リアクション
緋桜 ケイ(ひおう・けい)は皆が相談する場から離れて、横たわっているミクルの下に歩み寄っていた。 〇 〇 〇 ミクルを保護している客室から、ラズィーヤは応接室へと移動する。 こちらにも来客を待たせているのだ。 「わーん。ラズィーヤ様、マナカお役に立てずにすみません」 ラズィーヤが現れるなり、春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)は半泣き顔で駆け寄った。 「出来ることがあったら何でもやりますから!」 「真菜華さんは期待以上に頑張って下さいましたわ」 微笑んで、ラズィーヤは真菜華に椅子を勧める。 「ところで一つ、気がかりなことがあるのですが」 真菜華のパートナーで、人質としてラズィーヤの側におかれていたエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)は、真菜華の様子に苦笑しながらラズィーヤに言う。 「なんですか?」 ラズィーヤはメイドを下がらせてから、エミールに発言を促す。 「離宮と連絡が取れなくなっていることです。アレナさんだけではなく、他の連絡係の携帯も繋がらないようですから」 本部にはアレナの他に2人、離宮との連絡を担っている人物がいるのだが、その2人の携帯も繋がらない状況だった。 「同時期にこちらに連絡もなく電源を切ったとは考えにくいですし、何か事件があったのでしょう」 「……そうですわね。別の場所にいた3人が同時に、ですから、人造人間などの捕虜になって奪われたなどとも考えにくいですわね。パートナーは皆無事なようですから、攻撃を受けて故障したとも考え難いですわね」 「そうですね。そんな状況なのに、ソフィアさんが戻ってこないことにも違和感を感じます」 「そんな状況だから、転送の能力が使えないという可能性も高いですわ」 テレポートは基本的に本人の力だけで自由に好きなだけ行えるものではない。 なんらかの妨害があるのなら、転送の妨害も十分考えられる。 「そうですね。彼女ごと、隊が全滅した可能性も考えられると思います。パートナーが無事であることから、離宮に全員封印された、などですね」 「……ええ」 「こちらも早めに動いておいた方がいいと思われます。まずは、離宮が浮上する可能性のある地域への警戒の呼びかけ。地上から離宮捜索を試みる人物がいるのなら支援を。そして、離宮が地中なら、振動でモールス通信を呼びかけるなど……少なくても最初の案は早急に行うべきかと思います」 「その件に関しましては先日も意見いただいていますし、すぐにでも動ける体制が整っております。地上からの離宮捜索と振動調査に関しましては本部で動いてくださる方がいたら、支援させていただきます。ただ、振動調査に関しましては、地上からの振動が届くとは思えませんわ……。例えば百合園女学院の爆破解体工事などを行ったとしても、その振動が地下深くまで届くかというと難しいと思いますもの」 「んーと……」 真菜華は2人の話し合いに口を挟むことが出来ず、目をぱちぱち瞬かせている。 そんな彼女は放っておいて、エミールは相談を続けていく。 「ソフィアさんが裏切った可能性も考えておかねばなりません。タイミング的にしっくりきますし」 ラズィーヤが頷いてエミールの次の言葉を待つ。 「その際には、パートナーとなった方と、離宮にいる部隊全体が人質に取られている形になります。目的がわからない以上、打つ手はありませんが……仮に『ソフィア自身の手だけで完結するものでなければ』人質と交換に交渉を持ちかけてくる可能性があると思われます」 「そうですわね。誰かの陰謀であるのなら、わたくし達は相手側からの接触を待つしかありませんわ」 「現在の状況はラズィーヤ嬢の想定の範囲内ですか?」 「報告を聞いた限りでは、彼らがなすべきことをなしてくだされば、現状を打破することは不可能ではないと思いますわ。わたくし達はわたくし達のすべきことをするまでです」 そうラズィーヤは強い笑みを見せた。 「……で、真菜華は何をすればいいでしょうか! 雑用でも何でもどんとこいですよっ!」 しゅたっと真菜華が手を上げる。 「そうですわね。それではわたくしの代わりにお昼寝でもしていてください」 「えっ?」 「避難を呼びかけることになりましたら、走り回って沢山動いていただくことになりますから」 にこにこ笑うラズィーヤの顔は、化粧で隠していても疲れが表れている。 真菜華はなんとか手伝いたいと思うのだけれど、何も出来ないもどかしさを感じるのだった。 直後にラズィーヤは次の来客と密談をする為に、別の応接室へと向った。 「まさかこちらにお伺いするこになるとは……」 少し驚いた様子で応接室の椅子に腰掛けたのはエリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)だ。 ラズィーヤに内密な相談があると連絡を入れたところ、ヴァイシャリー家に呼ばれたのだった。 「少々立て込んでおりまして。で、どういったお話でしょう?」 「ソフィアに代わって転送を試みてみたい」 その言葉にラズィーヤが怪訝そうな目を見せる。 「離宮と連絡が取れなくなり、意見調整役としての仕事も無くなったも同然だからな」 出された茶を一口飲んだ後、エリオットはこう語りだす。 「ソフィアができる。鏖殺寺院の白輝精および分身のヘル・ラージャもできる。『あの』エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長もできる。特に最後は地球人で、自分は彼女の転送魔法をとある依頼で体験したことがある。ならば同じ地球人でウィザードが本分の自分が転送を使える可能性は皆無ではないはずだ」 「……」 「イルミンスール生のウィザードがソフィアに代わって、転送させるかもしれない。そういうことだ」 くすりとラズィーヤが笑みを浮かべる。 「とても面白い案ですわ」 無論これは『ハッタリ』だ。 ラズィーヤに利用させて、転送が出来る者が本部にいると情報を流すことで、潜伏している可能性のある『敵』をおびき出そうというものだ。 「転送術者の手配は行っております。その方を守るためにも、是非お願いしたいですわ」 ラズィーヤはかなり乗り気であり、エリオットは全面的な協力を得て、転送を試みるための部屋を百合園女学院に用意してもらうこととなった。 |
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