校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
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終章 終わりと始まりと 組織が北の塔への転送を目論んでいたキメラは、レン・オズワルド(れん・おずわるど)がヒグザ・コルスディに止めを刺したことにより、転送は行われなかった。 北塔でキメラに埋もれた彼を救出後に、エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)が、クリス・シフェウナから回収した制御装置が届き、キメラは制御され調査用の数匹を残し、ヴァイシャリー軍の一斉射撃により始末された。 獣型キメラも、対処に当たった契約者とヴァイシャリー軍の奮闘により掃討が済んでいる。 地上で死者はでなかった。しかし、離宮に下りた者のうち、ヴァイシャリー軍人の1割が帰らぬ人となった。 契約者は心身に深い傷を負った者が多数いたが、命を落とした者はいない。 結局、総指揮を務めた神楽崎優子は、アレナ・ミセファヌスの突き飛ばしにより意思に反して地上に戻されていた。 帰還直後、呆然としていた彼女は、他の負傷者と一緒に重症患者として病院へ運ばれていき、そのまま緊急入院となった。 関係者と優子の見舞いに病院を訪れた桜谷鈴子は、優子の病室の前で、ラズィーヤ・ヴァイシャリーの姿を目にする。 「……全て、貴女次第ですわ」 入り口で、そう微笑んで、ラズィーヤはボディガードと共に病室から離れる。 「ご機嫌よう。お元気そうでしたわよ」 鈴子の姿を見つけて、ラズィーヤはそう言った。 「ご機嫌よう。安心しました」 鈴子は頭を下げてラズィーヤを見送り、一人で優子の病室へと入った。 「……ラズィーヤ様は元気そうだったって仰っていましたけれど、イマイチかしら?」 優子はベッドに横になり、頭の下で手を組んでぼーっとしていた。 「いや、普通だよ。検査も済んだし、明日から仕事に戻る」 「休み中ですから、ゆっくりして下さい」 「キミ達にだけ働かせておけないよ。……けど」 優子は鈴子から視線を逸らして、天井をまた見つめる。その先の見えない何かを。 「落ち着いたら、少し長めに休みを貰うと思う」 「私は勿論、構いませんわ」 鈴子はふとサイドテーブルに置かれた書類に目を留める。 (……釣書?) 鈴子が問いの言葉を発するより早く、優子がこう言葉を口にする。 「白百合団の副団長、続けられないかもしれない」 「副団長辞めて、団長になるから?」 鈴子の返答に、優子が笑みを見せた。 「団長はキミにしか務まらないよ」 「そうかしら。そろそろ再編成や信任投票が必要かもしれませんわね」 「ああ」 小さな声で答えて、優子はまたぼーっと天井を見る。 鈴子は花瓶に百合を活けた後、「どうかゆっくり休んで」と小さく言葉を残した後、百合園に帰っていった。 「円さん達も峠を越したようですわ」 各方面の調整に奔走していた神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が本部に戻ってきた。 「それは良かったですわ。お話も伺いたいですし……」 病院から戻ったラズィーヤも、百合園に顔を出していた。 「被害状況も大体出揃ったのである」 プロクル・プロペ(ぷろくる・ぷろぺ)が、記録した被害状況を纏めた書類をラズィーヤに見せた。 街で最も被害を受けたのは、最初にキメラが上陸した船着場付近だ。 民家で被害を受けた家は少ない。多少壁に傷がついた家もあるが、引っかき傷程度は補償されないだろう。 「倉庫街やキメラを集めて戦闘を行った場所も、傷ついた建物があるのである」 「お父様にお話しておきますわね」 「うむ。それも大事なのであるが、なんか街が大分汚れちゃったのであるな〜。みんなで掃除とかしたらどうであるか?」 プロクルの提案に、エレンが頷いた。 「生徒会に提案してみましょう」 「そうである。百合園で行うのである!」 「ソフィアに関しては、やはり残念じゃったの」 フィーリア・ウィンクルム(ふぃーりあ・うぃんくるむ)が資料まとめを手伝いながら、そう呟いた。 ラズィーヤはその言葉には反応を示さなかった。 「避難した人も、もう自分のお家に帰ったよ」 アトラ・テュランヌス(あとら・てゅらんぬす)が余ったお菓子を配りながら、そう報告していく。 「近くをキメラが通ったりした時は皆怯えたりしていたけれど、避難中襲われたりすることもなかったし、お菓子を食べたりして楽しく過ごせたよ」 キメラ対策に乗り出してくれた他校の協力者や、避難活動に動いてくれた百合園生達の迅速な行動のお蔭だ。 「皆さんにも何か、ご褒美が必要ですわね」 ラズィーヤが微笑みを見せる。 「どうぞ」 執事のような服装のオレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)がいつものように、ティーカップと茶菓子を配っていく。 今日はカモミールティと甘い焼き菓子だ。 「まだまだ仕事は山のようにありますが、休憩も必要ですからね」 「戴きますわ」 ラズィーヤがティーカップを口に運んで、カモミールティを一口飲んで、息をついた。 「お片づけして、お掃除しましょう」 「お洗濯も必要ですね」 離宮から回収した少ない物資を置いてある部屋から、百合園生達の明るい声が響いてくる。 日常が戻りつつあった。