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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第五章 水波羅遊郭3

 暁津(あきつ)藩。
 マホロバの西にある藩のひとつである。
 暁津勤王党(あきつきんのうとう)という一派が藩内で一大勢力となり、比較的速い時期から『外国をうち払うべし』を掲げていた。
 瑞穂藩の天子拉致未遂事件や、扶桑の噴花の失敗などにより、それがより顕著となる。 しかし、藩内改革もままならず、日々、過激化する暁津勤王党の運動に、多くの同士達が決別、脱藩者を出しているのも事実である。


「今回の目的は、暁津藩の情勢を探ること。できることなら、対瑞穂藩のために協力してもらえないか、ということだわ」
 葦原明倫館ユーナ・キャンベル(ゆーな・きゃんべる)はまず、暁津勤王党から抜け、脱藩浪人となったものの捜索に出た。
 剣の花嫁シンシア・ハーレック(しんしあ・はーれっく)と英霊山田 朝右衛門(やまだ・あさえもん)が市中に出向く。
「気をつけてね。今、マホロバ内乱に付け込んで『天誅』と称して要人暗殺や商家への押し込み、強盗などを行う不逞浪士がいるそうよ。わたくしたちも、葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の命でここにいると知れたら、襲われるかもしれないわ」

 ユーナの助言に、シンシアはにっこり笑って見せた。
「大丈夫、俺と朝右衛門がいるんだ。情報があればユーナやハイナ総奉行に伝えるよ」
 二人は主に茶屋などを回り、志士や浪人が潜伏していそうな場所をあたった。
 時たますれ違う浅黄色の侍たちが気になったが、暁津藩士ではないだろう。
 シンシアたちは伊勢屋という店で主人に話を聞くことにした。
「さあ、ようしりまへんなあ。今、都中どこを向いてもお侍はんや。はよう昔のように平和で美しい扶桑の都になってほしいわ」
「都で何か起こってるのか?」と、シンシア。
「はあ……こないだの幕府軍と瑞穂藩の戦で、都が随分と焼かれましてなあ。そのとき、瑞穂藩に雇われとった大悪党が斬首されまして、その幽霊が現れるとか」
「……大悪党? 幽霊?」
「都のモンを恨んでおる。きっと、その呪いや。扶桑さんに取り込まれてる巫女さんも、いつまでもたはるかわからへん。そうなったらお終いや……!」
 どうやら扶桑の都の人は、この幽霊とやらを恐れているらしい。
 桜の世界樹『扶桑』は、マホロバ人にとって大きなよりどころでもある。
 『扶桑』が目の前で枯れゆくことで、迷信を信じてしまうくらい、人々の心にも影を落としているのだろう。

 一方、ユーナは単身、街中を歩いていた。
 都は路地が狭く、曲がり角でたまに人にぶつかりそうになる。
「すみません!」
「……いや、私も急いでいましたので」
 黒髪に緑色の目をしたマホロバ人の男――両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)は、人を追っているのか、ろくにユーナを見ずにいってしまった。
 そのときふと、暁津という言葉が彼女の耳に飛び込んできた。
「――梅谷さん、またこんなところで油売って。暁津藩士や見回組ががうろうろしてまっせ」
 梅谷と呼ばれた長身の男は、頭をかきながらふらふらと歩いている。
「いやあ、ご苦労なことぜよ。幕府ももうちっと、別なことに力使うたらいいのに。暁津も幕府や葦原を叩きすぎたらいかん。今、鬼鎧を使えるのはあそこだけじゃ。瑞穂はまあ、強すぎるがな……ははは!」
「あんさん、どっちの味方なんや。そやから、どこからも追われる身なんでっせ!」
 梅谷は引きずられながら路地裏へ入っていく。
 ユーナは続きを聞こうと彼らを追ったが、人ごみに巻かれてしまった。

卍卍卍


「暁津藩め……幕府から金と人材を出せといわれて、日和見を決め込んだか」
 扶桑の都を一望できる高台で、三道 六黒(みどう・むくろ)両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)と待ち合わていた。
 悪路の報告に六黒は鼻を鳴らす。
「幕府をたきつけているのは暁津勤王党です。暁津藩はそれに乗っかっているにすぎません。以前の瑞穂藩急進派における瑞穂藩のように……」
「暁津藩は担うべきは行動力。マホロバが手遅れになる前に、エリュシオン帝国と渡り合うだけの力をつけなくてはならん。そして、シャンバラも撥ね退ける。奴らには、その先駆けとなってもらわねば」
「ええ、帝国だけが外敵ではありません。
『シャンバラから来たのもが幅を利かし、将軍に取り入り、政に干渉している。我欲をほしいままにさせてよいのか。真に国を憂う勤王党藩士は、寒さに耐えているというのに……』
 こういってやったら、暁津勤王党の藩士は涙を流し、打ち震えてましたよ」
 六黒と悪路の狙いは、そうやって過激な影響力を及ぼす集団を操り、マホロバの先導を行うというのもだった。
 それが正しいとか悪だとかは、自分達や世の中が決めるものでもないと考えている。
 時代の流れを作り出すのは人であり、そのつくりだす側の人間でいられるかどうかが問題なのだ。
 六黒は西の方角を見て差し迫ってる龍騎士に思いを巡らす。
 そして黒いマントを払い、仮面の下から都を……遊郭を眺めた。
「あの龍騎士どもは何だ? 現実から逃れ、享楽に溺れるものは……?」
 それより程なく、暁津勤王党とともに行動する六黒たちの姿があった。
「……現示を会うのはまだまだ先よ……」