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まほろば大奥譚 第二回/全四回

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第二章 鬼の子3

「ちかちゃん、あーそぼ」
 紫光の間では百合園女学院桐生 円(きりゅう・まどか)と吸血鬼オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)が訪れていた。
 初めての御鈴渡で貞継に暇を出されそうになった後、瑞穂藩主の娘瑞穂 睦姫(みずほの・ちかひめ)は部屋に閉じこもりがちであった。
「ちかちゃん、今日はお外に出てみようよ。ボク、キミとお話したいことがあるんだよ。秘密のお話なんだけどね」
「お願い、向こう行って。私に構わないで」
「そうかなー。キミのネックレスのお話なんだけど、他に話しちゃまずいよね」
 円がしばらく反応を待っていると、襖がすっと開いた。
「入って」
 円はオリヴィアと目配せをする。
 円は部屋に滑り込むとを室内を見渡して言った。
 水槽の金魚が水面に向けて口をぱくぱくしている。
「駄目だよ〜、金魚。ちゃんとお世話してあげなきゃ死んじゃうよ」
「何の用なの、私のネックレスがどうしたのよ」
「別に。ボクはただキミと話がしたくってね。友達になりたいんだ」
「友達?」
 睦姫はそんな申し出を受けるとは思ってなかったようだ。
 かなり驚いた顔をしている。
「だから、力になりたいんだ。将軍様と上手くいってないことも知ってるよ。だって、ちかちゃん、真面目すぎるもん。教えてもらった教科書通りにやっても上手くいきっこないよ」
「あ、貴女に何が分かるのよ。私、すごく惨めだわ」
「別に将軍様だけが全てじゃないと思うけど、キミはそうなんだね。だったら、好きから始めてみようよ。上様の良いところを見つけてね。どうせ今はどん底なんだしさ」
 睦姫は円の言葉を、唇をかみしめて聞いている。
「わからないわ、好きって。どういうこと? 貴女にはわかるの? 好きな人いるの?」
 今度は円が返答に窮する番だった。
 彼女は愛を知らずに育った身だ。
 先ほどの提案も少女漫画の受け売りでしかない。
 オリヴィアが助け船をだす。
「それよりも、私はそのロザリオに興味があるんですけど。偽装してるってことは見られたら困るものなんですよねえ。睦姫は何を信仰してらっしゃるのかしらあ」
「こ、これは……」
 睦姫の顔色が変わる。
 マホロバの幕府は政治的に、エリュシオンが信奉するユグドラシル信仰などの異教は認めていない。
 これまでも大がかりな弾圧を行っている。
「神様よ、私の」
「ふーん、そう。上様のお心を射止めたら、堂々と信仰できるようになるかもしれませんわね。応援してますわあ」