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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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調査 動画解析

 ろくりんピックメディアセンターでは、シャンバラろくりんピック委員会スタッフが問題の動画の解析にあたっていた。

 動画のうち、少女の人相風体については、影野 陽太(かげの・ようた)がテクノクラート(技術官僚)の本領を発揮して、だいたい人物の判別がつく程度には解析されていた。
 やはり、こうした技術を扱う本職といったところだろう。
 シャンバラろくりんピック委員会は各学校や公共機関に、この少女に心当たりがないか問い合わせたが、めぼしい回答は得られていない。
 また怪人プロメテウスについては、陽太がどうやっても人相の詳細を解析できずにいた。
「この怪人は、光学カメラに写されにくい何らかの細工をしていたのかもしれません」
 陽太の言葉に、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)がモニタ上の怪人をねめつける。
「まったく自称でプロメテウスなんて……僕やったら恥ずかしいくてよぉ言わん!」
「ギリシャ神話のプロメテウスだとは限らないんじゃないですか?」
 菅野 葉月(すがの・はづき)が言う。
「プロメテウスやセリヌンティウスといった、地球ではギリシャ風の名前は、ここパラミタではエリュシオン帝国に多い名前のようです。
 神話のプロメテウスだとしても、帝国の人間が、地球で行なわれる聖火リレーを調べてプロメテウスという名を知ったのでしたら、そう恥ずかしげもなく名乗るかもしれませんよ」
 泰輔はボリボリと頭をかいた。
 ここは地球ではないのだ。空京をのぞけば、人口の大半は異世界パラミタの住人である。
 やはりパラミタの先輩である葉月の方が、それを理解しているようだ。
 泰輔は、自分に貸し与えられたコンピュータの前に戻る。
 動画に映った場所がどこか、少女に心当たりがないかと、情報を広くインターネットで募っていた。
 だがネットの住人は、素直でも、協力的でもなかった。

「これ、俺んチの裏だよ」
 という分かりやすいウソは可愛いものだ。

「掲示板で集めた情報コピペ報告してバイト代もらうとか、どんだけ楽な仕事wwwww」
 という非難や罵詈雑言も多かった。

 その上、いかにも事情通といった詳細なカキコミが、まったくの事実無根のウソである事など珍しくもない。
 それでも詳細な場所が伝えられる度にレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)が、シャンバラの地図を片手に現地に向かい、動画に関係する場所か人かを確かめるのだった。
 泰輔としても、ネット上の情報が玉石混交だろうとは考えていた。
 そこで正しい「こたえ」に近づけるようにインターネット内の情報提供者を誘導しようとした。だが何が正しいのか分からない状態で、どのようにして誘導をするのか。
 そこでつまづき、泰輔の捜索は難航していた。
 とりあえず、情報を集めてデータベース化する事に専念する。
 データの海に埋もれている泰輔に、動画解析を手伝う天王寺 沙耶(てんのうじ・さや)が「大変だな」と苦笑する。
「……解析の方は進んどるの?」
「音と風景で今、進めてるよ」
 沙耶が指す先で、葛葉 翔(くずのは・しょう)はヘッドホンを耳に、どんな音も聞き逃さないように、神経を集中していた。
 翔は、クイーンヴァンガードが頑張っている、とアピールする為に、ヴァンガード強化スーツを着こんで仕事にあたっている。
「解析、何か分かった?」
 沙耶の言葉に、翔は唇に人差し指をあて「静かに」というポーズを取る。
 翔が聞くのは動画の音だ。
 やがてヘッドホンを外すと、翔は告げる。
「よく聞くと、遠くで音楽が鳴っているのが分かる。それもスピーカーからの、あまり音の良くない奴だ。
 シャンバラで放送施設のある街は、空京やその周辺の地球文明が入ってきてる町か。……いや、各学校にも放送施設はあるな」
 それを聞いて、画像解析作業に戻っていた影野 陽太(かげの・ようた)が顔をあげ、モニタの一点を指す。
「この地面や周囲の建物を見てください。人物に比べて解析が容易く、人物には人為的に解析されにくくする処理がされているようです。
 解析できた地面からは……」
「もしかして怪人の足跡とか見つけたの?!」
 沙耶が勢い込んで聞く。
「いいえ、この道路は舗装されており、それは見込めません。
 ただ道路の色彩や凹凸の具合から、これはアスファルトよりも強い最新の舗装材かと思われます。
 調べた結果、こうした舗装は空京、ツァンダ、ヒラニプラが主。ただ周囲の建物の様子から、ヒラニプラではないでしょう」
 陽太はその結果を、動画の調査に加わるスタッフ達にも送信している。

 ピー。
 コンピュータが作業終了を伝える。陽太は何事か作業をすると、室内のスタッフ達に言う。
「葛葉君が言う音楽の抽出が出来ました。
 これですが、皆さん、聞き覚えがありますか?」
 陽太の操作で、かなり音が割れているが、何かの音楽が流れてきた。歌詞はなく、単調なリズムの繰り返しだ。
 沙耶が眉を寄せる。
「これさ……スーパーの音楽じゃない?」
「スーパー?」
 皆の視線が一斉に集まる。
「うん、この前、部品が急に必要になって駆け込んだスーパーでずっと鳴ってた。
 地元の人だけが来るような裏通りの店だよ」
 急ぎ、沙耶の記憶を元に、そのスーパーが特定される。
 陽太は外回りのスタッフに情報を伝え、翔はみずから現場に出かけていく。

(これで問題が片付き、カンナ様の懸念もなくなるといいのですが……)
 陽太は御神楽環菜(みかぐら・かんな)校長を想った。
 シャンバラが東西に分かれて建国した事で、環菜の日本や世界での影響力は下がっている。
 環菜はそれを、ろくりんピックで挽回しようとしているのだ。
 大会の円滑な運営や、妨害者の排除はきっと環菜の為になる。
 陽太はそう考え、ふたたび作業に没頭した。



「この辺りかな?」
 プリントアウトした動画のワンシーンを手に、アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が周囲を見回す。
 パートナーの葛葉 翔(くずのは・しょう)レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)達も一緒だ。
 問題のスーパーにはすぐに着いたが、動画の写された場所を探して、店の周囲をグルグル回っていた。
 耳を澄ませば、スーパーから例の音楽が調子っぱずれに聞こえてくる。
 そこはスーパーの横手で、従業員通用口への通路の入口だ。脇の方には、従業員が乗ってきただろう自転車が並んでいる。
「あのカメラじゃない?」
 アリアがスーパーの壁面についた防犯カメラを指す。不審者が通用口から入ってこないか監視する為のものらしい。
 レイチェルは道に座り込む。
「この辺りが、怪人が出てきた場所でしょうか……」
 レイチェルは道路に何か異常な痕跡が残されていないかと探すが、特に何も見つからない。もともと何も無かったのか、何かあっても人々の往来で消されてしまったのか、どちらともつかなかった。
 アリアは何か思い当たる事がないかと、携帯電話に落とした動画をそこで再生してみる。
 彼女は不思議そうにつぶやく。
「普通こういう脅迫ってろくりんピック中止しろって言うよね。なんで聖火が消されると困るんだろ? ろくりんピックの成功を待ち望んでる熱狂的なファン?」
「あぁ、そういえば変だな。普通は成功させたいなら、自分からスタッフとかになれば良いのに」
 翔も首をかしげる。
 しかしレイチェルは言う。
「推論よりも、証拠に基づいた推察の積み重ねが大切です。
 店の方にも聞き込みを行ないましょう」


 スーパーの警備員が、捜査するスタッフの対応に出てきた。
 アリアから怪人の動画を見せられ、警備員は不思議そうに顔を寄せる。
「あー、確かにこの画面はウチの防犯カメラの物みたいだけど……。でも、ウチのカメラには音声を撮る機能はないよ」
「なんだって?!」
 翔は愕然とする。何度となく聞き込んできた音声は、すべてアテレコの作り物だったのだろうか。
「翔クン?」
 アリアが彼に寄り添う。翔は自身を落ち着けようと努める。
「……アテレコなら、あれほど街の雑音が入っているとは思えない。動画の音声は、少女か怪人が小型マイクを持っていたか、付近にあったマイクから撮られた可能性もあるな」
 一方で、レイチェルはさらに聞き込みを進める。
「こちらのスーパーに保管されている、防犯カメラの映像の現物を見せていただけませんか?」
「いや、それは無理だよ。映像が保存されるのは一週間だから、もうとっくに消えてるよ」
 警備員は、動画の日時表記を指し、さらに首をひねる。
「でも、なんでこんな動画があるんだろう? データを写すには、専用の機械を持ってこないと無理なハズなのに。警察に提出したって話も聞かないけどなぁ」
 ブツブツ言っている警備員に、レイチェルは聞く。
「この動画が撮られた日やその前後に、何かいつもと異なる事や奇妙な事がありませんでしたか?」
 警備員は考え込む。
「万引きとか、店内で騒ぐとか、普通に事件はあったけどなぁ……」
「店の中もそうですが、動画に映っている場所の周辺で何かありませんか?」
 レイチェルに促されて、警備員は何かを思い出した。自身の勤務表を見て、記憶を確認する。
「変わった事かどうかは分からないけど……この動画の日付の前日に、ここに映ってる道の先で不審者が出たようなんだ。
 女性が『私は知らないわよ!』とか叫んでるから、様子を見に行ったら、その人が逃げてきて不審者が出たって言うんだ。それで僕と同僚が近くを見てまわったけど、そんな奴は見つからなかった。だから警察を呼ぼうかと言ったんだけど『そこまでじゃないから』って帰っていったよ」
 レイチェルは動画の少女を見せる。
「その女性は、この方ですか?」
「いやいや、もっと年上の、二十歳代かな。ジャージを着て地味な感じの、まあ、この辺りにいっぱい住んでるシャンバラ人労働者だと思うよ。工場の寮とか多いからね」