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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

リアクション

「ボクにはもう、やること……ないよね」
 部屋の隅でびくびくしながら、陽は深くため息をついた。
「やっぱり、役に立たなかったな……」
「ご気分でも悪いのですか?」
 落ち込む彼に近づいてきたのは、陽のパートナーのテディを手伝っていた隆寛だ。
「うん……えっと……」
 陽は少し迷ったけれど、隆寛が大人であり、とてもやさしい目をしていたから。
 悩みをぽつりぽつりと口に出し始めた。
「臆病者で戦うことも出来ないし……。こういう時にも、役に立てなくて」
 陽は契約者になることを望んでいたわけではなかった。ひょんなことから契約者となり、異能の存在となった為に、地球には居辛くなってしまった。
 だけれど、ここでは、日本の学校のような学生生活を送ることは出来なくて……。
「友達も、いなくて……。ここにも、どこにも自分の居ていい場所なんて、ないのかなって」
 そんな陽の悩みを、隆寛は頷きながら聞いた後、一緒に壁際に立って部屋の中に目を向けた。
「ご友人――大切な方がまだ出来ていないから、きっと道が見えていないのでしょう。まずはお友達を作ることだと思いますよ。見てのとおり、ここでは皆、自分の出来る範囲で無理なく手を貸しています。ただ見守っている方もいますよね。だけれど、ここに集まった皆は、情報を共有する、共にすごした仲間です。合宿に集った方々も。その輪に、入っていかれればよろしいかと。すぐには無理でも、いっぽいっぽ自分のぺースで近づいていってみてはどうでしょう」
「そうですよー。人手は足りないのです! お掃除手伝ってくださいね。はいモップ、箒、はたきにバケツ、チリトリ、雑巾をどうぞ」
 どさどさどさと、掃除に勤しんでいた野々が掃除道具を陽に渡していく。
「全部は扱えませんか? 大変ですよね。ええ、どれか、1つでいいんですよ。お願いしますねー」
 そう言うと、野々自身は雑巾を手に壁の掃除を手伝いに向かっていく。
「えっと……」
 何も答えられずにいた陽だけれど、迷いながらもその中から箒をとって。
 隆寛の顔を見上げて、彼の頷きを確認した後。
 掃除をする皆の中に、ゆっくりと歩み寄っていった。

「写真撮るわね」
 アルツールのパートナーのエヴァ・ブラッケ(えう゛ぁ・ぶらっけ)が、台の上に乗せられた箱を、光術で照らしながら全ての角度からカメラに収めていく。
「……変な人影とか、一緒に写っていないといいのだけれど……フフッ」
 彼女の言葉に、軽く何人かの契約者が震えた。
 それからリーアが箱を手にとってマリルと一緒に調べだす。
「すぐには解らないようだし、少し休憩にしようか」
 エールヴァントは用意してきたクッキーを台の上に広げた。
「美味しそうです。そうですね、解体にもさほど人手は必要ありませんし。では、帰りにお湯もらってきますね」
 ゴミ袋を片手で持って、真言が梯子を上っていく。
「いただきますぅ〜」
「ボクもボクもー」
 お手拭で手を拭いて、明日香と朱音がクッキーを食べ始める。
「何が入っているんでしょうねぇ〜」
「結構小さいよね。沢山入ってたら一つくらいほしいなー」
「この箱も、何かに使えそうよね。これをもらっていくのもよさそうだわ」
 明日香、朱音の会話に、香住も加わって、一緒にクッキーを食べ始めた。
「どうぞ」
 エールヴァントは、野々や陽達、掃除をしているメンバーにも休憩を進める。
「僕の分も残しておいてよねー。お菓子も宝も♪」
「前を見て歩かないと、危ないですよ」
 テディは解体した棚を持ち運びながら、体をひねって皆の方へ笑顔を向ける。手伝っている隆寛が、壁にぶつかりそうな板をそっと押さえて止め、共にゴミを集めている場所まで歩いていく。
「もちろんですぅ」
 明日香はそう答えた後、再び箱に目を戻した。
「あけた途端、爆発などということはないじゃろうか?」
 玉兎は慎重に箱を見回している。
「そんな仕掛けはないとは思うけれど、魔法の力は感じられるわね」
 アメリアはそう言って、何があってもすぐに対処できるよう注意をしておく。
「開けられそう?」
 マリルの問いに箱を調べていたリーアが首を縦に振った。
「鍵穴を魔法で隠しているだけみたい。誰か魔法をぶっつけてみてくれないかな? その間に開錠できる人がいたらお願い」
「それじゃ、俺に任せてくれ!」
 前に出たのは、ちょろまかす気満々のマーリンだ。
「鍵を開けることくらいなら……出来るかな」
 開錠はピッキングのスキルを持つ、アトラが名乗り出る。
「それなりに強度はあると思うけれど、中身ごと破壊したりしないでね」
 リーアは皆を下がらせて、マーリンに魔法を放つように指示を出す。
「任せろ〜!」
 マーリンは光術を箱に向かって発動した。
 パッと光ったその瞬間に、箱に鍵穴のようなものが見える。
「あそこだね。ちょっと小さいけど……っ」
 すぐにアトラは針金を指し込んで、箱の鍵を開ける。
 カチリと小さな音がして、箱の蓋が開いた。
「小さな金庫のようなものね。中身は――粉?」
 中に入っていたのは、白い粉だった。
「薬だろうか。服用する薬であるなら、使用期限はさすがに過ぎているだろうが」
「撮るわよ。映像を分析しても効果はわからないでしょうけれどね」
 アルツールが軽く眉を寄せながらそう言い、エヴァは開かれた箱と中の薬をカメラに収めていく。
 もう1つの箱も同じようにして開けてみると……。
「うわっ」
 開けた途端、アトラは驚いて後ろに下がった。
「膨らんだよ……?」
 いきなり、箱が大きくなったのだ。
「面白いマジックアイテムね……。物質を小さくして保管していたのね」
 リーアは取り出して、グレイスと共に中を確かめる。
 中に入っていた物――書物数冊も大きくなっていた。
「多分こっちも同じ仕組みの金庫なんだろけれど、効果が無くなってしまったようだね」
 グレイスは念のため、もう1つの箱の蓋を閉じた。
 カチリと音がする。閉じた途端に、また鍵がかかったようだ。
「これは専門書の辞典というか、解読書かしら?」
 ほとんど読めはしなかったが、長い時を生きているリーアには見覚えのある文字が書かれている。
「あらあら〜、見つかった本を翻訳できますかしらね〜。写真で全部内容まで撮影できれば良いですのに〜」
 エレアはそんなことを言いながら、デジカメで撮っていく。
「テントに持ち帰って調べてみよう。翻訳がはかどるかもね。粉の方もイルミンスールに持ち帰って分析してもらおう」
「面白い薬だといいですねぇ〜」
「取り出したら増えるようなら、少し分けてくれるかな?」
「そうだね。問題のない薬だったらね」
 グレイスは明日香と朱音にそう答えた。
「こっちにも来るある!」
 デジタルビデオカメラで壁を撮影していたプロクルが教師陣を呼ぶ。
「もうすぐ壁磨きが終わるである」
「辞典があるのなら、この文字みたいなのも読めないかな?」
 壁を拭いていた北都がグレイスに尋ねた。
「箱と同じように、鍵が隠れてるんなら、暴いてくれれれば開けられるぜ?」
 昶が針金を手に、そう言う。
 グレイスは少し考える。
「うーん、多分呪文がそのまま書かれていることはありえないから、文字を解読しただけじゃ開かないと思うんだよね」
「ひとまず、写真に収めておこう。合宿最終日までに、解けないようなら強硬手段もやむを得ないか」
「まー、そうね。解けるといいわねぇ」
 アルツールが指示を出し、エヴァがカメラに収めていく。
「解体もそろそろ終わったようですし、お茶にしましょうか」
 真言が湯を入れたポットを持って、戻ってきた。
「高級なものじゃないけど、紅茶も用意してある」
 エールヴァントは、真言から湯をもらうと紅茶を淹れていく。
「一息つきましたら、木片を皆で外へ運び出し、掃き掃除をして撤収しましょう」
 真言は手伝って紅茶の入った紙コップを皆に配っていく。
「いただきますわ」
 エレンは受け取って、軽く冷ましてからいただくことにする。
「中身もそうですけれど、箱の方が面白そうかしら?」
 エレンには本や薬より、やはり箱に使われている古代の技術の方が興味深かった。
「ありがと」
 エールヴァントから紅茶をもらった北都は、一口飲んだ後、昶に目を向ける。
「少し汚れたし、これが終わったら温泉に入りに行きたいね」
「そうだな」
 昶も茶を飲んで、ほっと息をついた。
「そう温泉いいよな、温泉」
 アルフが明日香と朱音の間に入り込む。
「キミ達は無理しなくていいんだよ? 重いものはキミ達の分も俺が持ってあげるからな。で、後で携帯番号交換しよ? 温泉も一緒にどう?」
「……アルフも紅茶飲む? 頭からどうぞ」
 エールヴァントが背後から近づき、アルフの頭上にティーポットを掲げる。
「うわっと……! 口から飲む、口から!」
 アルフは即、斜め後ろに飛びのく。
 そんな彼の様子に、明日香と朱音は顔を合わせて微笑みあった。