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リアクション
「こちらの目を離宮にひきつけて、それを利用して別のナニカをヴァイシャリーに対して行ってくる可能性もあるのである」
エレンのサポートとして隣に座っているプロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)がそう言い、その隣に座るフィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が補足する。
「調査隊救出を主眼としつつ、地上の軍や戦力は浮上した場合に対する防衛体制を構築、同時にヴァイシャリーに対して行われるそのナニカの動きを掴むために近辺の動き探査、調査も強化せねばならぬのじゃ」
「離宮の浮上に関しては兼ねてより検討されていましたので、兵器が残っている可能性も考え、ある程度の防衛についてはラズィーヤ様が軍に要請していると思います。ナニカは漠然としすぎていていて、人員を割くことは出来ないと思います。誰がなにをどうすればいいかその点のご提案をお願いします」
春佳がそう言う。どこも手が回らない状態だ。軍にも全く余裕はない。
考えられる一つの事態を想定した案でしかないため、それでも行わなければならない理由としては弱かった。それに力を注げば、避難への呼びかけなどに遅れを出すことになる。
ヴァイシャリーに被害を及ぼさないことは重要だが、そのために離宮に他校の契約者多数と軍人まで投入し、十分調査と攻略ができる人員を割いているはずなのだ。
余力はない。それは前々から判っていたことだ。
「転送は今までのように大人数は無理と思われますが、まず出力の強い指向性通信機などを準備し、通信の回復を目指しましょう。それから救出のための方法の検討も始めなければなりませんわ」
エレンがそう言う。
「イルミンスールの教師とか、魔法に詳しい人に教えてもらいつつ、トンネル掘削に精通してる企業や技術を持っている学校に教わって、掘って救出することもできるかな?」
アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)の答えに、マリザが首を左右に振る。
「掘って辿りつくには距離がありすぎると思うわ。結界も外部からの干渉で一部分だけ解除できるようなものじゃないし」
その言葉に軽く顔をしかめつつ、真剣な表情でエレンは言う。
「協力を呼びかけなければなりませんわ。この件の提案、実行は私の名前で行い、責任を負います」
エレンがそう言い、春佳が頷くもこう言うのだった。
「協力して下さる方はいると思いますが、不用意に情報を流して混乱を呼んでしまったり、その為に他のやらねばならないことが疎かにならないよう、状況を見極めてお願いいたします。少なくても、他校は厳しい状況の中、既に契約者の派遣という最大限の協力をしてくださっております、世界的なことや自校のことでどこも精一杯ですから」
春佳も皆も、表情を曇らせるが落ち込んでなどいられない。
「なんで通信が出来ないのかわからないからな」
コウが眉間に皺を寄せながら発言を始める。
「地上側からでは情報が少なすぎて動くとしても当てずっぽうにならざるを得ない。下手に動いて、必要時に対処に動けなくなっては困る。回復したと思われるファビオも、離宮側も何らかのコミュニケーションをこちらと試みようと行うはずだ。その兆候や合図、彼らの声なき声を見逃さないよう注意していくべきだと思う」
コウの言葉に集まった皆が頷く。
「発信機が持ち込まれているとのことだが、離宮側からのアプローチの例として、発信機を使ったモールス信号などの合図を送ることも可能だと思う。時間の流れや空間の性質の違いにより界面で電磁波が屈折する可能性もあろうだろう。物資の転送が出来るのなら、そういった通信が出来るものを優先すべきかもしれない」
「そうね。最初から人間を送るのは不安ですし、通信のできる機器を送ることを検討しましょう」
春佳はそう答えて、ホワイトボードに記す。
「報告なんだが」
匿名 某(とくな・なにがし)が手を上げる。
「どうぞ」
春佳の言葉を受けて、某は話し出す。
「離宮との連絡が途絶えた理由は不明だが、どういう形にしても敵が動いた可能性がかなり高い。そうなると地上本部でも狙われる人間が出てくる可能性がある。その候補がラズィーヤ、アレナだと思う」
「本部長と、現場指揮官のパートナーだからですね」
春佳がそう言い、某は頷く。
「とういわけで、アレナ・ミセファヌスを、俺のパートナー大谷地 康之(おおやち・やすゆき)に護衛させてる。理由はアレナが総指揮をしている神楽崎優子のパートナーだからだ。パートナーロストによる影響を狙って敵の標的になる可能性があるからな」
「そうですね。よろしくお願いします」
「物資の転送が出来そうなら、早急に必要と思われる物資を送らなければなりませんね」
葉月は書記を務め、必要な物資をピックアップしながらそう言った。
いつもどおり、本部の隅には転送用の物資が並べられている。
席にはつかず、物資の整理や準備を行っている者達も変わらずいる。
「新たに行かれる方がいるのなら、面談も担当させていただきます」
「すぐには行けないけれど、準備は進めておいた方がいいよね」
ミーナがそう言葉を続けた。
「是非行きたいでござる、ニンニン」
「よろしくお願いいたいます」
手を上げたのは、本日協力に訪れたばかりの秦野 菫(はだの・すみれ)とパートナーの梅小路 仁美(うめこうじ・ひとみ)だった。
「それでは、推薦状を確認させてください」
「これのことでござるか、ニンニン」
菫、そして仁美が推薦状を葉月に渡す。
葦原明倫館の推薦状だった。
「助かります」
春佳が2人に礼を言う。
「それでは登録しておきます。志願理由などは後ほどお聞かせいただきますね」
葉月は確認した推薦状をミーナに渡す。
「状況はかなり厳しいと思われますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「任せるでござる、ニンニン」
葉月の言葉に、菫はにっと笑みを浮かべる。
「お願いね」
ミーナはオレグの所に歩いて、名簿に名前を入れてもらえるよう頼むのだった。
これから行く人も。
離宮で頑張っている人も、全員無事に戻ってこられるように祈りながら。
アレナ・ミセファヌスが白百合団員の仕事から帰ったその日。
「今日は……なんかテンション低いな?」
食料を買いに出かけるというアレナを康之は約束どおり護衛していた。
元気のない彼女を、怪訝そうに見る。
アレナは淡い笑みを見せるけれど、なんだか違和感を感じて……。というのも、彼女の目が泣きはらしたかのように赤いのだ。
元気を出してもらおうと、明るい話をしながら買い物に付き合って、百合園女学院の寮の側で別れる。
「なんかあったら連絡しろよ!」
そう微笑みかけると、なんだかとても寂しげに、アレナは頷いた。
「もしかしたら……たぶん、護衛必要なくなるかもしれません。ありがとう、ございました」
突然、アレナは深く深く頭を下げたかと思うと、そのまま寮に駆けていった。
「なんかなくても連絡してくれよ〜!」
よく分からないまま、康之はぶんぶん手を振って彼女の後姿を見送った。
アレナは振り返って、また頭を下げて、寮の中に入っていった。
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