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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

リアクション

 

「蛮族ども! 我らの第一陣に痛い目にあったと聞いたが、懲りずにまだ襲ってくるか」
 教導団の兵が一斉に発砲する。大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)もその中にあって、スプレーショットを撃ち放つ。
 すでに国境近くまで来ている陸路第二陣。一陣の物資にありつけなかった蛮族の残党か、付近に住まう別の部族かしれないが、ぞろぞろ集まっては襲い来る。
 ばたばたと倒れるが、その後ろから、棍棒を振り回し奇声を発し飛びかかってくる族の群れ。
「ええい!」
 丈二は怯まずに、前に出る。ここで成果を得れば、自分とて二等兵から一等兵くらいには! と。「ヒルダ!」
「ヒルダが盾になります」
 ヴァルキリーのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)がカルスノウトをかざし、蛮族を押し返す。
「数は多いようだが、統率の取れていない蛮族集団などに、自分たち教導団が負けはしない!」丈二も更に踏み出し、寄ってくる蛮族を射撃で退ける。ヒルダの横に立つ。「丈二、大丈夫?」
 二人ともまだ少年・少女兵の幼さを残しているが、ヒルダの方が少し年上で、丈二は小学校の卒業式で、生き別れた姉と勘違いして契約を結んでいるのだ。
「もちろん。これでもあの有名な【鋼鉄の獅子】と一緒にタシガンを警備したんだ。その名を汚すことはできない!」
 丈二の意気につられ兵たちは蛮族を蹴散らしていく。
「やるなぁ。今回の出兵に加わっている兵たちは意気込みが違う」
 後方で、第四師団メイド隊長の朝霧 垂(あさぎり・しづり)が呟く。少し遅れて第二陣に加わり、騎凛のもとへ向かうこととなった。もっとも騎凛セイカはさらわれてしまっているのだが……「けど、俺が向かうのはセイカのところだ。待ってろよ……セイカ! と、ここは加勢して一暴れしてくるかな」
「い、いえ。朝霧さんはここにいて。私が第二陣の指揮なんて……不安で」
 騎凛の現在のパートナーのニケ・ハルモニア(にけ・はるもにあ)である。今回は留守を預かるはずだったのだが、いきなりの騎凛のピンチに駆けつけることになり、ついでに第二陣の指揮を預かることになってしまった。
「弱気だな、いきなり。そんなことじゃパートナーが……あ、ああ。すまない」
「……え、ええ、そうね。しっかりしなくては」
 第四師団のコンロン出兵以前になる南部の戦いで、騎凛の前パートナーの死に、騎凛の精神状態が危うくなったとき新たなパートナーとしてニケを推したのは朝霧であった。ニケは旧友でもあった騎凛との契約を受け入れ再び共にいられることを嬉しくも思ったが、一方でパートナーとして務まるのかという不安を拭えないでもいた。
「こいつを傍に付けておくから」
 朝霧は、朝霧 栞(あさぎり・しおり)を差し出した。
「にゃははは〜」
 栞は、以前の戦いでニケと共に行動している。朝霧が師団のメイド隊長を務めているためもあって、騎凛・ニケと朝霧とそのパートナー一行とは家族ぐるみ(?)の付き合いとも言えた。
「もう。にゃははとか笑ってないで、頼られるようにしてなきゃ!」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が栞の肩を押す。
「垂、じゃあ僕たちは前に出よう」
「ああ。それに俺たちじゃなくても、後ろにはあの名参謀が控えてるから、大丈夫だろ? こんなとこで負け戦なんて、あり得ないって!」
 そう言って後ろを見る。彼女らの更に後方にゴゴゴ……と控えている男。
「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけれどもね。何も考えずにドンパチするのも好きなんですけれどもね。……」
 何やらぶつぶつと呟いている。久々に戦線に復帰した教導団きっての参謀と謳われる男である。
「ニケ殿!」
「はっ、はい!?」
 前方から兵が駆けてくる。大熊丈二だ。モヒカンの大男を引っ張ってきている。
「ニケ殿、蛮族を捕えました! こいつを尋問し、師団長に関する情報を聞き出してはいかがでありましょうか! いかなる手段で尋問いたしましょうか?」
「は、はい……え、ええと」
 どどーん! と、そのとき前方で盛大な火花が飛び散る。
「きゃぁ!」
「派手な……」
「おお。装甲兵を出したでありますか」
 第二陣には、パワードアーマーの一隊が加えられた。続々わいてくる蛮族に業を煮やしたのか勝手に前に出てきた……なんてことはないだろうが。となると。
「あ」
 後ろに控える名参謀の瞳が光っていた。「何も考えずにドンパチするのも好きなんですけれどもね。何も考えずにドンパチするのも好きなんですけれどもね。……」
「許可を出したんですね……」
 ぎゃぁぁ。いやぁぁ。その破壊力に、逃げ惑う蛮族たち。パワードアーマー隊の先頭に立って蛮族を徹底的に痛めつけているのは、
「クク……蛮族風情が軍隊に喧嘩を売るなど……。身の程知らずも甚だしいです。にょろ」
 ゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)
 地球では色々と黒い噂の絶えない民間軍事会社「グリンウォーター」を経営する一族の娘。パワードアーマーの下は、丈二と同じようにまだ子どもらしさを残す年齢なのだが。戦闘に関しては実にドライで、傭兵的。装甲歩兵科期待の新入生とも言われている。
 貴重な戦力であるので、後方の輸送物資の中に紛らせて移動させていたのだが……蛮族のしつこい攻勢にこれをちらつかせて誘き寄せたところに、
「こんにちは蛮族さん? そしてさようならですわ!!」
 こちらはゾリアの悪魔、ザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)。近付いてきた蛮族に、這うようにして間合いを詰めると一気にぶっ放した。続いて飛び出るパワードアーマー。蛮族はさすがに涙目だ。
「フッフ。アホタレどもめ、まんまと誘き出されてきやがって。せいぜい、逃げ惑うのだな。……もう逃げ切れはせんだろうが」
 そう言うのは、ロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)。かの英雄ロビンフッドの分霊であり、ゾリアの英霊となっている。
「エネミーエンゲージ!! 八時の方角です! にょろ」
 ゾリアが叫ぶ。クク……油断しのこのこ襲ってきて餌食にされて……哀れな蛮族ども。しかし……完膚なきまでに殲滅するです、にょろ。とパワードヘルムの下に笑みを浮かべ、撃ち続ける。ゾリア。グリンウォーターの契約者たち。
「クク!」「さようならですわ!」「フッフゥ」
 どどーん! 散る火花。蛮族花火。
「うむ……」
「イレブンさん」
 輸送隊の護衛をし、騎狼部隊の第二陣として随行してきたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)。騎狼の上からその一方的圧倒的なドンパチを見守る。
「うむ。第四師団も、段々と教導団らしい戦いになってきたと言うべきか」
「イコンも出しちゃうんでしょうかねぇ、今唯GMも。このままいくと……」
 どどーん!
「うむ。我々騎狼部隊が活躍した頃とは、時代が変わってきているのかも知れん」
「そんなに年月が経っているわけではないですぅけども……イレブンさん」
 どどーん! どんどーん……
 
 
 教導団がドンパチやりつつ、兵をコンロンへ送り込んでいる他方。
「久しぶりに皆と遊びに行きたくて、長期休暇とったんだ! せっかくだからどこかに旅行でも行きたいんだけど……」
 と言っているのは神野 永太(じんの・えいた)
「旅をするのは久しぶりです」
 それを聞いて機晶姫の燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)はそう言う。
「旅は苦手ですの。私は……部屋で寝ている方がいいような気がしますわ」
 こちらも機晶姫、黎式鎮護機 黝導(れいしきちんごき・ゆうどう)
「で、……旅行はいいんだけど、目的地コンロン地方って本気なの?」
 永太の持ち出している旅行話に突っ込むのは、精霊のミニス・ウインドリィ(みにす・ういんどりぃ)
「黝導(ユウ)が言ったみたいに、コンロンなんて行くなら、寝てた方がいいかもよ。だって――」
 ミニスが精霊として世界を一人旅していた頃にも、物騒な噂しか聞かなかった。それに今、コンロンにはシャンバラ教導団が大量の兵を送り込んでいるというのだ。ミニスの聞いていた物騒な噂というのだと、これまでコンロン内部だけで行われていた小規模な紛争程度の話ではあったのだが、今や、帝国が手を伸ばしているというしおそらくそれでシャンバラも教導団を派遣している。紛争は、シャンバラとエリュシオンの間で代理戦争になると話す者もいる。そういうこともあって、教導団がすでに第二陣を送り込み第三、第四陣と準備を進めている頃には一般の学生の間でも話が聞かれるようになっていた。
「そう。戦争になるかもしれないのよ」
「うーん。しかし、サルヴィン川を北上する船のチケットをとってしまったしなぁ」
「……」ミニスは押し黙った。
「それでは、仕方ないですわね」と黝導。
「えっ。仕方ないで済ませていいの」
「楽しい旅になるよう、私も善処しましょう」とは、ザイエンデ。
「……ど、どうやってよ」
 神野たち四人は、結局コンロンに向かった。
 四人の他に、ザイエンデらのペットである幻獣や魔獣を連れていったので、サルヴィン川流域の蛮族や獣もあまり近寄ってはこずに、コンロンまでは安全に旅することができた。
 食料の調達、調理の指揮はザイエンデ任せ。ザイエンデ中心に女子が料理をし、神野は皆の護衛。ちょっとしたサバイバル生活ながらも、黝導が記念写真を撮ったり辺境の自然を楽しんだりしつつの旅行になった。夜はテントを張り、神野はやはり皆の護衛。ペットたちと共に番をする。丑三つ時を過ぎたあたりで、ペットらにあとを任せ、寝る。……寝るの、だが。ここで、神野は困った。わ、私は、ど、どのテントで、誰と寝ればよいのだろうか……っ?
 ザイエンデは、「私はミニスを床を共にするので他をあたってください」
 となるとミニスは無論、「私はザインと寝るから、えーたはあっち行っててよね。しっしっ」
 黝導は黝導で、「あらどうしたのですお兄様? 朝まで番をしてくれるのでしょう?」
 それ以来、永太はペットたちに挟まれてうとうとと、夜を過ごしている。
 そして旅の後に、コンロンに入って彼らが見たものは……
 入口の都市に出入りする教導団員ら。街も、警備兵が出ているし、物々しい。「この分だと、もうすぐにも戦争が……?」