リアクション
〇 〇 〇 「離れないでね。敵意を見せると襲い掛かってくるわよ」 円にそう言って、ソフィアは円と手を繋いで北の塔へと進む。 塔の前にはずらりと魔道兵器の類が並んでいる。数は数百。千には満たないと思われる。 「道を空けなさい」 ソフィアがそう命令すると、魔道兵器が動き出し、北塔までの道が開かれる。 円と共に、ソフィアは北の塔へと入り、一息ついた。 「どうしようかしら」 少し……いや、決断までしばらく時を要した。 その時。 ソフィアが持つ通信機が音を立て、ヒグザから連絡が入る。 「北の塔の内部にいます。……はい、こちらへ連れて来て下さい」 ソフィアがそう答えた直後に、ヒグザが扉の外へ現れる。 連れているキメラは僅か十匹。 「やはりクリスと連絡がとれん。地上の警戒もかなり厳しく、厄介だ。この上にキメラが集まってから、あと一度のテレポートで済ませる」 ヒグザはソフィアの側まで歩み寄り、壁に背をついた。離宮地上間のテレポートはかなり負担らしく、疲労が隠せない。 「こちらも予定外のことが起こりました」 ソフィアは地下が爆破され、地下に集めていた光条兵器使いを中心とする兵器の大部分を出せない状況にあることを説明する。 「その状態で戦力差は?」 「ややこちらが優勢かと」 「ならば、出ている分だけ敵に送れ。もとより地下の分は、地上攻略に充てねばならんからな。俺は頃合を見て地上に戻り、キメラを連れてくる」 更にヒグザは転送の負担を軽減するためにも、ここの兵器を送った後、北の塔の封印を解くように、その状態で兵器の指揮もするようにとソフィアに命じていく。 「わかりました」 ソフィアは素直に返事をする。 円はなんとも言えない顔で、2人をただ見ていた。口を挟んでも、ソフィアや自分が不利になるだけだと分かっていたから……。 「フィス姉さんもこっちに来てくれるって話だけど、この数……」 宮殿から真っ直ぐ北の塔へ訪れたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、集まっている人造兵器達の数を見て、眉間に皺を寄せる。 隊長を通じて聞いた戦況によると、東塔に集まっている敵だけなら、東塔で防衛についているメンバー……つまり、大多数のヴァイシャリー軍人と、契約者の一部、救護要員の百合園生達で対処できる見込みだが。 この数の兵器が押し寄せたら全く歯が立たないだろう。 「少しでも、数を減らしておくべきね」 「リカさん……」 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)は、心配そうにリカインを見ながら、内心、決意を固めていく。 自分が英霊としてこの地に現れたのだと知った時、何故静かに眠らせてくれないのだろうと思った。 それならそれで、なるべく穏やかに過ごそうとも。 でもかつての自分と……いや、それ以上の無茶をする娘、リカインと出会った時、鞆絵は、彼女を放ってはおけないと感じてしまった。 かつての自分には、無茶をする理由があったけれど、彼女には無いように見えたから。 でも、今は違う……。 「リカさんは……仲間の、そしてヴァイシャリーの、いえ、それ以上に多くの人のために、今までで一番の無茶をしようとしています」 鞆絵の呟きはリカインには届かず、リカインは人造兵器達に攻撃を仕掛けていく。 「俺も変ったのかねぇ……っと、余計なこと考えてる場合じゃねぇか」 アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は、盾を構えてラスターブーメランで、飛び道具を持つ敵を攻撃していく。 「騒がしくなってきたな」 舌を鳴らして、ヒグザが言う。 「纏めて飛ばせ」 「分かりました」 ソフィアは塔の外に出て、リカイン達の方を軽く見た後、両手を広げて集中をし、集まっている数百の兵器を――転送した。 「一旦、戻りましょう」 無表情で塔へ戻ると、円の腕を取り、ヒグザに腕を回して抱きしめて、設備が整っている機関室へとテレポートする。 離宮の非常階段を下りて、直接使用人居住区の方面に向った攻略隊のメンバーのうち、樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、居住区内の北付近の崩れて陥没した場所から地下道へ下りていた。 魔道兵器、人造人間が集まっている場所からして、この辺りになんらかの施設がある可能性が高いと踏んだ。 崩れて通れない場所の少し手前。 何かを詰め込まれふさがれている壁を発見した。 剣で突いてそれらを落とし、開いた空間の中に入り先の部屋へと下り立つ。 「ここは……」 コンピュータールームのような部屋だった。 大きなスタジオにあるミキサーのような機械や、パソコンのキーボードのようなボタンが沢山ある。 それから、マイクと思われるものも。 壁には沢山のモニターが設置されており、離宮内の映像が映し出されていた。 刀真と月夜が入り込んで中を見回していたその時。 突如目の前に、人物が3人現れた。 ――ソフィア・フリークス、ヒグザ・コルスディ、桐生円の3人だ。 「壁が壊れた所為で、虫が入り込んだようです」 ソフィアが2人を後ろに庇って、前に出る。 ヒグザは後ろから円の首に腕を回し、後方へと下がる。 刀真は剣を構えることなく、静かな口調で語り始める。 「先程の宣戦布告はお見事……と言いたい所ですが残念でした、地上で転送術者を確保していたので大した混乱はありません」 軽く、ソフィアの眉が動いた。 「ソフィア、君は専用の機械を使ってキメラを操るつもりなのでは? ならばクリス・シフェウナが持っている機械でも操れますよね?」 「私にキメラは操れないわ。クリスの機械を持っているとでもいいたいの?」 刀真はソフィアが専用の機械かなにかを持っているのではないかと踏んだのだが、彼女はそのようなものを現在手にしていはいない。 別の方向から、揺さぶりをかけることにする。……慎重に。 「ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)を保護しています、彼女にもしもの事があれば君達がどうなるか解りますよね? 桐生円、賢しきソフィア」 「円はこちら側の人質でもあるのよ。仲間に貴方達が何かできるわけないでしょ?」 やれるものならやってみなさいとソフィアは余裕の笑みを見せた。 「……仕方ありませんね」 刀真は通信機に手を伸ばし、連絡を入れる振りをする。そして、もう片方の手の指で、自分の後ろに半身だけ隠れている月夜に合図をした。 瞬時に刀真の体の後ろから、刀真が腕を上げて出来た空間から銃口を覗かせて、月夜は撃った。 狙いはヒグザだ。 素早さだけに集中し、円には当たらない位置を狙ったため、精度が落ち、弾はヒグザの頬を掠めるに留まる。次の瞬間に、月夜は光術を放つ。刀真はそれに合わせて、神子の波動をヒグザに放ち、スキルを封じる。 「愚かなことを!」 同時に、ソフィアも氷術を月夜に放った。月夜の腕が凍りつく。 直後に刀真がソニックブレードをヒグザに向けて放つ。 ヒグザは円を盾にするが、身長差がありすぎる。 ソフィアが床を蹴って、ヒグザに飛びついた。機器類への影響を無視して、ソフィアはブリザードを放ち、すさまじい氷の嵐を発生させる。 刀真のヒグザの首を狙った一撃は、ソフィアの伸ばした腕を切落し、ヒグザの首を浅く切り裂いた。 ソフィアは傷口を押さえ、ヒグザに眼を向ける。 「現場に向かい指揮ととります。封印も解きますので急いでください」 「任せる」 「ごめん、ごめん……ありがとう」 その言葉と辛そうな顔、苦しげな笑顔を円に残して、ソフィアはテレポートで消えた。 ヒグザは梯子に手をかけ、部屋の外へと飛び出す。 「い……一緒に行くって、言ったのに」 円の声はソフィアには届かなかった。 残っているのは彼女の金の腕輪のついた腕と、流した血だけだ。 |
||