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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第四章 枯れ往く桜1

「白花……俺は何ができるんだ」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は桜の世界樹『扶桑』の前でうな垂れている。
 彼は扶桑を、『もう一つのまほろば』といって離れたがらなかった。
 刀真を心配した漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、彼の代わりに都で得た情報を持ってやってきた。
「扶桑の都は『扶桑の噴花』の失敗によるマホロバ幕府の権威が低下して、治安が悪化してるって……諸国から過激志士らが集い、暁津藩も瑞穂藩もここぞとばかりに暗躍してるみたい。刀真……?」
「月夜、マホロバにとって俺たちは何なのだろうな。 扶桑の中にいる白花は? こうしてる間にも白花たちの命は削られてるというのに……」
 刀真は扶桑の幹に手の腹をあてた。
 こうしていると、桜の中の彼女たちを感じる気がした。
「刀真様……安心していただけるかはわかりませんが、幕府は、扶桑の都の治安と扶桑を守りため、『扶桑守護職』を任命して治安維持にあたらせるそうですよ……」
 マホロバ大奥の御花実秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が、優しく声をかける。
「マホロバにとって『扶桑』はなくてはならないもの。私も協力させてください。刀真様の知っていることを、私にもお教えください」
 つかさは、決して『自分は扶桑の身代わりにきたのだ』とは言わなかった。
 そんなことを言えば、刀真は決して首を縦には振らないだろう。
「それは俺にもまだわからない……天子にきけば何かわかるかもしれないが」
「私も天子様には聞きたいことがあるのよ。貞継さんの身に何が起ったのか知りたいの」 大奥の御花実の一人水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)も扶桑まで遠出していた。
 貞継との子である緋莉(あかり)姫は、天津 麻羅(あまつ・まら)たちの預けている。
「なぜ、扶桑の墳花では、今いる多くの人が死に、新たに誕生する生命の循環が行われるの? 他の生命力を必要とする扶桑は、世界樹として不完全じゃないですか?」
 緋雨は、貞継がそこまでして止めなくてはならなかったことが気がかりでならない。
「墳花を、他のもので代用できないのかしら。昔は……どうだったの?」
「そうどす。二千五百年前の噴花で、天子様が扶桑とひとつとならはしたのは明白。しかし、そのとき何があったのか、私らには知る由もあらしまへん」
 橘 柚子(たちばな・ゆず)は、英霊安倍 晴明(あべの・せいめい)と悪魔天乙 貴人(てんおつ・きじん)扶桑を昼も夜も護りながら、天子や扶桑の噴花について調べていた。
 しかし、まだまともな手がかりは得られていない。
「コーラルネットワーク……」
 どことなく、ぼそりと声が響いた。
 葦原明倫館に転校したウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、マホロバ人天国 六花(あまくに・りっか)を連れている。
「刀鍛冶の工房仲間にもきいてまわったんだ!」と、六花。
「そして私は、考えたのです。シャンバラは女王が、マホロバは世界樹が加護している、カナンと同じだ。この違いは何なのだろうか、と」
 ウィングは彼女の言葉を継ぐ。
 彼は、国を救う手立ては、『国家神を世界樹から切り離し、コーラルネットワークで他の世界樹を相互扶助しつつ回復を待つしかないのではないか』、と言った。
「マホロバは世界樹だが国家神だ。今はその国家神の力が『天子』に宿っているのではないだろうか。そこをうまく切り離し、天子に力を持たせたまま、自らの肉体へ戻してやればいい。あとはコーラルネットワークでイルミンスールを繋がり、回復を待つと……」
 それは途方もなかったが、あながち間違いでもないように思えた。
 そのとき、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)が、天子に向かって問いただしていた。
「世界樹の中では、数千年ごとに『死』と『復活』を繰り替えすなんて聞いたことないですよ。どうして扶桑だけがそうなのか? 扶桑は、コーラルネットワーク内では、どんな存在なのかしら。イルミンスールは雑草と呼ばれてるみたいですけど……?」
 コトノハは世界で起っている事象から、扶桑の中の白花を救うには、アムリアナ女王の力を切りわけたように、闇の力を使うより他ないのではないかと思っていた。
 しかし、天子は答えられないのか、答えたくないのか、桜木は語ろうとしなかった。
「……答えてくれないなら、いいです。私が影龍(蒼天)の巫女である夜魅の力を使って、白花たちを助けます!」
 コトノハの背後から現れた蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)が、うつろな瞳でつぶやく。
「お姉ちゃんは……あたしたちよりマホロバ人を選んだんだ……お姉ちゃんを取り込んだ扶桑が……こんな目に遭わせた刀真が、憎い!」
 夜魅の、自分を選ばなかった白花への怒りが倒錯し、扶桑や刀真への憎しみへと変わった。
 彼女は扶桑に向けて、闇の炎を放つ。