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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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「あのね、ボクも提案あるんだけど!」
 続いて、ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)が、パートナーの神尾 惣介(かみお・そうすけ)と共に、部屋に訪れてゼスタに近づく。
「ん、なんだ?」
 菓子をつまみながら、ゼスタは耳を傾ける。
「盗賊の人達と合宿所の改築、増築等を協力して行えないかな?」
 ジョシュアの提案は、一見子供らしい素直な案だった。
「タダで協力してもらおうというわけじゃないんだ。それなりの謝礼は用意する。この渓谷を拠点にして湖や川で賊行為をしていたなら、ここ数日でやって来たボク達よりもこの辺りの土地勘はあると思うんだ」
「まあ、土地勘はあろうだろうけど、犯罪者だぞ?」
「でも……もし龍騎士団との間に戦端が開いたら盗賊と争っている場合じゃない。最悪、東シャンバラはエリュシオンに帰属しているから西シャンバラの人達だけで戦うことになる。闇雲に討伐するより、協力する事が出来るのならばそれに越した事はないと思うんだ。盗賊の人達だって馬鹿じゃない。自分達の方が不利とわかれば、少しでも益のある話ならば話し合いに応じてくれるんじゃないかな」
 ジョシュアは真剣に話した。ゼスタの反応はあまりよくない。
「もちろん盗賊と協力するだなんて以ての外だと思うかもしれない。ボクは彼等が行ってきた所業を詳しく知らないし、もしかしたら……うぅん、かなりの可能性で彼等の手で殺された人がいるかもしれない。ただ、誰もが生まれ時から盗賊だったわけじゃない」
 少し感情的になりながら、ジョシュアは言葉を続けていく。
「盗賊となるにも何かしら理由があるはず。暴れたいから、楽して金や女が欲しいからという理由で盗賊になる人もいると思う。でも村が貧しくてやむにやまれず盗賊になった人も大勢いると思うんだ」
 特にシャンバラ地方はパラミタと地球が繋がるまで他国と比べても貧しかったから、そういう人が多いはず。
 だから自分達と協力する事で徐々に更生していって欲しい。
 盗賊だってシャンバラの国民だから。
 出来る事なら幸せになって欲しい。
 そんな思いを切々と語っていく。
「エリュシオンの騎士団と戦いになった場合、俺達はエリュシオンの味方なんだから、賊に西シャンバラの味方をしてもらっちゃ困るんじゃないか? エリュシオンに勝ってもらわないとな」
「うーん、あれ? 西側は敵じゃない、よね?」
「ま、そういうことは皆は考えなくていいことだけどな。同様に、犯罪者の更生なんかは一般人の判断で行えるようなものではないぞ。ただ、彼らの中で協力したいと言うものがいるのなら、十分な監視をつけて働かせても構わないとは思う。働きによっては減刑につながるかもな」
 ゼスタの言葉に、ジョシュアは強く首を縦に振る。
「監視についている者を説得し、キミが協力者を集めて仕切ることができるのなら、彼らを護送するまでの間、働かせることに俺は反対はしない」
 黙認するということらしい。
 子供のジョシュアにはなかなか実現は難しそうでもあった。
「俺も俺も聞いておきてぇ事がある!」
 ジョシュアを押しのけて、惣介が前に出る。
「ずばり! 混浴で女体を見るならどこから見るかという事だ!」
「首筋」
 ゼスタが即答する。
「首筋か、なるほど〜、くぅぅっ。普通の野郎ならおっぱいとかおしりとか答えちまう。皆大好きだもんな。胸や尻。かくいう俺も大好きだ。しかし、ゼスタ兄ちゃんはやっぱり一般男子とは違ったぜ! ちなみに俺は鎖骨から見る派だうへへ」
「変なヤツだな。大丈夫かお前のパートナー」
 ゼスタは微妙な笑みを浮かべて、ジョシュアに目を向けた。
「ソースケのバカ……」
 ジョシュアは額を押さえる。
「よーし、温泉を楽しむ前にひと働きするかー。キレイなねえちゃんと一緒にな〜。行くぞジョシュア〜」
 惣介は笑いながら外へと向かい、ジョシュアも後に続いた。
「あ、ついてだ」
 ドアの前で振り返り、惣介はゼスタに目を向ける。
「余計なお世話かもしれねぇが言っておこう。……あんま腹芸ばっかしてんなよ。その内ホントの笑顔ってやつを忘れちまうぞってな」
「やっぱ変なヤツだなお前」
 くすりとゼスタは笑みを浮かべた。
 惣介は手を振って、退出しながら思うのだった。
(どうにもこの手の人間は、碌な死に方しねぇ気がするんだよなぁ)

○     ○     ○


 皆が対策を練り、相談に勤しんでいる時に――。
 一足先に向かってきている龍騎士に接触を試みる者もいた。
 ワイバーンの羽を休めるため、地上に降りた龍騎士に、最初に近づいたのは高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)だった。
「盗賊退治に向かうんですかね? お供させてもらいたいんですけど」
「所属は?」
 その分隊を率いていたのは20歳前後と思われる青年龍騎士だった。
「波羅蜜多実業高等学校。東シャンバラの一員ですよ。わざわざ他国から助けに来てくれた方に全部任せるなんてわけにゃーいかねーでしょ」
「人手は多い方が助かる。よろしく頼む」
 悠司は意外とあっさり、受け入れられた。
「名前をお聞きしてもいいですかね? 俺は高崎悠司ってゆーんですけど」
「私はエリュシオン帝国龍騎士団のレスト・フレグアムだ」
「龍騎士さん、ですかね?」
「……そうだ。他の者は従龍騎士だが、この地の賊ごときに引けはとらないだろう」
 レストと名乗った青年は……さほど強そうには見えなかった。
 率いている従龍騎士の方が猛者に見える。
 おそらく魔術師なのだろうと思いながら、悠司は彼らに従って目的地に向かうことにする。
 龍騎士団員はワイバーンに乗って。悠司はスパイクバイクで走り出し、目的の場所に近づいた頃に。
「お待ち下さい! お話したいことがあります!!」
 一人の女性に呼び止められた。
 開けた場所に降りる龍騎士に、その女性オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)は、走って近づく。
「合宿所のメンバーもすぐに到着すると思いますが」
 オルレアーヌは教師として耳にしていたゼスタの話を、自分なりの解釈で龍騎士に説明していく。
 賊が奪い取った物。
 とりわけ、ユリアナという人物が自分の物だと主張している魔道書を東側は渡すつもりは全くないということ。
 東側が西側のロイヤルガードを龍騎士へと仕向ける事によって、その間に東側は魔道書を始めとした宝物を労せず掠め取ろうとしている事。
 東側は魔道書を本体と契約者のユリアナ共々ヴァイシャリーへ移送する手筈を整えつつある事。
 そう自分の解釈を、龍騎士に説明していく。
 オルレアーヌはそれらのことを話さずにいること、東側が隠し事をして進めていることを公正ではないと判断した。
 どのような形でも、シャンバラの統一を志すのなら、双方にとって公正でなければならないと。
「……」
 龍騎士団に潜り込み、腹の探りあいをするつもりな悠司としては、そんな彼女の行動がかなり危険なものだと感じたが、口を挟むことはせずに様子を見ることにした。
「東西が公平なスタートラインに立ち魔道書獲得を競い合い、獲得した側に所有権を認め、敗れた方は手を引くという条件を提示したいと思います。龍騎士団の方々には、その監視役を務めていただきたいのです」
 オルレアーヌの言葉に、レストは鋭く目を光らせる。
「東側のそのやり方は解せないが、西に所有権を認める理由は全くないのではないか? ユリアナ・シャバノフのものであるかどうか。本当に彼女の所有物であるのなら、西のものではなく彼女個人のものだからな。彼女の所有物ではないようならば、東シャンバラで発見された盗品としてヴァイシャリーに持ち帰るべきだろう」
 東シャンバラのロイヤルガードは、エリュシオン大帝の娘を総隊長とする隊であり、エリュシオンに所属している隊員もいる。
 レスト達龍騎士も東シャンバラのロイヤルガードとは一応は仲間である。
「その女や、魔道書を連れて戻るために私は訪れた。キミの話を聞く限り、やはりこの合宿には信頼に値しない者がいるようだな。無論、キミの発言が虚偽であったり、キミが工作員であるのなら、キミが信頼に値しない人物ということになるが」
「嘘ではありません。公正である必要があると感じたためお話させていただきました。東側を信頼しすぎると足元を掬われますので、ご注意を。この密談については、あなた方にとっても有益な情報だと思います。見返りは求めませんが、この会談の秘匿のみお願いしたく思います」
「こちらに約束する理由はない。名は聞かないでおこう」
「……わかりました」
 オルレアーヌは頭を深く下げて、その場を後にする。