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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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【ろくりんピック】欲望と陰謀の聖火リレー?!

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現地調査



 酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、空京にある銃砲店を巡っていた。銃器や弾丸の購入者リストを確認しているのだ。
 動画の少女が銃を所持しているらしい事から、空京に通勤通学している銃器所持許可登録者を絞り込んで検索できないかと考えての事だ。
 だが、それを一番にできる空京警察は動いていない。
 またシャンバラでは銃の密輸や密造、横流しが横行しており、さらには遺跡で古代の銃が発見される事もある。
 その為に、購入者リストや保有者リストは、有名無実化していた。

 店を出た陽一を、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)が待っていた。
「情報は得られたかな?」
 陽一は歩き出しながら、首を横に振る。
 その方向を見て、フリーレは行先にピンと来る。
「映像の現場に行くか? 何か遺留品があるかもしれん。たとえ無くともその線は無いという事が分かるのだから、全くの無駄というわけでもない」
 やがて問題となるスーパーの近くに来る。
 ただ店の警備員からは、すでにレイチェル達が話を聞いていた。
 陽一は己のトレジャーセンスに引っかかる物はないかと、周辺を歩き回る。
「……トレジャー発見、か」
 そう呟いて陽一が足を止めたのは、アクセサリー売りの露店商の前だった。
「あら、お友達にプレゼントかしら?」
 露店商の若作りの女性が、彼に微笑みかける。露店に並べられたのは、どれも彼女の手作りでリーズナブルな装飾品だ。
 陽一は解析した動画の、ペンダントの部分を拡大した写真を彼女に見せる。
「こういうペンダントをした人を探しているんだ」
 写真を受け取った露店商は、それに目を寄せる。
「見た事あるわよ」
 陽一とフリーレは色めきたった。
 彼女の話によると、少々個性的なペンダントをつけた少女に、アクセサリーを買わないかと声をかけたところ、逆に周辺で不審者を見なかったかと聞かれたそうだ。
 頼むと露天商は、その少女の似顔絵を描いてくれた。もともと、たいして客が来るわけでもなくヒマなのだ。
 できあがった似顔絵に陽一は眉をひそめる。
「これ、本当にその人に似てるのか? 動画に映っていた娘とは別人みたいだが」
「まあ、失礼ね。私は芸術家よ。疑うなら、あなたたちを描いてあげるわ」
 露店商は、モデルをかって出たフリーレの似顔絵をさらさらと描いた。特徴をつかんで、そっくりだ。
 ふたつの似顔絵を手に黙りこくる陽一に、露天商は言う。
「あと、ペンダントの彼女だけど、薄化粧風に見せてるけど、けっこー盛ってるわよ。
 メイクを落としたら別人になるわね。髪もきっとウィッグね。最近の娘って、すごいわねー」

 フリーレがひとまず得た情報を仲間に伝えて陽一のもとに戻ると、彼は携帯電話のテレビを眺めていた。
 繰り返しテレビで流されている、ろくりんピック開会式の様子だ。
(理子様、ご立派になられて…。新日章の皆も元気にしているんだろうか)
「陽一! 皆に伝えてきたぞ。……また情報収集に向かうのか?」
 携帯をしまって立ち上がった陽一に、フリーレが聞く。
「ああ、ろくりんピックは多くの人々の尽力や犠牲によって再興されたシャンバラの祭典だ。それに泥を塗る奴が居るなら許せないからな」


 姫宮 みこと(ひめみや・みこと)も他のスタッフから情報を得て、動画に映された場所の付近で聞き込み調査をしていた。
「『聖火ランナーの服は、水をかけると溶けるらしい』という噂を知っていますか?」
 みことは、その噂の出所を探そうと考えたのだ。
 だが噂を知っている者の多くは「ネットで知った」「ネットを見た友人知人から聞いた」「ネットで噂になっていると、世間話で聞いた」。
 みことはスーパーの近所で情報を集める意味があるのだろうか、と思い始める。
 その周辺は、空京に出稼ぎに来たシャンバラ人労働者が多く住む地域だ。
 まだインターネットに接続できる機器を使いこなせず、噂を知らない者もけっこう多い。
「この場所は、プロメテウスとつながる訳ではないのでしょうか……」
 みことについてきた本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)が、平和そうな下町を見回して、つまらなそうに答える。
「ぷろめてうすなる者どころか、調べ者の妨害にやってくる者もおらぬようだのう」
 スタッフ仲間が集めた情報には不審者の話もあったが、現地のシャンバラ人労働者達に聞いても、そんな人物は見た事がないそうだ。

 みことは諦めて、多くの者が情報を知った場所としてあげたネットでの調査に切り替えた。
 噂は空京から広がっていったようだが、それ以上の特徴を見つける事はできなかった。

 ツァンダ。浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は困り顔で、街を歩いていた。
 彼は、聖火ランナーに水をかけようとする者に、実際に会って情報を得ようと考え付いたのだが。そうした奴らとどうやって会えばいいのか、まったく分からず、とりあえず学校近くを歩き回っているのだった。
 ランナーの近くに居れば、襲撃の際に手を打てる事もあるだろう。そうであれば、警備や雑務を行なうスタッフとして、リレーに同行しなければならない。
 ならば、襲撃者と一緒に水をかけるフリをして同行するか。
(どちらせにせ、私の外見なら油断してくそうです)
 翡翠はそう考え、歩を進める。
 だが気付くと、後から後から怪人プロメテウスや少女についての推理が湧き出てきて、頭を埋めてしまう。
 どうやって襲撃者を特定し、彼らと会い、どのように接して情報を得るか、が出てこない。
(動画ではプロメテウスが少女のペンダントに向かって話しかけている、とも考えられるかな?
 前に銅版に魂が宿るーって事件に遭遇した事が有りますし、無機物が意思を持ってるって事もありえるかも。そう考えると、少女とペンダントは別固体と想定しておいた方がいいかな
 それに、賭けに勝ったら人間に手は出さないって言ってるんです。
 この怪人は人間以外の種族だと想定出来るかな……)



 ヒラニプラ。
 緋桜 ケイ(ひおう・けい)はシャンバラ教導団第三師団での活動を生かして、団員の照会作業にあたっていた。
 影野 陽太(かげの・ようた)が解析した少女の写真を手に、よく似た人物が教導団で訓練を受けていないか調べているのだ。
(今のパラミタでは近接武器が主流であり、銃のような武器は古王国時代に途絶えている。地球人やコントラクターの他には、警官や軍人など、訓練を受けた者にしか銃は扱えない。……ならば銃を扱うということは、そういった訓練を受けた経験があるということだ)
 だが教導団を始めとした学校以外で、銃器の扱いを学べる場はある。
 その最たるものは鏖殺寺院だろう。またパラ実では独学で銃の扱いを学んでいるし、銃の扱いに長けた者から個人的に教わることもできる。
 古代銃の使い手である古王国期の人間もどんどん復活してくるし、現代の銃をマスターしてからシャンバラに来る地球人もいる。
 また秘匿性の高い情報なら、士官候補生が許可を得て見られるような場所にそうそう無いはずだ。
 ケイはふと思い当たる事があって、作業を見守る兵士に聞いた。
「そういえばカリーナ・イェルネこと鏖殺博士が開発した魔槍グングニル・ガーティは、ペンダントの形も取ったそうだな。
 教導団にはそれに類する物がまだあるのか?」
 兵士は思わず顔をしかめる。
「あのふざけた女の研究は、みんな凍結しています。
 その検証をしてる技術科でも、どうやってあんなワケの分からない武器を作ったか分からないようですよ。
 もう、あんな奴に関わるのは御免です。
 ただイェルネが、逃亡した先で第二、第三の魔槍を作っている事はありえるんじゃないですかね」

 ケイは待合室で待っていたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)に、その情報を伝える。
 ソアはかわいらしい顔で、思いっきり考えこむ。
「えーとえーと。という事は、少女さんが聖火リレーを妨害する悪者だ、っていう可能性もあるんでしょうか??」
「その可能性もあるけど、魔槍のケースのように持ち主は何も知らないって可能性もあるな。下手をすると操られている……でも動画だと、そんな感じは受けないな。彼女も相当な手ダレという気がする」
 ソアはこくんと、うなずく。
「ですよね。演技してたり、怪人に動じなかったり……只者ではないと思います」
「あと思ったんだが」
 ケイが言葉を継ぐ。
「熟練の生徒だって、こんな怪しい奴が現れたら、もっと驚くよな。
 彼女が動じてないのは、プロメテウスを知っていたからじゃないかと思うんだ」
 ソアは怪人の名前が気にかかる。
「プロメテウスって、人間に火を与えた神様の名前ですよね。
 そんな神様の名を名乗って、聖火を守らせるような賭けをしているのも妙です。
『罪のない一般の人々が死ぬ事になる』という脅迫は、まるで鏖殺寺院のテロ予告のようですが……。鏖殺寺院などのろくりんピック反対派なら、こんな賭けなどせずに聖火を消そうとすると思うのです……
 実は、プロメテウスは本当は人間の味方で、あえて警告のために今回の賭けを言い出した、という可能性もあるのかも……???」
 ソアは、推理の迷宮に迷い込んでしまった気持ちだ。
「……はうぅ」
 ぱたり。
 ソアは知恵熱を出して、待合室のソファに倒れこんだ。
「うわーっ! 大丈夫か、ご主人?!」
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)があわてて、ソアを抱き起こす。

 しばらくソアを介抱した後、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がベアに聞く。
「聖火リレーの方は順調に進んでおるのか?」
 ベアは、イヤホンでろくりんピック中継を聞き、何かあったらすぐに動けるようスタンバイしていたのだ。
 表には四人乗りの小型飛空艇アルバトロスを起き、何かあったらすぐに現地に飛べるように備えている。
「ちょっとゴタつきはしたが、聖火は無事に進んでるぜ。
 ただ、こっから先が長いからな」
 ベアが掲げた携帯電話の画面には、トーチを掲げて走る聖火ランナーの姿があった。