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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

リアクション


○     ○     ○


「合宿所から着替えていくより近くに更衣室が欲しいのだわ!」
 温泉のすぐ側では、更衣室の建設が進められていた。
「女生徒らもそう思っているに違いないわ。湯上りさっぱりで良い気分も不躾な視線の中を歩いては台無しだわ!」
 そんな景戒 日本現報善悪霊異記(けいかい・にほんこくげんほうぜんあくりょういき)の主張に集まった少女達が頷いた。
「湯浴み着を着て向かうといっても、男の人が出歩いている中を歩くのは恥ずかしいもん」
 久世 沙幸(くぜ・さゆき)もこくこくと頷く。
「あー、温泉もひとつにしちまってごめんな。作ってる時は、温泉掘りの突貫工事に夢中になって、純真なお嬢様方がいる事を忘れてたぜ。スマンスマン」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)は少女達に謝りながら、作業に従事していた。
 一般的には、身体を洗う目的も含む入浴の際に、思春期の少女は混浴を好んだりはしない。
 だけれどパラミタでは、地球先進国の一般論はまるで通じないこともある。
 とはいえ、和希は地球人だ。
 だからこそ、解ってあげなければならなかったと、ちょっと反省しているのだ。
「脱衣所が離れた場所というのは護身上歓迎できません」
 ステラ・宗像(すてら・むなかた)は、場所と設計の提案を行った。
「時間帯で男子用になったり女子用だったり、混浴だったりするみたいだし、更衣室も男女共用でイイヨネ!」
 そんな朝野 未沙(あさの・みさ)の提案には猛反対があり、結局建物はひとつで、部屋は二つにすることになった。
「だんだん寒くなってきたから、移動中に湯冷めしちゃいそうだもんね。早く完成させなきゃ」
 沙幸はステラや和希達に従いながら、木材をノコギリで切っている。
 じわりと汗が滲んでくる。終わったら入浴が必要そうだ。
「体の弱い人は、風邪引いちゃうもんね」
 百合園女学院の白百合団員として、救護活動を担当しているネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)も、皆の体を案じ、皆に元気に過ごしてほしいという思いから、建設の手伝いに来ていた。
 体が小さいこともあり、木材の運搬や、高所の組み立ては行えないけれど、その小さな指で、細やかな作業を担当したり、誰かが怪我をしたりしないように、木々にやすりをかけたりしていく。
「確かに男性はまぁ、ともかくとして。女性が薄着で外を歩く現状は感心しないな」
「それがし達も、快適な環境整備とやらへ貢献しますか」
 イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)陳 到(ちん・とう)もそう納得をして、力仕事を手伝っていく。
「周囲を囲うことができれば、とりあえずは使用可能になります。温泉もですが、飛行可能な方や、崖の上から覗く者もいるかもしれませんが、トワイライトベルトの中ですので、光の加減に注意をすれば、大丈夫でしょう」
「最終的には、木造屋根つきにしようね。屋根は後回しということで。明かりになるものがほしいところだけれど……投光器とかはいらないって言われちゃったんだよなー」
 未沙は最低限の設備として、それくらいはほしいとゼスタ達に掛け合ったのだが、ランプで十分といわれてしまった。
 合宿が終わった後は、管理する者もいないと思われるため、機器類は設置しない方針のようだった。
「部屋を区切る壁もいらないと思うんだけどなー」
 その分の労力で屋根を作れば早く完成するのに、と未沙は思うが、部屋を分けることは少女達には屋根を設けるより大事なことのようだった。
「温泉だって、別に混浴でも何でも良いんじゃないかな? 一緒にお湯に使ったくらいでナニが変わる訳じゃないし」
 未沙が不思議そうに言うと、「ダメ! 香苗は嫌なの!!」と姫野 香苗(ひめの・かなえ)が力いっぱい反論する。
「未沙お姉様が見られることも、香苗は嫌なの。お姉様がよくても……」
 香苗の切実な言葉に、未沙は「わかった、ごめんね」と答える。
 混浴で別にいいとは思うけど、積極的に見せたいというわけではないので、こんなにも気にする娘がいるのなら仕方ないかと思う。
 尤も、香苗の本心は、女の子達の為というわけではなく、自分の欲望の為なのだけれど……。
「おし、こっちも組むぞ」
 和希やイルマ達、力仕事に抵抗のない女子が中心となり、木材を組んで周囲を囲っていく。
 平らにした床の上には、とりあえずはシートを敷いておく。
「衣服を入れる籠や、床に置くスノコなども作りたいところだな」
「そうですね。衣服や足が汚れてしまっては意味がありませんしね」
 イルマの言葉に笑みを浮かべながらステラがそう答えた。
「……完成を急ぐんだよな。作業中、だぞ」
 なんとなく嫌な予感がして、イルマはステラに背を向けて作業に集中する。
「そうですね。頑張ってくださいね……うふふ」
「そう! 急ぐのだわ! ゴミは我輩に任せるのだわ」
 力仕事が苦手な景戒も、合宿所の掃除の時と同様に、ゴミ集めや雑務を手伝っていた。
「あ、木屑、すぐ掃除するね。一緒にお願い」
 ネージュは箒とチリトリを持ってきて、細かい木片や、屑を集めて景戒が持つゴミ袋の中に入れていく。
「パンパンなのだわ。次はこっちにいれるのだわ」
 景戒は新たなゴミ袋を用意した後、ゴミの入った袋の口を縛ってひとまず隅に置いておく。
「壁の厚さはこれくらいあれば大丈夫だろ」
 仕切りの壁を作りながら和希が少女達に言う。建物自体はひとつだが、きちんと厚い壁を設けて部屋は2つにしてある。
「不埒な小細工をする者がいないよう、監視もさせてもらうのだわ」
 その壁を景戒は注意して見ておく。
「覗きは香苗が許さない。覗かれるの嫌だもん!」
 香苗は監視と周辺の巡回に集中していた。
 蟻一匹たりとも、雄は入れるつもりはなかった。
 そう、お姉様達の美しい素肌は全て香苗のものだから!
「本当は、同じ湯船に入るのだって嫌なのに……っ。辛いけど、苦しいけど、我慢するんだから! だから、覗きは絶対許さない。細工なんてさせない! 覗き絶対阻止ー!」
 香苗は声を上げながら、壁や作業をしている人達の手元を見て回る。
 もちろん、和希は細工などしておらず、ここに集まったメンバーも比較的まともな少女達ばかりで……いや、女の子好きな女の子ばかりで、そのような細工を行おうとする者は今のところ居なかった。
「利用者の中で穴を開けたりしようとする奴らがいるかもしれねーからな。開けても覗けない造りしないなとなー」
「そうするのだわ! とはいえ「おっと手が滑ったー」と、ドラゴンアーツぶちかまして、壁ぶち壊すがパラ実生がいないとも言えないのだわ」
「う……っ」
 景戒の意見を否定できず、和希は思わず苦笑する。やりそうな奴等の顔がちらちらと脳裏に浮かぶ……。
「手が滑りそうな人は、女子が更衣室使っている時には更衣室にも温泉にも近づかないでもらお? それとも見張りが必要かな?」
 沙幸がパートナーの藍玉 美海(あいだま・みうみ)に目を向ける。
「そうですわね。沙幸さんが安心できる環境が一番ですわ」
 美海は微笑んでそう答える。
 セクハラ好きな美海としては、更衣室なんてなくても全然構わないのだけれど。
 とはいえ、安心しきっている娘にセクハラした方が、楽しめそうだから。
 そんな理由で、あまり積極的な協力はせずとも、沙幸に付き添っていた。
「さて、あたしはロッカーを組み立てるね。本格的に寒くなる前に、頑張ろうね」
 ネージュは木材を使って、ロッカーを組み立てていくことにする。
 刺や、釘の先が出ていることで、誰かが怪我をしたりしないように。
 慎重に、丁寧に作り上げていく。
「こうして皆の手で、合宿所が段々と整備されていくのを見るのは感慨深いですな」
 ふと手を休め、ネージュや皆の様子を見回しながら、陳到が穏やかに言った。
 まぁ、あちこちにあれこれと邪念が見え隠れしていなくもないが。
 それもまた陳到には興味深かった。
「私も手伝うよ」
 沙幸も金槌を持って、ロッカーの組み立てに移ることにした。
 トントントン トントントントン トントントン
 トントントン トントントントン トントントン
 沙幸は熱心に釘を打っている。……なぜか三三七拍子だ。
「あつっ」
 夢中になっていた沙幸の左指に、木のささくれが突き刺さってしまう。
 すぐに引っこ抜いたが、彼女の繊細な指から、僅かに血が流れ出す。
「慣れていないのに、リズムなんかとっているからですわ」
「あ……」
 美海が沙幸の手をとり、彼女の傷ついた指を口に含んで優しく舐めた。
「やめて……美海ねーさま」
 恥ずかしがり、指を引こうとする沙幸だが、美海はそれを許さずに、血が止まるまで彼女の指を舐め続けた。
「これくらいで赤くなっていては……大変ですわよ」
 そして、彼女の手を解放すると、あでやかに微笑む。
「もぉ……」
 沙幸は照れ隠しのように釘を手にとって、再びロッカー作りへと戻る。
 動揺からか、これまでより更に、おぼつかない手つきになっていた。
「また怪我しそうですわね」
 美海は微笑みながら、傍らで沙幸を見守り続ける。
「お飲み物用意しました。タオルもぬらしてきましたので、お使い下さい」
 ステラが紅茶を淹れ、おしぼりと一緒に皆に配っていく。
「サンキュー!」
 和希は豪快に一気飲みして、おしぼりで顔をぐわしぐわし拭いた後、すぐに作業に戻る。
「ありがと〜」
 ネージュはカップを両手で包んで、手を温めてから、戴くことにする。
 全員に配り終えた後で、ステラは黙々と作業を続けるイルマの元に歩み寄る。
 そして彼女の首筋にぬれたタオルを当てて、汗を拭いていく。
「自分で出来る」
 ステラが悪戯をはじめたことに気づくが、平静を装い、努めて自然にイルマは言った。
「でも、手が汚れていますでしょ。あいにく、タオルはこれで最後。汚れた手は最後に拭きませんとね」
 そうささやくように言いながら、ステラはイルマの肩口に顔をうずめた。
「!?」
 声を上げそうになるも、どうにか堪えてイルマはステラから離れようとする。
「良い匂いです」
 ステラのタオルを持つ手が、首から肩へ、その先へと下りていく。
「……っ」
 たまらず、イルマはステラを振りほどく。
「どうかしました?」
「…………」
 微笑んでいるステラを、イルマは軽く睨みつける。
 しかし、反応を示せば示すほど、ステラが喜ぶことはもうよくわかっているので、耐えに耐えて、そのまま作業に戻ることにする。
「ふふ、興味深い人間模様ですな」
 陳到が、茶を飲みながら、沙幸達やステラ達の様子に笑みを漏らす。
「ううっ、香苗も、香苗も混ぜてほし……」
 更衣室でのささやかなスキンシップを見て、香苗は心中穏やかじゃなかった。
 でも、入り込めなくて一人悔しく歯をかみ締める。そして。
「はっ。そろそろ男女別の時間! 何かが起こりそうな、そんな胸騒ぎがするっ。香苗、温泉に行ってくるね!」
 男女別の時間が迫っていることに気づき、香苗はぴゅーっと更衣室を飛び出していった。
「よし、それじゃ今日の作業はここまでにして、俺達も温泉入るか!」
 和希がパパッと服を脱ぎ始める。
「そっちは男湯だよ!? 女の子、だよね」
 素っ裸で男湯に向かおうとする和希をネージュが引き止める。
「問題ないさ。裸の付き合いで絆を深めようぜ〜」
「そうね。気にしなければ相手も気にしないって」
 そういう未沙も時間を気にせず裸で湯船に浸かり、いつも男女の視線を集めていた。
「で、でも、もう男女別の時間だから。女の子が男湯入ってきたら、男子がびっくりするよっ」
「男子が真似して、女湯に入ってきたらどうするのだわ!」
 戻ってきた景戒が二人を引きとめる。
「んー、でも山側は景色も見えないし、木の板で囲まれてるから窮屈なのよね。ま、女の子だけと一緒っていうのは魅力的かもー」
 未沙はそう答えるが……。
「いや、でもな……俺、男、だし……」
 和希の声はどんどん小さくなっていく。
 和希は精神的にはほぼ男性なので、女性とと一緒の方が恥ずかしいのだ。
 皆が湯着に着替えていく姿もまともに見ることは出来ない。
「じゃ、一緒に女湯いこっ」
「あ、え……う……」
 着替え終えた沙幸に引っ張られ女湯に連れていかれた後は、別人のように大人しく静かにしていたという。

「覗き禁止、禁止なんだからっ!!」
 男女別の時間になる直前に更衣室を飛び出していった香苗は、山側から板の一部を外して川側の湯船を覗いている人物を発見した。
 女子のぞき部部長秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だ。もちろん彼女は素っ裸だ。
「いつの間に、こんな仕掛けが……。そっか、板を設置した時にすでに仕掛けを作っていたのねっ」
 香苗は板の一部が簡単に取り外しできるような作りになっていたことを知り、これまでに覗かれてしまった娘や、覗きという無駄な時間を過ごした娘のことを想い、悲しみに暮れた。
「一緒にどうですか? この時間からは湯着を纏ってらっしゃらない方が多いんですよ」
「見たくないもん! そんなことやめて!!」
「ですが、混浴の時間は、やはりロマンがたりません」
 つかさは合宿所から素っ裸でここに訪れ、惜しげもなくその肌を晒しており、健康的な男子達の欲望を満たしてくれている。
 見られたり、声をかけられたり、触られたり、こちらから誘惑したりと、それなりに楽しいことはあるのだが、刺激がまるで足りなかった。
「こんなことをしてたらだめ! もっと自分を大切にしなきゃ。こんなに、こんなに冷たくなっちゃって……」
 香苗はつかさに後ろからぎゅっと抱きつき、彼女の冷たい肩に頬を当てた。
「香苗が温めてあげるから、一緒に入ろう、入ろう。入るのっ!!」
「これから面白くなりますのに……」
「ダメなの、覗きはダメ、ダメなんだから!」
 強引に引っ張る香苗に、つかさは大きく息をついた。
「楽しむことが一番ですからね。わかりました、今日はお付き合いしましょう」
 珍しくつかさは譲歩することにする。
 つかさが覗きに執着する理由には、男性への復讐心もあるのだ。
 意地になって女子と喧嘩になってしまっても、何も得るものはなさそうだから。
「やったーっ! 香苗も用意してくるね」
 香苗は大喜びで更衣室に走っていき、すぐに着替えて戻ってくる。
 そして、その日はつかさを含む沢山の女の子達と、すっごく楽しい時間を過ごした。