リアクション
〇 〇 〇 集会所の方に集まっている人造兵器達も、集会所を破壊してはこなかった。 ただ、不気味に取り囲んでいるだけだ。その姿は指示を受けるまで直立不動で待っている軍人のようにも見えた。 「このまま篭城を続けても、状況が良くなるとは思えない」 国頭 武尊(くにがみ・たける)が、集会所に留まるメンバーに目を向ける。 「だったら、地下通路に活路を見出すだけだ」 幸い、集会所には地下への入り口があった。 ただ地下からは、何かが行軍するような奇妙な音が聞こえてくることが気がかりだが。 それでも、ここに留まっていても事態は何も変わらないのだから。 「地下に何か施設があるみたいだよね。隠してあるのは表に出来ない何かを作っているのか、実験でもしているのか」 清泉 北都(いずみ・ほくと)が大きく息をつく。 「どちらにせよ良い事は無いだろうね。それでも今進めるのはここしかないから、覚悟を決めて先へ進むよ」 そして、鬼院 尋人(きいん・ひろと)が決意して言う。 「下りよう」 集まった全員が頷く。 順番に、慎重に下りることにする。 ゴーレムに扉を死守するよう命令をを出した後、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)は皆の後に続いて、地下へと下りた。 「お願いします、ね」 そっと小さく声を出す。 心のない存在であっても、見捨てる形になるのは心苦しいと思いながらも、自分達の安全を優先せざるを得なかった。 「倉庫、か」 武尊が声を上げる。物資を貯蔵しておく倉庫がその部屋にはあった。 それだけではないだろうと、部屋の中を見回して、ドアを見つける。 まるで牢屋のドアのような重く頑丈に見える金属のドアだった。 武尊がピッキングで施錠されていたそのドアを開けて、雪豹の姿と化した獣人の呀 雷號(が・らいごう)が先行する。 薄暗いが明かりが灯っている。 左側――北方面から何かが行軍するような音が響いてくる。 「落ち着いて……音を聞き分ける……近づく音か遠のく音か……機械音以外の音がないか調べよう」 雷號は耳を澄ます。行軍するような音は、遠のく音だ。 「送風管か、壁の向こうに別の空間でもあれば何とかできるかもしれないが……」 そして壁に耳を押し当ててみる。 壁の向うから、音はしない。 「闇雲に歩き回っても、本陣にたどり着けないだろう。罠や光源の管理盤があると思われる制御室を見付けたいんだが」 武尊がそう言い、尋人と共に雷號に続く。 シーリルは武尊から筆記具を借りて、マッピングを始める。 「できるだけ戦闘にならないように、静かに行こう」 尋人は、トレジャーセンスで北方面に目を光らせる武尊と、後方に立ち、南方面に注意を払う北都に探索は任せながら、雷號が先行する先に集中をしていく。 不気味に響き渡る、何かが行軍するような音、それがこちらに向ってきたのなら――自分達は逃げ切れるだろうか。 尋人は脳裏に浮かぶ死のイメージを首を振って吹き飛ばし、先輩の顔を思い浮かべる。 (黒崎だったら、こういう時どうするだろう) 黒崎 天音(くろさき・あまね)は薔薇の学舎の尊敬する先輩だ。 今頃はダシガンで学友と紅茶でも飲んでいるのだろうか。 普段からいつも、彼に物事をよく理解し、考えることと教えられている。 「こんなヴィシャリーの地下で袋のネズミになっているなんて、黒埼に見せられないなあ……」 小さく呟いて尋人は苦笑する。 『離宮』という響きにどこか甘い幻想を持っていた。 王様や女王さまが政から離れて心を癒す場所のイメージ。 でもここは今はどう見ても要塞にしか見えない。 だが自分で志願してここまで来た。 あきらめたくない。 (騎士として、今の自分に出来る事をするしかない。進むしかない!) 尋人は、立ち止まったら死が待っていると本能的に感じ、拳を握り締めて集中をしていく。 「もしかしたら宮殿や塔のどこかに繋がっているかもしれないね」 北都は地図を見ながら歩く。 地図の中で、北方面に描かれているのは北の塔だけだ。 南側は真っ直ぐ下れば宮殿のはずだ。更に真っ直ぐ南に進めば、本陣である南の塔があるはず。 しかし、南の塔への入り口は封鎖したと通信機で連絡を得ているので、途中で地上に出る必要がありそうだった。 最後に地下道に出た白銀 昶(しろがね・あきら)は、トレジャーセンスで北都と一緒に南方面に注意を向ける。 「見える位置に、ドアや分かれ道はないな。天井についている装置が監視カメラの類なら、オレ達の存在、知られちまってるだろうな。ま、知的生物がいたらの話だが」 地下道には罠が仕掛けられているという話も耳にしている。罠に注意しながら、陣を目指すことを優先すべきか、少しでも探索を行うべきか皆に迷いが生じる。 「ドアがある。集会所へ続いていたドアよりも頑丈そうだ」 武尊が北方面に見えるドアに違和感を覚える。 超感覚で神経を研ぎ澄ませながら、雷號が近づいて探る。 気配がないことを確認し、ピッキングで開錠する。 ドアを極力音を立てず、しかし素早く開けた後、即座にドアから離れる。 何事も無いことを確認した後、そっと近づいて中へと入る。 その後に、尋人、武尊、シーリル、北都、最後に周囲を見回した後、昶が部屋へ入りドアを閉めた。 北都が光精の指輪から精霊を呼び出して、辺りを照らした。 「なに、ここ……」 精霊の光に映し出された光景に、北都、そして皆も息を飲んだ。 広い空間の左右が、氷の壁のような水晶に覆われており、その中で沢山の人が眠っていた。 「居住区に住んでた人、かな? それにしては……」 北都は見回していくが、その中には老人や子供の姿がない。 「村程度の家があったんだ、家族も住んでたはずだよな」 言いながら武尊は部屋の中を回り、制御盤などがないかどうか調べて回る。 何もない。 だが、部屋の奥の壁が奇妙に刻まれていることに気付く。 「魔法陣……?」 近づいて、少し恐怖を感じながらも尋人が触れてみる。 何も起きはしない。 だけれど……。 この壁の奥に、何かあるかもしれないと思う。 宝物庫からの連絡は全体に流れており、魔法陣の先に部屋があったことも耳にしていた。 「どうする? 制御盤なんかがある部屋かもしれないけど……」 北都が皆を見回す。 「ここの把握だけに止めよう」 武尊がそう言う。侵入をきっかけに、ここの人間達が目を覚ます可能性も、ある 「そうだね」 北都も言い、尋人も頷いた。 まずは生き残ることだ。 本陣に帰還できるかどうかもわからない状況で、深入りや独自判断による調査はすべきではないと考え、一同はその場を記憶することに留めて、部屋を出ることにする。 「ここで眠っているのは、有機質で作られた……剣の嫁タイプの人造人間とも考えられる。そして、北側に向っているのは、機晶姫タイプの人造人間ではないのか」 武尊がそう呟き、シーリルが不安気に目を北側に向けた。 「こっちの人造人間も動き出したら厄介だぜ。あと、水攻めなんかがあったりしてもな。地下室が使えなくなる可能性も考えると、急いだ方がいいかもな」 昶がそう言い、先に出て周囲を確認する。 「あっ」 シーリルが小さな声を上げる。 部屋の中の水晶が淡い光を放ち始めたのだ。 「帰るぞ! 先行する」 雷號が飛び出す。 「戻ろう、皆の元へ!」 尋人がその後に、続き、皆も急いで飛び出す。 「一時的にでも……っ!」 北都はドアを閉じた後、氷術で凍らせた。 そして、南の方へと駆け出す。 |
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