の状態の連絡、敵が押し寄せており、班を2つに分けて、篭城の構えで作業に当たる旨の報告をしていく。 そして最後に。 『御堂隊長はどのような状態…しょうか? 先ほどの通信が気になっています。班全体で動い…らっしゃるのでしょうか?』 「宝物庫の状態は了解、そのままお願いするわ。こちらのことは気にしなくて大丈夫よ」 そっけなくそう言い、晴海からの通信は切れてしまう。 話す必要がないといわんばかりのその態度に、単独なんだと鳳明は確信する。 『敵が姿…見せ始めた以上、単独行…は危険だよっ。最低限でもペアを組んで行動してください!』 鳳明は会話に違和感が出てしまうことを承知で、精一杯そう通信機で伝えた。神楽崎優子に遠まわしに警戒を促すために。 「……大丈夫よ、すぐに指揮官と合流するから」 通信機を通信状態にはせずに、晴海は作業小屋内でそう呟いた。 直後、作業小屋に足音が響いてきた。 神楽崎優子は、白百合団員と共に作業小屋へと駆けつけた。 「晴海、いるのか?」 「副団長、1人で入って来て下さい。大事なお話があります」 深刻そうな声に、優子は白百合団員にここで待つように指示を出すと、ドアを開けて1人小屋の中へと入っていった。 「副団長」 室内にいた晴海は、怪我をしていた。罠を掻い潜ってきたせいだ。 「御堂晴海……お前はどうしてここにいる」 優子は厳しい目で尋ねる。 「私はお前に伝令の役目を任せたつもりはない。隊長として隊を率いることを任せたはずだ。樹月や琳の通信に対する返答、あれは何だ? 隊員が危険な状況にある中、お前自身が戻らなければならない理由とはどれほどのものか」 口調は厳しかった。 「それは……」 晴海が一歩踏み出した。 「待って下さい!」 男性の声が響き渡り、黒い影が地下から飛び出る。 「う……く……っ」 晴海が頭を振る。 飛び出した大地が投影するメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)が、その身を蝕む妄執を晴海に放ったのだった。 「神楽崎さん、その方は……」 「副団長! この男は敵です! 内部に大勢敵が潜んでいることを知った為、やむなく私は戻ってきたんです!」 大地が説明するより早く、大声で、晴海はそう叫んだ。 「敵はあなたではないのですか」 大地はそう言うが、分はかなり悪い。相手は優子の信頼を得ている人物だ。そして自分は親交もなければ功績もない。 晴海が懐から銃を取り出した。 即座に大地も光条兵器を構える。 「馬鹿なことを――!」 優子が走りこんでくる。トリガーを引く寸前、晴海の銃口が優子に向けられた。 パン! 放たれた弾丸の前に、大地が飛び出し左腕に受ける。 「御堂晴海!」 少女が地下から飛び出す。天華だ。 「武器を捨ててください」 一瞬晴海が気をとられた隙に、光学迷彩を使用した状態で駆け込んでいたナナが、晴海を背後から捕まえる。 「抵抗したら、斬りますよ」 振りほどこうとする晴海に大地が跳び込んで光条兵器を振り上げ、その肩に光の刃を当てる。 晴海は懐に手を伸ばす。その手に優子が刀を突きつけた。 「どんな理由があれ、私は仲間を罠に嵌める行為を許しはしない。分かっているな?」 「……分かってるわ。長い付き合いだもの」 晴海は武器を落として降参した。 〇 〇 〇 「このあたりに運んで!」 優子達の状況が気になりながらも、鳳明は班長として宝物庫入り口付近で皆のまとめ役として立ち回っていた。 宝物庫の扉は頑丈であったが、敵の攻撃力によっては吹き飛ばされてしまう可能性がある。 迫り来る敵達は知能がかなり低そうだった。 敵をひきつけ交戦をする者達をサポートするためにも、扉を開けたまま、戦闘とバリケード作成に勤しむことになった。 「出鼻をくじくのだわ」 「少し離れていただきましょう。前衛1人では厳しいですから」 景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)とステラが雷術で現れた敵を攻撃していく。 前を歩く敵がよろめき、倒れたことで、ドミノ倒しのように後ろの敵も倒れていく。 「こちらはお願いします」 アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が、仲間達にパワーブレスをかけて、自分は室内の探索に向う。 「すまない」 イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)は、アリアに礼を言った後、バリケードを築いているメンバーに目を向ける。 「基本は崩れないように頼む」 そして、接近してきた敵と切り結んでいく。 相手は、男性の姿をした光条兵器使いだった。 知能が低いようであり、男達は単純にこちらに向かって来ては攻撃を繰り出していく。 「ありゃー……なんだかちょっとゾっとしねーのがいっぱい来るね?」 ぞろぞろ訪れる男達に、ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)がそんな感想を漏らしていく。 「あれが噂の人造兵器ってやつかぁ」 「止めを刺してもいいものか……」 少し迷いながら、イルマは男達の足を裂いて戦闘不能に陥らせる。 「遠距離武器は破壊させてもらう」 銃のような武器を携えた男にはソニックブレードを放ち、武器を狙って破壊に努める。 「イルマはそろそろ下がって下さい。叔至いけますか?」 バリケード作成をしながらステラがそう言い、陳 到(ちん・とう)が前へ出る。 「代わりましょう」 「すまない」 イルマはその場を陳到に任せて後ろへと下がる。 精神力をかなり消費してしまっている。敵1体に遅れをとりはしないが、無傷というわけにもいかなかった。 「守ること、突破されぬことも大事ですが、敵の数を減らすことも大事ですな」 ディフェンスシフトで仲間を庇いながら、陳到は薙刀を振るう。 光条兵器使いの男が、血を流して倒れていくが、仲間の様子に気にすることなく男達は次々の訪れて押し寄せてくる。 「かような相手を満遍なく傷つけても益はなし、集中して倒しきるべし」 言って、陳到は援護を受けつつ、薙刀を立て続けに男達に叩き込んでいく。 「ま、そうだね」 ウィルネストはブラックコートで気配を殺して飛び出ると、宝物庫入り口の外へファイアストームを放つ。 光条兵器使い達は、体を焼かれる苦痛に顔をしかめ、動きを鈍らせるが怯みはせず宝物庫の中へ進んでくる。 ウィルネストは陳到の側まで下がる。 目に見えていないモノに魔法をぶっつけるのは無理だから、バリケードを築いた後は敵に攻撃することが出来なくなる。 少しでも多くの敵を倒しておければいいのだが。 |
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