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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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イルミンスールの大冒険~ニーズヘッグ襲撃~(第2回/全3回)

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●イルミンスール:校長室
 
「アーデルハイト殿、情報ネットワークの構築が完了した。
 イナテミス、イルミンスール地下、双方からの情報がここへ送られる仕組みになっている」
 エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の代理、そして現時点におけるイルミンスールの最高責任者として、校長室で指揮を執るアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が報告する。武神 雅(たけがみ・みやび)に『精霊指定都市イナテミス』、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)に『世界樹イルミンスール地下』との情報のやり取りを任せ、集められた情報をまとめる任に龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を据え、それらは既に機能し始めていた。
「うむ。後は、各方面に散った者たちの奮闘を期待するばかりじゃの」
 牙竜の報告に、アーデルハイトがひとまず満足そうに頷く。
「……アーデルハイト殿、一つ提案があるのだが」
「む? 何じゃ、言うてみよ」
 牙竜の、周囲を気にしつつの言葉を、アーデルハイトが平静を保った様子で促す。
「今は国が東西に割れている状態だが、いずれこの問題が解決すれば、世界樹は外交的に重要な位置を占めると思われる。
 もし、マホロバに存在する世界樹が芦原の影響下になった時、イルミンスールと協力が出来たとしたら、帝国にも対抗がしやすいのではないだろうか」
 パラミタの東に位置する国家、マホロバ。そこに『扶桑』と呼ばれる世界樹が存在していることは、『コーラルネットワーク』を通じてイルミンスールも周知の事実である。
「ふむ……確かに、イルミンスールにとっては味方が増えることに繋がる故、協力が出来るのであれば断る理由はない。
 じゃが、扶桑はイルミンスールと協力することに何らかの益を見出さぬ限り、耳を貸さぬのではあるまいか。
 ここでイルミンスールが、コーラルネットワークの順位を覆すような『切り札』を持っておればまた別やも知れぬが、現時点では交渉するだけ無駄じゃろう。それが全てとは言わぬが、外交は力あってこそ、じゃからな」
 言い終えたアーデルハイトが、表情を緩めて言葉を継ぎ足す。
「無論、話をすることが無駄と言っておるのではない。私も未来を予測出来るわけではないからの、事態が変わるやも知れぬ。そうなった時に扶桑とスムーズに交渉が出来るのであれば、準備をすることも決して無駄ではあるまい。
 ……煮え切らぬ回答で済まぬの。どうするかは牙竜、おまえに任せるぞ。おまえが動くというのであれば、こちらも可能な限り応えよう」
「分かった、出来るだけのことはやってみよう」
 牙竜が答え、パートナーたちが作業を行っている場所へ戻った所で、扉から封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が入ってくる。
「すみません、遅れてしまいました」
「ふむ、随分と時間がかかったようじゃが?」
「えっと……私、飛空艇とか機械の操作が苦手で……」
「なるほど、そういうことか。いや、何せ急ごしらえじゃったし、問題があったのかと思っての。おまえが気にすることではないぞ」
 俯く白花にアーデルハイトが口を挟む。白花の利用してきた飛行ルートは、イナテミスに設けられた『飛空艇発着場』からイルミンスールまでの間を安全に航行出来るよう、アーデルハイトが必要な設備を設置したのであった。それは、双方間のスムーズな人員や物資の移動を可能にするための措置だったが、急な事態に間に合わせなのをアーデルハイト自身が一番気にしていた故の、白花への言葉であった。
「あ、はい。問題はなかったと思います。では、私も情報の整理を頑張ります」
 白花が頷いて、牙竜たちの所へ向かい、リュウライザーにHCの使い方を教えてもらいながら、雅と共にイナテミスからもたらされる情報の整理に当たる――。
 
●精霊指定都市イナテミス:町長室
 
「ニーズヘッグが攻めてくるだって!?」
 町長室で、先程の衝撃波が世界樹ユグドラシルが放ったものであること、その衝撃波で付いた地面の溝に沿って、地上に現れたニーズヘッグが攻めてくることを聞いたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、イナテミス周辺の地図に目を落とす。書き込まれた施設を確認し、思考を巡らせ、この場に集まった者たちへ確認と要請の言葉を発する。
「町長、飛空艇発着場に連絡、取れるか?」
「ああ、取れるとも。飛空艇も大小何機かは運用出来るはずだ」
 アキラに尋ねられたイナテミス町長、カラム・バークレーが答える。最近完成した飛空艇発着場には、日を追う毎に小型のものから大型のものまで配備が進められていた。
「ありったけの飛空艇をイルミンスールへ送ってほしい。こっちに向かってる人達の足になれるように。必要な物資も積めるなら頼みたい」
「分かった、すぐに手配しよう」
 カラムが頷き、詰めていた者たちへ指示を送る。
 次にアキラが注目したのは、イナテミスの食料を生産する『イナテミスファーム』。
「サラさん、火の精霊達と共にイナテミスファームへ向かってくれないか? あっこはイナテミスの生命線、万が一ニーズヘッグの毒液に汚染でもされれば、壊滅的な被害が出てしまう。高火力の炎の壁を展開して、毒液の汚染を防いで欲しいんだ」
「よし、やってみよう。セイラン、ケイオース、精霊塔と街の民のこと、任せるぞ」
「ええ。イナテミスは必ず、お守りいたします」
「サラも、気を付けろよ。何が起こるか分からないからな」
「ああ、分かっている」
 アキラに頷いて、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)と言葉を交わし合い、町長室を後にする。
「ルーシェ、たしか総合魔法病院の設立者と面識があったな。有志の医者達に雪だるま王国へ行ってくれないか交渉してくれ。前線の治療所にしたいんだ。それが終わったら避難誘導をしてくれ。
 セレス、あっちに託児所があっただろ。そこに行って子供たちの様子を見てきてくれないか? 必要なら避難誘導もしてくれ。んで、そのまま子供たちのそばにいてやってほしいんだ。泣いたり、怯えたりしないようにな」
「うむ、心得たぞ」
「はい。皆さんのお役に立てるよう、頑張ります」
 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)に『イナテミス総合魔法病院』へ、セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)には『こども達の家』に向かってもらう旨を伝えたアキラが、付いて来たヨンに振り向いて口を開く。
「ヨン殿、精霊さん達が集まる所ってわかる? そこに行って協力を呼びかけてほしいんだ。皆の力で作った精霊塔、その力を最大限に発揮するために」
「はい、それでしたら精霊長様の住まわれる建物が、街に危機が迫った時の集合場所になっています。きっと皆さん、そこに集まっていると思います」
「よし、ヨン、俺と来てくれるか。セイランは光輝の同志を連れて精霊塔へ。俺も向かう」
「承知しましたわ。ではお兄様、精霊塔で」
 セイランが一瞬ヨンへ視線を向けて、身を翻して自らの治める都市へと向かっていく。ケイオースとヨンが次いで町長室を後にし、残ったアキラも避難誘導と精霊への協力を呼びかけるべく、外に飛び出す。
「おい何だよさっきのは!? また竜巻やら何かがやってくるのか!?」
「大丈夫だ、俺達が必ず何とかする! だから、安全な場所で待っててくれ!」
 衝撃波の影響か、動揺を見せる住民に声をかけて、アキラが箒に跨り空に上がる。次の地点に向かう途中、イナテミスの中心部から先に広がる風景が視界に飛び込み、思わず見惚れる。
(……ホント、いい天気だよなぁ。風も穏やかで絶好の秋晴れ。ニーズヘッグが攻めて来るだなんて嘘みたいだよな)
 イナテミスも、人間と精霊が協力し合った結果、大きな発展を遂げた。しかし、中心部を外れればまだ多くの自然が手付かずのまま残されている。そしてそこに根を生やす植物が、巣を構える動物が秋空の下、陽光に照らされてそれぞれの生を全うしていた。
(ああ、この中で昼寝が出来たら、気持ちいいだろうなあ)
 ついついほんわかとした気持ちで眺めていたアキラは、映った地面の溝を見て現実に帰る。
 茶色く、そして深く刻まれた傷は、見ているだけで痛みを覚えるほどであった。
(イナテミスはもとより、イルミンスールにも十分ユグドラシルの攻撃が届くという事だよな。……現にこの一撃が、もしイナテミスを直撃してたら俺らは、何もできずに全滅するしかなかった。
 イルミンスールだってそうだ。わざわざコーラルネットワークから侵入してみたり、ニーグヘッグを送ってみたり、回りくどいことばっかりせずにさっきのを連発すればそれでお終いだ。
 それをしないのは、イルミンスールを滅ぼしたいワケじゃないのか? だとしたら、一体……)
 生じた疑問を、首を振って頭から取り払う。
 色々と可能性は浮かんでくるが、あくまでそれらは可能性でしかない。
(なんにせよ、大ババ様と相談してみるしかねぇな。今は俺達の出来ることをする!)
 昼寝をしたくなるような風景に別れを告げて、アキラは箒を駆って飛び去っていく――。