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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第四章 枯れ往く桜2

「白花はん、まだ……私の声きこえてはる……?」
 木花 開耶(このはな・さくや)が扶桑の中から、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)を探す。
 彼女たちが桜の世界樹『扶桑』と一体化してして久しく、どこまでが扶桑でどこからが自分なのか、また他の巫女なのかも判断が付かなくなっていた。
 また、このごろはあまり『天子』と会話ができなくなっている。
「天子様の意識が、時折どこかへ行かれてる気がしますえ」
「ええ、開耶さん。私も……そう感じてました。それに、見えている外の景色が私の目を通してなのか、扶桑を通してなのか……。先ほどウィングさんが話していたコーラルネットワーク……なのかも、とも考えてます」
 白花は、もしかしたらコーラルネットワークを通じて、別の世界樹から外を見れるのではないかと思っていた。
「開耶さん、お願いがあります。私、試したいのです。扶桑が……天子様が長い長い間、マホロバの民を見てきたように……私たちもできないかと」
 ややっあって、開耶が答える。
「よろしおす、ほな私も。扶桑を通して記憶を探りたいのどす。記憶の共有が……二千五百年前の扶桑の噴花も、知ることがでけへんやろか」
 二人は互いをさぐり、探しあう。
 ようやく認識し、やがて深く深く……扶桑の奥へと沈んでいった。

◆◆◆


 何処までも続く砂と照りつける太陽。
 そして風。
 ――ここはカナン?

 大きな幹、枝、精霊の集う森。
 天空を浮遊する。
 ――イルミンスール?

 高く高く天を貫かんとする塔のような大樹。
 小さな『鬼』の子が、高官に付きそわれで昼寝をしている。
 ――ユグドラシルか?

 桜の樹がまさに噴花しようとしている。
 それを見上げる『鬼』の男。
 桜の花びらが舞っている。
「あれは貞継将軍……様!?」

 そのほかにも、かわるがわる景色が交差する。
 人の脳の容量を遥かに超える『記憶』と『情報』。


「ううん、違う。貞継様やない……あれは……」
 開耶は目の前に流され続ける情報を止めることができない。
「あれは二千五百年前の……扶桑の『記憶』なのですか!?」
 白花が叫び、ぐるぐると景色が舞う。
 目の前のパラノマが現実が嘘かもわからない。
 ただ、音と映像と意識が頭と体中を駆け回った。
 その時である。
「……ッ!」
 彼女たちは急に強烈な痛み感じ、意識が遠のいた。

◆◆◆


「コトノハ、夜魅……どんな理由があろうとも、テメエらがやったことは、俺や白花、マホロバ再生の為に力を尽くす皆を否定したことになるぞ!」
 桜の木の下で、樹月 刀真(きづき・とうま)が『黒い剣』を抜きながら、コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)蒼天の巫女 夜魅(そうてんのみこ・よみ)に襲い掛かっている。
 彼女たちは呆然と立ち尽くし、刀真に揺さぶられている。
 扶桑の樹は……焦げた根元がぱっくりと裂けていた。
「他の奴らが許しても、俺は、絶対に許さない……! テメラは俺の敵だ!!」
 怒りのあまり自制がきかなくなった刀真を、秋葉 つかさ(あきば・つかさ)ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が必死に押さえつけている。
「落ち着いてください、刀真様!」
「冷静なあなたが、一体どうしたんです!?」
 ウィングの手を振りほどきながら、刀真は声を振り絞って叫んだ。
「……聞こえなくなった、白花の声が。天子も……!」
「天子様の声が聞こえなくなったって……そんな」
 愕然としている水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)
「開耶、開耶!? 返事をしておくれやす!」
 橘 柚子(たちばな・ゆず)が何度も神子の名を呼びながら、樹の根元でうずくまっていた。