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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

リアクション

 幸い、塔の上部に敵の姿はなかった。
 荒れた息を整えながら、前衛から時計の裏になっている狭い部屋に、慎重に足を踏み入れていく。
 殿の刀真と月夜は階段の終点に、敵の接近を防ぐために残る。
「大丈夫ですか? お怪我が少なくて何よりです」
 エメの身を案じながら、蒼がエメにヒールをかけ、それから仲間達をも回復していく。
「まだまだこれからですね」
 そして、驚きの歌でエメの精神力を回復し、自分自身はSPタブレットで一息つく。
「調べておく必要はありますが、特にここには何もないようです。転送の際に送り込める場所の1つと聞いていますし、ここを確保した状態で、地下で眠っているというジュリオ・ルリマーレンの解除を急ぐべきかもしれません」
 そう意見したのは真紀だった。
「窓から塔の外に出られるようだよ。梯子を降りれば宮殿の屋上に出られる。屋上からは非常階段を使っても外に下りられそうだね」
 サイモンが周囲を調べて、マッピングしながらそう言った。
「上りながら考えていたのですが」
 エメが汗を拭いながら話し出す。
「ソフィアさんはジュリオを起こすのは最後にした方がいいと言っていました。ですが、彼が何らかの鍵を持っていることは確実ですので、起こす、起こさないは別として居場所は早く確認しておくべきだと思います。気がかりな点がいろいろとありますが、慎重に調査している時間は無いかもしれません。先入観に囚われず、見て感じ取った、その瞬間の判断で動きたいと思います」
「四条輪廻達、宮殿に残った者も心配であります。調査に残る者と、探索に出るものに分かれましょう」
 真紀がそう提案し、刀真が頷く。
「では、エメさんと蒼さん、真紀さんとサイモンさんは地下に向ってください。俺と月夜がサポートします。残りの方はまずここと外の調査と記録をお願いします」
 刀真がそう指示を出し、解放班のメンバーは返事をした後、各々素早く行動に移す。

「四条殿……なにかあったでござるか?」
 部屋に入り込み、敵の様子を伺う輪廻に、白矢が問いかける。
「どうした」
「いえ、なにか、辛そうな顔でござるから」
 その言葉に、しばらく沈黙をした後。
 輪廻は自分の銃に目を向けて、軽く首を横に振った。
「……初めて人を殺した……いや、ここに来るまで、覚悟が足りなかったのだろうな。ここに来なければもう少し平和に過ごせたかも知れん、が ここがあることを知ってしまった、俺がやらずとも誰かがやる」
 最初に遭遇した際に、隊長の刀真が敵の首を刎ねる姿も目にしてた。
「なら俺がやる、せめて、一人の顔も忘れることなく、看取ってやる……二手に分かれるぞ」
 最後ははっきりとした口調で言う。
「了解でござる」
 白矢も強く頷き、共に廊下へと出た。
 隠れ身を使った状態で、置物の陰へと別々に隠れる。
 中は薄暗いが、見えないほどではない。
 万が一にも、今は火事を起こすようなことがあってはならないため、火術や戦闘時のたいまつの使用は禁じられていた。他に光源になるものを持ってくればよかったと少し思いながら、輪廻達は移動し、敵の急所を撃ち抜いていく。
「階段が結構ある。……地下にも続いているようだな」
 中央の階段も、廊下の奥にある階段も地下へと続いている。
「行くでござるか?」
「……ああ」
 輪廻は更なる覚悟を決めて、白矢と共に階段を駆け下りた。

 時計塔から宮殿へ続く扉を開け放ち、ジュリオを探しに行く者達が下りていく。
 下を覗くと、自分達が通ってきた道――人間と同じ姿の光条兵器使いの遺体が沢山目に入る。
「皆、頑張って、下さい」
 陽太は疲れているからだけではなく、荒い呼吸を繰り返し、勇気を奮い立たせながら、刀真達と共に、銃で階下に向った者達を援護していく。
 その間に、最上部に残ったメンバーで時計塔を調べていく。
「特に変わったところはないわね。資料なんかも残されていないし」
 リカインが置かれている棚の中を見てみるが、特に何も残されてはいなかった。
「でも、なんだか違和感のある天井ですね」
 鞆絵が天井を見上げながら言う。
「ホントだ。きれいな石が嵌ってる」
 アストライト、そして皆も天井を見上げていく。
 厚い透明の石が嵌め込められた天井だった。
 天井近くに設けられた窓は、ステンドグラスだ。
 外から射し込んだ光が、塔内で色とりどりの光を放っている。
 特に何かがあるわけではないが、不思議な空間だった。

「宝物庫の方からもなるべく離して。外で倒せる敵に中は狙わせない。だけど、別邸の方には絶対行かせたらダメ」
 ティリアがそう指示を出し、補佐班のメンバーは外に出ている光条兵器使い達を遠距離攻撃で倒していく。
 ただ、彼らには猿以上の知能はあるようで、攻撃を受ければそちらの方へ狙いをつけてくる。
 銃のような兵器を持った男が、補佐班メンバーが沢山潜む植木の方へ続けざまに光を撃ち込んでくる。
「皆、頑張って」
 少女達が戦う様に、美羽は心を痛めながら、傷ついた彼女達を治療していく。
 宮殿入り口の扉は開かれたままであり、そこからも次々に光条兵器使いが飛び出してくる。
「班長、精神力が……」
 木陰で魔法で敵を狙っていた少女が、精神力を切らしてしまう。
 他のメンバーの精神力も尽き掛けていた。
「ひきつけるのも大事だけど、交代で休まないと!」
 言って、美羽はブライトマシンガンを構えると、敵に向って撃ち放っていく。
「力の尽きた人は救護所に。回復したらすぐに戻って!」
 ティリアの指示に従い、美羽が敵の目をひきつけてくれている隙に、メンバーの数人が離脱していく。

〇     〇     〇


「この別邸には地下への入り口はないみたいね。良いことなのか悪いことなのかわからないけれど」
 祥子同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)と百合園生と共に、別邸の床を見て回ったが、地下に続く入り口は存在していなかった。
「全部届いてるのかな」
 事務用の部屋に戻ると、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が通信機の調整をしていた。
「通信機の状態、相変わらず悪いんだよね。少しでも聞き取りやすくなってくれればいいんだけど」
 通信機から流れてくる声は、相変わらず途切れ途切れであり、調査状況もあまり良いとはいえないらしい。
「通信機の話聞いてると、色々変な状況みたいだよな、何だか裏がありそうだ」
 離宮に訪れたばかりのミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)は、別宅で救護班の相談に混じっていた。
「皆も知っていることがあったら、話してくれると嬉しいぜ! 何をすればいいのか、判断出来ないしな」
「私達にも良くわからないんです……。本部の首脳部の方々が把握して、指示を出してもらった方が、各々の判断で動くより良いと思うのですが、その本部とも連絡が取れなくなっちゃって」
 百合園の一般生徒達はやはり不安気であった。
「大丈夫大丈夫、すぐ回復するさ!」
 ミューレリアはパシパシと少女達の背を叩いて笑顔で励ましておく。
 その様子に、軽く笑みを浮かべて祥子は頷く。
「さて、私は重傷者の治療をするわね」
「わたくしは軽傷者用の部屋で待機しています。母様も、精神力が尽きましたら休憩なさって下さいね」
「大丈夫、わかってるわ」
 祥子と静香は分かれて治療に当たることにする。
 運び込まれる人々が少しずつ増えていた。

「酷い怪我しちゃったの。お願い!」
 別邸の玄関から美羽が入ってくる。白百合団の少女に肩を貸していた。
「お預かりします。すぐ治療を! 美羽も気をつけて」
「うん」
 待機していたパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に怪我人を預けると、美羽はサポートの為に再び別邸へと向っていった。
「すみません、手当てはしていただいたのですが、精神力の回復の為に休ませてください」
 後から、少女が2人別宅へ戻ってくる。
「お2人はあちらの部屋で待機していてください。後で治療に伺いますので」
 休憩用の部屋を指した後、ベアトリーチェは重傷の少女を連れて歩く。
「あちらの部屋へ行きます。段差に気をつけて下さい」
 少女に声をかけて、体を支えながら、ベアトリーチェは治療部屋へと彼女を運んでいく。
 少女は青い顔のまま、ただ頷くのだけで精一杯なようだ。
 ベアトリーチェは倒れそうな彼女を力強く支えて、部屋に運び入れる。
「ここに寝かせてください」
 治療を担当している本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が指示を出し、クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がベアトリーチェに手を貸して、少女を横たえた。
「楽にしてて下さい」
 ベアトリーチェは少女にそう声をかけると、涼介に預けて、自身は軽傷者の治療へと戻っていった。
(傷口に異物が入っているな)
 麻酔を持ち込めてはいないため、涼介は片手で少女の体を押さえつつ、ピンセットで傷口から瓶の破片のようなものを取り出した。
 少女が悲鳴を上げて、涙を流す。
「もう終わりです」
 言って、ヒールを数回かけて傷を癒してあげた。
「あなたは、地上に戻ったらきちんと病院に行って下さい」
 涼介は症状をノートに書いて、少女に手渡した。
「ありがとうございます。少し休んだら、また出ます」
 顔色は青いままなのに、気丈な言葉だった。
 無理はするなと言える状況ではないので、涼介はただ頷いて彼女を別の部屋へと送り出した。
「回復いたします」
 清潔な治療場所作りに勤しんでいるグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)が涼介に近づいて、SPリチャージで涼介の精神力を回復させる。
「ありがとうございます」
「おしぼりどうぞ」
 続いてグロリアは布巾を絞って、涼介に渡す。
 受け取って、涼介は手と汗を拭った。
 そして薬品で手の消毒をする。
「次の患者もお願い!」
 クレアが涼介に声をかける。
 脇腹を深くえぐられた――こちらも若い少女だった。
 すぐに、涼介は怪我を診る。
「こちらの方は私が治せると思います」
 アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)は、その子の友達と思われる少女に近づく。
「私は大丈夫です」
 少女はそう答えるが、手には深い傷があった。
「放っておいたら、ばい菌が入るから」
 言って、アンジェリカはヒールで少女を癒した。
 こうして自分がプリーストとして力を発揮することは――悲しいことでもあって、心が沈みそうになるけれど、そうしている間に、助けられる命が助けられないような事態になってはいけないと、小さな心を奮い立たせて、積極的に患者の下へと走るのだった。
「手伝います……」
 小さな声で言って、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)は、アンジェリカにSPリチャージを使って、彼女の精神力を回復する。
 人見知りが凄くて、やっぱりパートナーのグロリアやアンジェリカ以外の人と話すのは怖いけれど、逃げて隠れている場合じゃないということがよく分かって。
 レイラも一生懸命、気力を振り絞って手伝いをしていく。
「敷物を換えましょう。ビニールを敷いた方が良さそうですね」
 土や血で、敷物が汚れていく。
 こまめに掃除を行っていても、血の匂いも充満していき、病院の病室のような空間を保てはしなかった。
 汚れた毛布を畳んで、新しい敷物を敷いて、滑らないよう工夫をしながら一角にビニールシートも敷いていく。拭けば汚れを落とせるようにと。
「それじゃ、毛布を洗濯場に届けた後、私は軽傷者の治療に行ってくるね」
 クレアが畳まれた毛布を抱える。
「それと、急がしくなってきたから、周囲の見回りも。ここ、気付かれたらまずいから」
「頼みます」
 治療をしながら、涼介が言い。
「お願いします」
 グロリアも、手を休めることなくそう言った。
「みんなで地上に帰れるように頑張らないとね」
 クレアは毛布を抱えて、その部屋を出ると洗濯場へと向っていった。
 宮殿側の窓は閉ざしてあるので、外の様子は見えない。
 ただ、戦いの音が、時折ここまで響いてくる。