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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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静香サーキュレーション(第2回/全3回)

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【?4―2・接触】

 そろそろ時刻が夕方に近づくころ。
「ちょっと、顔でも洗ってこようかな」
 頭がこんがらがってきた静香は一度洗面所に向かうことにして。その途中レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)と会った。
「あ。こんにちは」
「こんにちは…………ん?」
 レキはそのまますれ違ったものの。静香の後ろ姿をじぃと見つめ続ける。
「レキ。そなたも気がついたか」
「うん。なんだか、いつもより声が高かったし、体つきが全体に丸みを帯びているような……。どうかしたのかな? 顔色も悪いし」
 心配になってきたのでついて行くふたり。
 途中桜谷鈴子(さくらたに・すずこ)とすれ違い、また互いに、
「「こんにちは」」
 と挨拶をし合った。
 そのあとまた追いかけていくと。
 静香は洗面所から戻ってきて、こっちに向かってきたので今度は話しかけることにした。
「校長先生。さっき何か声がいつもと違うみたいなんですけど、どうかしたんですか?」
「え? いやその、えーとこれは風邪でのどが痛くって」
「そうなんですか? あれでも、のどが痛いなら逆に声低くなるんじゃないかな?」
「そ、それは」
 あからさまにうろたえる静香は、ここは誤魔化しておこうという姿勢だった。
 その最中に密かにミアは静香の背後へ忍び寄り。徐に胸を掴んだ。
「ひゃっ!? な、なにしてんだよ!!」
 抗議にも構わずじっくりふくよかな感触を確かめながら、静香にのみに聞こえるように囁く。
「何故じゃ、何故男の娘であるお主が妾のよりも……」
「そっ、それは……んっ、い、いい加減離して!」
 ぺたぺたと触っていたミアは、やがてハッと目を見開かせたかと思うと、
「そうか。とうとう完成したのじゃな、性転換装置を」
 などと突飛な発想を閃かせる。
(男は男の娘に。女はより女らしく、ボンッキュッバーンに変身じゃ。うぬぬ、なんということじゃ。そんな装置を作りそうなのはラズィーヤしか考えられん)
「ミア。どうかしたの?」
「こうしてはおれん! いくぞレキ!」
 ミアは即座に首傾げのレキを連れ、走り去ってしまった。

 そのころ。
「先生。私たち、今日アレの日なので、保健室で休んできていいですか?」
「え? しょうがないわね……。でもアナタ、あまり大きな声でアレの日とか言うんじゃありません!」
「はーい。すみませんでした」
 葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は揃って教室を出て、保健室へと来ていた。そこはまだ静香が戻ってきていないため無人で。
「失礼しまーす。あれ? 誰もいないんですか?」
「鍵もかけないで、無用心だねぇ」
 そしてふたりは、当然のようにベッド休むことなどせず、
「さてと。幽霊は、どこかに隠れていませんかね?」
 ベッドの下やカーテンの裏を調べ回っていく。
 実はふたりは昨日のループでラズィーヤの幽霊が出てきたという事実から、今度は静香の幽霊が出てくるかもという発想で調査することにしたのだった。
 この前のループでも別の保健室へ足を運んで苦心を重ねたのだが。あまり成果はなく。
 それでも諦めることなくのんびりと幽霊探しに勤しんでいた。
「うーん……いないなぁ」
「そうですね。今回のループでは、そういった現象は起きないんでしょうか?」
 しかし開始数分で早くも音をあげはじめたふたり。そこへ静香が戻ってきた。
「さっきのは一体なんだったんだろ……あれ?」
「あ! 本物の静香校長、ですか?」
「え? そりゃあ本物だけど」
「今回はまだ無事だったんですね、よかった。とりあえず座ってください。今お茶を淹れますから」
「は? いやあの」
「遠慮しないでいいですからぁ。ほらほら」
 アリスは静香を強引に丸椅子に座らせ、可憐は置いてあったポットを勝手に使って本当にお茶を淹れはじめていて。静香は(なんでまたそんなにわがもの顔なの!?)と困惑しつつ、好意を無下にすることはできず。
「はいどうぞ。カモミールティです、いい香りでしょう?」
 完全に保健室を私物化してしまった可憐に、どう返そうか悩む静香だったが。
 実際いい香りで、さらに飲んでみれば、
「美味しい……! ありがとう、身体があったまるよ」
「それはよかった。気分も落ち着いたみたいですね」
「うんうん。いつものんびりするのが一番だよぉ」
 というまったりムードへと完全移行する結果になった。
 静香としても、流れとはいえこうして落ち着けたことに感謝し。
 可憐たちも当初の目的そっちのけで、まったりくつろいでいった。
「失礼しまーす。静香、だいじょうぶー?」「どうも、こんにちは」「やほー、静香」
 そこへまた美羽、ベアトリーチェ、瀬蓮たちがやってきて。
 場は更になごやかになっていくのだった。

 それとまた同じころ。
 前日と同じく女装している四条 輪廻(しじょう・りんね)と、それをくすくす顔で見ているアリス・ミゼル(ありす・みぜる)が西川亜美を尾行していた。
 輪廻たちはループに巻き込まれ目下調査中なのだが、どうやら今回の目的は彼女らしい。
「と、いうわけで、本日は西川さんに接触を試みますわ」
「接触ですか、四条さんもついに女性克服へ!」
「違う、今回のループのキーが彼女だと思うからだ」
「だめです四条さん、バレます」
「え、それまだ引っ張るんですの?」
 女装うんぬんのくだりでアリスと漫才するのもそこそこに、亜美の前へと躍り出る輪廻。
「ごきげんよう。一つ聞いてもよろしいかしら?」
「ん? なによ急に」
「前回のループ、事の顛末はある程度、他の子から聞きましたわ。『ラズィーヤ様は彼女にとって必要な人間である』ということなのでしょうけれど」
「ああ。ワタシもそれらしい話を後で聞かされたわね」
「今回は『自分も皆を守らないといけない』 もしくは『守られるだけじゃパートナーじゃない』といったところでしょうか?」
「……ちょっとごめんなさい。なにが言いたいのかよくわからないんだけど」
「ふふ、ごめんなさい、まるで貴女が知っているかと決め付けるような聞き方ですけれど、もし貴女が関係者で、次のループで私に手伝えることがあるならと思って。それと、様子は窺わせていただきますわ、きっと静香様のためだとは思うのだけれど、万が一は疑っているから」
「なに、もしかして喧嘩を売ってるの? それなら、素直にそう言って欲しいんだけど」
「ごめんなさい、急にこんなこと言われても困るわねきっと、今言ったこと、分からないなら忘れてください」
 だったら最初から言わないでよ、とでも言いたげに睨んでくる亜美に、
(図星をつかれて戸惑ってるか、単に疑いをかけられて怒ってるだけか……どっちにしても、この様子じゃ協力は無理か。あとは様子見に徹しよう)
 輪廻はそう結論付け、軽く会釈してからくるりときびすを返し、
「いこう、アリス」
「え? あ、そうですね」
「さて、今日ループするなら、お金は使いたい放題ですわね。今日一日高価いもの食べるぞー!」
 早々にループを楽しむ方向へと頭を切り替えていった。
 だが黙って会話を聞いていたアリスのほうは、易々とは切り替えられていないようで。
「守られてるだけじゃダメ……ですか」
「ん?」
「いえ、僕も、ダメなのかなって。ピン いてっ、なにするんですかぁー」
「デコピン」
「そういうことじゃなくて」
「俺はダメと組んだ覚えはない。頼りにしている、自覚しておけ」
 それだけ言ってスタスタと先を進む輪廻に、アリスはわずかにきょとんとした後。気恥ずかしそうに笑って。
「……ダメです、四条さんばれます」
 女装してるのに男らしかったセリフへと注意しておいた。
「ふふっ。もうそのネタにもいいかげん慣れてきたかな」
「まったく、そんなんじゃ僕がフォローしてあげないとダメじゃないですか」
「あと炊事洗濯掃除とか、それ以外にもやることは多いのよ、相棒」
「はいっ。えへへ」
 そのまま心底嬉しそうに去っていくふたり。
 言いたいことだけ言っていった彼女達を、亜美はただ何も言わぬまま睨み続けた。
 その視線が実際どういう意味を持っているかは、今はまだ、誰にもわからなかった。