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嘆きの邂逅(最終回/全6回)

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嘆きの邂逅(最終回/全6回)
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地上編

第1章 嘆きの騎士ファビオ

 濃い珈琲を飲んで眠気を覚まし、電話や来客対応に勤しんでいく。
 百合園女学院の離宮対策本部にも顔を出したいのだが、北塔がヴァイシャリー家の敷地内にある以上、そちらの対策も行わなければならず、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は相変わらず、家を離れることが出来ずにいた。
 その傍らでエミール・キャステン(えみーる・きゃすてん)は、メモボードを増やして、ディスプレイを手配し、ラズィーヤのサポートを行っていた。
 自分のパソコンとディスプレイを繋いで、データを表示していく。
 対応に追われているラズィーヤの負担を少しでも軽くするために、彼もまた休みを取る暇もなく働いていた。
「離宮本隊の戦況は芳しくはないようです……が」
 電話が途切れたチャンスに、エミールは資料を見ながらラズィーヤに意見する。
「焦って浮上させたところで手が足らないのは地上もですよ」
「……」
 ラズィーヤは直ぐには何も答えなかった。
「地上も離宮も、それぞれ対処し、離宮内を制圧した後、準備期間を設けて浮上させればよろしいのでは?」
 ラズィーヤ電話が入り、一旦会話が途切れる。
 彼女が2度ほど返事をしただけで、その電話は終了した。
 エミールは意見を続けることにする。
「封印しても施設がそこに残る限り火種になりかねません。それでしたら、百合園の寮生などの仮住まいなどを準備した上で、浮上させ、入手すべきものは入手し、存在が懸念されるものは処分してはどうでしょう?」
「それは無理ですわ」
 ラズィーヤはくすりと底の見えない笑みを浮かべた。
「離宮の封印は既に半分解かれています。6箇所で支えることと人柱が必要である封印が半分解かれ、ジュリオ・ルリマーレンの覚醒も進められています。その状態でいつまで離宮内が正常な状態であれるのかは分かりません。これ以上ゆっくり調査を行っている時間はないのです」
 ティーカップに手を伸ばして、ラズィーヤは珈琲を一口飲んで、息をつく。
「……また先ほど申し上げたように、街に被害が出るとなると、お父様や民から反対が出ます。その反対を押し切れる理由はわたくしには思い浮かびませんわ」
 なぜなら、離宮を浮上させた場合、ヴァイシャリー家の8割が被害に遭う可能性があるのだから。
 ヴァイシャリー家の者、連なる貴族は勿論のこと、貴族達が雇っている使用人も住処や職を失う。何千人の人々が路頭に迷うことになる。学生である百合園の生徒は実家に帰省するなり、そもそも学費を払って学校に通っているのだから学校に通えなくなっても生活に困ることはあまりないのだけれど、被害を受ける民達はそうはいかない。
 直接の被害を受けるのはヴァイシャリー家と連なる貴族と関係建造物だけ、ということは。逆に言えば、ヴァイシャリーを治めている人々と財産に多大が被害が及ぶということ。
 避難させる民や職を失った民達の生活を支える資金はどこから出るのか。
 直接の被害を受けなかった貴族達も、ヴァイシャリーの経済の打撃の影響で自分の家を守ることさえも危ういだろう。
 封印という手段が存在する中、そんな悲惨な未来が見えているのに、浮上に賛成する者がいるだろうか。
「貴族や民達に、浮上を了承させるタイミングは、ヴァイシャリー軍人……彼等の家族や友人達が危機に瀕している今しかないのですわ」 
 また、電話が鳴り始める。
「わたくしの考えについては他言無用ですわよ」
 軽く瞳を煌かせて、ラズィーヤはにっこり微笑んだ。
 そして、通話を始める。貴族からのクレームのようだ。
 今度の電話は長くなりそうだった。