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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

リアクション



【?4―1・迷走】

「はぁ……」
 静香はもう昨日今日で何度目かという溜め息をついていた。
 相変わらず事態に進展はなく、身体も女性のままで。
 保健室のベッドに入っても、不安からもうあまり眠気も起きずにいた。もっともここのところ寝すぎなので、普通にしていても眠れやしなかっただろうけれど。
「ほんとに、どうすればいいのかな」
 このセリフも何度呟いたことか知れなかった。
 行動を起こしても起こさなくても、あまりうまくいかないこの現状を含め、いつものようにここを訪れてくれた亜美に説明していく。
「ループのことは気がかりだけどさ。身体のほうはそのままでもいいと思わない? 守られてるばかりって言い方は、あんまりよくないけど。ワタシやラズィーヤに守ってもらえることは、静香にはとっても幸せなんじゃないかな?」
 あまり違いのないアドバイスにまたまた溜め息をつき、不本意ながらも同じ返しをしようとした。
「そ「待ってください!」
 そこへいきなり真口 悠希(まぐち・ゆき)が飛び込んできた。
 闖入者に面食らう静香と亜美だったが、悠希のほうは構わずに叫び続ける。
「静香さま。答を出す前に……聞いて頂きたい事があります」
「は、はあ」
「まず……ボクは亜美さまに謝まらないといけないです」
「え、ワタシ?」
「前回ボクは、静香さまを妄信し、亜美さまの言葉を深く取り合わず、否定してしまいました……御免なさい」
「あ、いや。あのときはワタシもちょっと気に障っただけだから、そんな気にしなくても」
「そして……反省し気付きました。本当は亜美さまの言う様な迷いが静香さまの心にある……それがきっとループに影響してるって!」
 静香としては、若干心当たりがあるためビクリと身体を震わせる。
「最初のはラズィーヤさまが大切なのと、迷惑なのの迷いの狭間にいましたよね? 今回のはきっと……辛い事が多すぎて、か弱い女性の様に守られたいって迷いが生じたんです……でもボク知ってます。静香さまがそんな弱い自分を変えたいと思っている事を」
 悠希の発言は、ほとんどが推測によるものであるのは明白だったが。
 それでも確実に静香の心の深いところを突いていた。
「静香さま……色々辛い事が続いたから、挫けそうで……怖いと思いますが大丈夫です。ボク……貴方にどんな弱い部分があっても見捨てたりしない……」
「そ、そう。ありがとう」
「けど……弱い自分を変えようとする静香さまを応援してます! 甘え甘やかせる関係じゃなく、ボクもそんな静香さまと同じ様に成長していきたい!」
「………………」
「だから……今回も亜美さまに示してみて下さい。静香さまが本当はどうしたいか。その意志を……そうしたら道は開けると思います」
「そ、そういわれても。その」
 静香としては、悠希に同意できる部分は多くあった。しかし未だ迷いの渦中にいる身なため、簡単に意思を示すことはできず。
 結果おろおろするしかできない静香を見つめながら悠希は、
「すぐに結論を出せとはいいません。今はゆっくり考えてみてください」(……ループが直ったその時は多分本来に戻って、静香さま女性じゃなくなる……でも構わない。ボクが愛しているのは静香さまという人だから……)
 そんな複雑な想いを渦巻かせていた。
 ともあれ後は静香自身の問題だとして、悠希は亜美へと矛先をシフトする。
「それで、ループの中で起きてる、放課後の件については何か外的要因の筈ですよ。次は誰が狙われてもおかしくないかもしれません。こっちの問題も片付けておいたほうがいいと思います」
「あ、うん。そうね。ワタシ達でなんとかしないと」
 言葉の乱発に気圧されていた亜美は、悠希に後押しされるようにして、並んで保健室を後にしようとした。
 その直前、
「亜美さま……ボクには貴女も何か抱えてる様に見えます。今の迷いを断ち切った静香さまなら、何でも受け止められると思いますし。ボクも……静香さまは勿論、皆や貴女の力にもなりたいですから……良かったら何でも話してみて下さい」
 悠希はそう耳打ちしておいた。
 亜美はわずかに驚きを瞳の中に出しながらも、表情には出さずわずかに唇を引き締めただけだった。

 ふたりが出ていき、またひとりになった静香。
 さっきの掛け合いで流れ出た冷や汗が、身体を冷やしてきていた。
「これじゃ風邪ひいちゃいそうだ。ちょっと着替えよう……」
 静香としては今の身体で服を脱ぐのはどうしようもなく恥ずかしいのだが、このままだと寝ようにも眠れないだろうから諦めることにした。
 保健室にあった体操服を借りることにし、いざ服を脱いでいく。ちなみに今まで着ていたのはフレイムワンピース。冬場はこれを着ていれば、けっこうあったかなのだ。
 ふと、下着だけになった自分の身体を眺めてみる。
 上下に身に着けているのは以前ラズィーヤがくれた、刺激的な赤のもの。大きくなった胸のおかげで、サイズがあうのがこれしかなかったのだ。
「自分の身体なのに、どうもドキドキしちゃうなあ」
 と、そこへ、
「静香校長、失礼するぜ……って、ええっ!?」
「え? あ、きゃあ!」
 まるでラブコメみたいなタイミングでやって来たのはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)。すぐにミューレリアは背中を向けて、静香はシーツを引き寄せて身体を隠した。
「もう! ノックぐらいしてから入ってきてよ!」
「あ、ああ。悪かったよ。でもよ、今の、その身体」
 しっかり見えていたらしいミューレリアに、渋々静香は体操服に着替えて事情を説明していった。
「かくかくしかじかで……というわけなんだよ」
「はー。静香校長が女の子になるなんてな。これはまた何とも不思議な現象だぜ」
「まあね。ただのループ現象だけじゃなく、まさかこんなことが起きるなんて。一体どうなってるのか」
「でもよ。これはいかにもループに関連がありそうだな。静香校長が女の子になったのが原因だとすれば、男の娘に戻れればループも解決するはずじゃないか?」
「んん。その可能性はあるとは思うけど」
 このとき静香の脳裏に、前回ループでアキラに言われたことがわずかに浮かんだが。
 変化のない今を、すこしでも変えたいという考えのほうが上回った。やはりついさっき悠希から言われたことが、少なからず影響しているらしい。
「で、女の子になってやりたかったこと、なにかないのか?」
「そう言われてもなあ。可愛い服着たりとか、化粧したりとか、思いつくことは大体いつもやってるし」
「でも、なにかひとつくらいあるだろ? 女になるなんて経験、もう二度とないかもしれないんだ。できるうちにやっとかないと損だぜ」
 言われてむむむむと悩み始める静香。時折頬を染めて首を振っているところを見ると、えっちーことを妄想して恥らっているらしかった。
 そうして数十分近くも悩んで、出した結論は。
「じゃあ、今の姿を写真にとっておいてよ」
「なんだ、そんなことでいいのか? まあそのくらいならお安い御用だ」
 静香からカメラを受け取って、軽くパシャパシャと撮影していくミューレリア。
 ポーズをつけて撮ってもよかったのだが、そこまでするとなんかイロイロ戻れなくなりそうだという静香の要望からやめておいた。
(つまりは記念に残しておきたいってことか? なんだ。静香は女性化したことに対して、そこまで関心持ってないのかもな)
 これなら意外とはやく、普段の男の娘に戻るだろうなとミューレリアは思うのだった。