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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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まほろば大奥譚 第三回/全四回

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第一章 東光大慈院2

 貞継が風呂から上がった後、寝室で貞継を待っていたのは、葦原明倫館に転校した秋葉 つかさ(あきば・つかさ)であった。
 彼女は傍女として置いて欲しいと、大奥から東光大慈院へ付いてきていた。
「遅かったですね。どちらかにいってらしたのですか」
「いや……」
「湯冷め、されてませんか」
 つかさはそう言いながら将軍の肩に手を触れるが、胸の大きな彼女を『牛鬼』と恐れる貞継の表情はまだ固かった。
 つかさの顔が曇る。
「私は、将軍家の世継ぎを作るという慣例を壊しにきたのです。私は道具でも構いません。ただ、貴方様を愛して差し上げたいだけ……」
「前にも言っただろう……牛鬼は……」
 それ以上言わさぬように、つかさは貞継の唇を塞いだ。
「どうも、逢いに来ましたよー。あら、一足遅かったかしら?」
 大奥の御花実である葛葉 明(くずのは・めい)が室内を見渡し、二人の姿を見つけた。
 貞継は慌ててつかさを引き離した。
「お前は……この間、折り鶴をくれた……どうしたんだ、こんな時間に」
「托卵して貰いに来たのよ。ホラ、あたしって待つ女というより、会いに行く女じゃない。ああ、そうそう。良かったわ、飾ってくれてたのね」
 そう言って、明は嬉しそうに、柱に飾られた鶴を手に取った。
「……で、どうなのよ? 今夜あたし、今更一人で帰れないわよ」
 貞継は明の、猫の目のようにくるくる変わる変化ぶりに混乱していた。
 つい先日は黒髪着物清楚で自分のために千羽鶴を折ったという彼女が、今夜は自ら抱かれに来たという。
「女はわからぬ……」
「そうだ、良いこと思いついた。いっそのこと三人でいいじゃない」と、明。
「何だと?」
「私……構いませんよ。女性との経験もあります」
 つかさは平然と答えている。彼女にはそう特別なことではないようだ。
 黒髪の明はにこやかに微笑した。
「取りあえず、女がここまでしてるんだから、男として責任取ってもらえないかしら。あたしは難しいことは分からないけど、これだけはハッキリしてる。貴方の子が欲しいのよ。他の人じゃダメなの」
 つかさも潤んだ瞳を貞継に向けている。
「私は一人の人間として、貞継様を愛して差し上げたいのです。将軍ではない、ただの貴方様を……苦しい時にこそお側に置いてください」
「待て。二人とも托卵が何か、知ってるのか?」
「もちろんです。私は、この胸を捧げます。お母上と同じ胸を失う姿を見るのは、お苦しいしょうが、私は痛みには慣れております。笑って、産んで差し上げましょう」と、つかさ。
「私は右脚をあげる。もう決めたんだから……! 終わったら一筆書いてよね!」と、明。
 すでに二人とも貞継の着物を脱がしにかかっている。
「お前達は……本当に」
 将軍は天井を仰ぎ、観念したようだ。
 目を閉じ、されるままにしていたが、次に目を開けたときの貞継の顔つきは一変していた。
「――覚悟しろよ、寝かさぬからな」
 三人は縺れ合うように布団に倒れ込んだ。