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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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聖火リレー ヴァイシャリー

 聖火リレーがついにヴァイシャリーにやってきた。
 湖を渡ってきた船の中から、百合園女学院生徒神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)が聖火のトーチを掲げて現れる。
「皆の心をつなぐ為、がんばって走ります」
 有栖はミルフィと共に、沿道の観客に手を振りながら走り始めた。

 東シャンバラ代王セレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)は、特別にしつらえた観覧席からリレーを見守る。
 彼女から信頼の厚い上杉 謙信(うえすぎ・けんしん)が、その横で警護につく。
「今日は悠希の代わりに私が付いていよう」
「悠希は来ないのか?」
「聖火ランナーだからな。今、あそこでインタビューを受けているぞ」
 謙信の示す方を、セレスティアーナが身を乗り出して眺める。
 謙信は遠目に見える悠希の様子に眉をひそめた。
(元気が無いな……?)
「セレス、悠希に声をかけて応援してあげたらどうかな?」
「うむ! フレーフレー、悠希!」

 秋野 向日葵(あきの・ひまわり)は今日も元気に、聖火ランナーへのインタビューをしていた。
 しかしインタビューを受ける真口 悠希(まぐち・ゆき)はというと。
「静香さ……いえ、百合園とシャンバラの皆様の為、頑張ります……」
 どうにも元気がない。
 そこにセレスティアーナの声援が聞こえてきた。悠希は、それに応えようと手を振るのだが。
 世界が回った。

 悠希が気付くと医務室だった。
 運び込まれた悠希を、医療スタッフの姫神 司(ひめがみ・つかさ)が診察し、手当てする。
 今日はテレビ中継に映り込む可能性があるからと、眼鏡をかけ、おさげ髪にして変装している。
「貧血だな。睡眠不足も良くないぞ。
 今日は熱中症の心配も高い。水分を十分に取り、涼しい格好をするのだな」
 司の言葉に、悠希はこくんとうなずく。
 ここのところ、校長の事、学校の事、これまでの冒険での事と、色々と頭を悩ませ、睡眠不足だったのだ。
 駆けつけて付き添っていた謙信が心配の表情でつぶやく。
「悠希、そこまで……」
 だが悠希は遮って、スタッフに頼んだ。
「もう大丈夫だから……今からでも、聖火を守りたいんです。並走ランナーをさせてもらえませんか?」
 皆は最初、反対したが、悠希の熱心な頼みを聞いて、無理をしない範囲で走るように、と条件付きで認められた。
 悠希は急いでコースに向かおうとするが、ユニフォームが泥だらけになっているのに気付いた。倒れた時や運ばれる時に汚れたのだろう。
 学校を代表して走るのに、泥だらけではいささか格好が悪い。
「代えのユニフォームってあるかな?」
 探していると、スタッフの一人が「あったわよ」と一式のユニフォームを持ってくる。
「ありがとう。すぐ着替えるね」
 悠希は更衣室に飛び込み、新しいユニフォームに着替えた。
「あれ、何だかスースーして涼しくて気持ちいいかも……って急がなきゃ!」
 悠希は急いで更衣室を飛び出し、コースへと向かった。

 そのしばらく後、一人の生徒が医務室の近くで、何かを探していた。
(……無いわ。オバカな噂を元に作った、溶けるユニフォームが見つからない。せっかくの夏休みの工作だったのに、また作り直しかしら)



「ほら、1・2、1・2!」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が軽快なかけ声をあげ、和泉 真奈(いずみ・まな)の背に回した腕に力を込める。
 二人はパートナー同士仲良く、一緒に聖火のトーチを握って走っていた。
「ミルディ……まだ少し早いかも」
「そお? じゃあ、ペースダウンするよ!」
 ミルディアは真奈のスピードにあわせて、テンポを遅くする。
 真奈はもともと運動がそう得意ではないが、もうひとつ気にかかる事があった。
 彼女は普段はシスター服ですごしているので、あまり意識される事はないが、ユニフォーム姿になると、やはり走ると胸が揺れる。
 その上に、あの奇妙な噂だ。沿道の人々が皆、自分の胸を見ているような気がしてきて、真奈の頬が自然と赤くなる。
 ミルディアがそれに気付いた。
「あれ? トーチ、あっつい? もう少し体から離して持とうか」
「え、ええ、そうですね」
 二人は聖火を高く掲げ持った。
 ミルディアの方は、子供体型で胸が揺れる心配はない。
 一台の小型飛空艇が背後から、ゆっくり走ってくる。
「はーい、移動インタビュー車の秋野 向日葵(あきの・ひまわり)だよ!
 仲の良さそうな親子ランナーさんに話を聞いてみるねー」
 マイクを向けてくるところを見ると、ミルディア達の事らしい。
「あたしたち、親子じゃないよ!」
「あらら、それは失礼しました。では改めて……暑そうだけど大丈夫?」
「今日はパートナーにあわせてるので、まだまだ走れますよ!」
「頼もしいね! では抱負をお願いします!」
「今は東西にわかれてるけど、いつかシャンバラがまた一つに戻れる日を願って、この聖火を繋げたいです」
 ミルディアは走りながら、余裕でインタビューに答えているが、真奈にはそこまでの余裕はなさそうだ。

 聖火リレーは和やかな雰囲気で進んでいく。
 だがしかし。
 危険は急速に迫っていたのだ。
「くっくっく、ヴァイシャリーは水路の街。水鉄砲の補給は無限大なんだぜ」
 意味不明な事を言いながら、一群の男達が沿道に立っていた。


 そうした脅威を知る由もなく、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はリレーの前方でゆっくりと小型飛空艇を走らせていた。
(今日も何も起きないのかな……。今のところ、一番の脅威はこの暑さだよね)
 佑也はメガネに溜まった汗を、タオルでふき取る。
 見回すと、同じく警護スタッフのゼファー・ラジエル(ぜふぁー・らじえる)が幸せそうな顔で、露店で買い込んだアイスキャンディーをほおばっている。
 実に平和な光景だ。
 ゼファーの「ご主人様」である如月 正悟(きさらぎ・しょうご)はというと、ランナーになった泉 美緒をびったりとマークしている。
(なんで守る対象があの百合園の子ピンポイントなんだ、正悟くん……)
 佑也はそう思ったが、細かい事を気にしても仕方ない。うだるような暑さながら、警備に集中しようと努める。
 美緒の走りは、そう早くない。いわゆる女の子走りで、まったく前に進んでいない。
(もしかして緊張して遅くなっているのかな?)
 佑也は美緒に近づくと、声をかける。
「ランナーといっても走るだけですし、何かがあればガードをする自分達が守りますし、大船に乗った気分で走ってください」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いいたしますね」
 美緒は笑顔で答えた。緊張した様子はない。鈍足なのは、生まれつきか胸の重さのせいだろう。
 彼女には真口 悠希(まぐち・ゆき)が併走していた。先ほど倒れた悠希だが、このスピードなら苦も無く進めそうだ。その上、なぜか服も軽い。

「ヒャッハー! オッパイ万歳!!!」
 襲撃は唐突に始まった。沿道の右側に並んでいた男達が、一斉に水鉄砲や消火器を取り出したのだ。
「マズイ!」
 佑也がサイコキネシスで、一人の水鉄砲を押さえ込むが、手前の一人だけだ。
「美緒さま!」
 悠希が美緒の前に飛び込み、水鉄砲の一斉放火、もとい一斉放水をその身に受ける。
「こっちへ!」
 正悟は美緒の腕を取り、安全な方角へ導こうとする。と、美緒がつまずいて転ぶ。
「危ない!」
 正悟は彼女を守ろうと腕を伸ばす。だがバランスを崩して、そのまま倒れ込んだ。
 後頭部から背中に激痛。
 そして右手に、やわらかく暖かい感覚。
「え?」
「あら?」
 正悟の手は、美緒の胸をわしづかみにしていた。
 弾力がありながら、至上のやわらかさを併せ持つ、実に良いオッパイである。
 正悟は呆然として、美緒の胸をつかんだ自分の手を見る。人間、驚くと、とっさに行動できないものだ。
「ご、誤解です!? いや、事故です!?」
 彼のパートナーエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)がキレた。
「いつまで、つかんでるの!!」

 ちょごーーーーん!!!

 正悟はエミリアの鈍器フルスィングで、ぶっとばされた。
 その彼の手を引き起こす者がいる。佑也だ。
「嫁入り前の女の子に何やってんだお前は! けしからん、握手してくれ!」
 強制的に正悟と握手する佑也。だがハッとする。
「……って違う違う! 何、言ってんだ俺は! そうじゃなくて……」
 佑也はのびている正悟を放りだして、事態の収拾に向かった。

 その間に、エミリアの警報で駆けつけたスタッフ達が、襲撃者を取り押さえにかかっている。ゼファーもようやく仕事を思い出し、事態にテンパりながらも水鉄砲を持った男を押さえこんでいた。
「おとなしくなさい」
 アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)が、消火器の薬剤を周囲に撒き散らす男に、バーストダッシュで飛び込み、叩き伏せる。

 佑也が水を全身に受けた悠希に近づく。
「大丈夫かい? 危険なものをかけら……うわぁっ?!」
 佑也は頬を赤らめ、飛び上がる。
 悠希は彼の驚きように、きょとんとするが。
「どうしまし……た……な、何、これ?!」
 悠希が着ていたユニフォームは、紙でできたものだった。しかも水に溶けやすい性質の。
「ど、どうして服が……ダメぇーっ!?」
 ドロドロと溶けていくユニフォームを、悠希は両手で必死に押さえようとする。
 佑也は急いで持っていたコートを、悠希にかけた。

 イルミンスールの学生寮ではアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が悔しがる。
「あと、もう少しだったのに……!
 いや、コマ送りで見れば何か、こうπ的なものが映っているかも!」
 しかし悠希は、実は男の娘である。
 それを知らないアキラは、録画したそのシーンを後に繰り返し、目を皿のようにして見るのだった。

 襲撃してきた者は、スタッフによって全員、捕まえられた。
 幸い聖火は無事で、美緒はそのまま走って、次のランナーにトーチを渡した。
 一波乱あったが、ヴァイシャリーでのリレーも、どうにか聖火を消さずに行なえたようだ。


 エミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)と佑也が正悟のした事を、走り終えた美緒に謝りに行く。
「ご、ごめんなさい、悪気はないと思うので勘弁してあげてください」
「あの……泉さん、大丈夫ですか? 多分本人も悪気は……無きにしも非ずだけど、その、後で灸を据えておくから、許してもらえないかな……?」
 美緒はにっこりと、笑顔で許した。
「はい、大丈夫です。おかげさまでケガもなく走り終える事ができました。
 正悟さんは聖火を守ろうとしての事故ですから、仕方ありませんわ」