リアクション
卍卍卍 マホロバの文化には二つの色がある。 女色と男色である。 かねてより男色が特別異常なものと考えられおらず、それどころか、戦国の世では衆道(しゅどう)は武士の嗜みであるともいわれた。 男色とは一つの習いであり、二道を知ることが色の極みなのである。 そのような文化の中、長き天下泰平の世の元で密かに発達したのが、客を相手に男色を売った男娼――影蝋(かげろう)であった。 「……といっても、さすがに堂々と影蝋茶屋へ入っていく人は少ないようですね」 アルマ・ヴィルシュテッター(あるま・う゛ぃるしゅてったー)も振袖で顔を覆いながら、見世裏に出る。 ラルクとは遊女屋の外で待ち合わせてやって来た。 「ははん、医者に変装した僧侶ばかりじゃねえか。なまぐさ坊主が」 隠れた客は坊主頭を頭巾で覆ってはいたが、ラルクはおおよそ見当が付いた。 隣でアルマも頷いている。 「私も遊女屋で雛妓(ひよこ)見習いで働いていたら、医者に扮したお坊さんを幾人も見かけましたよ。僧侶では女犯の罪は犯せないそうですから」 「男はいいのかよ。医者ならいいのかよ!」 マホロバの医者に坊主頭が多いのは、僧侶が医療に従事していた名残りらしい。 「おーい、待たせたな。ひとっ風呂浴びてたからよ。すまねえ」 頭に手ぬぐいを巻いて、顔を上気させてやってきたのは秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)である。 彼はここで影蝋となって働いていた。 どうやら一戦交えた後らしい。 盛り上がった方の筋肉が輝いている。 『闘神の書』は女形花京院 秋羽(かきょういん・あきは)をつれていた。 「ここで知り合ったんだ。女みたいに綺麗だろ。彼もごしきについて調べてるらしい」 「まさか……てめえら、真昼間から……?」と、ごくりと息を飲むラルク。 「違う……お客さんからごしきの情報を得ために、影蝋のフリをしてるだ。体を売る気はない……」 秋羽は色っぽく、やんわりと否定した。 彼の女形としてのクセだ。 『闘神の書』が残念がる。 「な、もったいねえだろ。今時、女でもこの色気は出せねえってのに。で、肝心の話だ。ごしきや遊郭の事件に付いて、客にアタリを付けてみたら、やな噂きいてよお」。 「ああ、お客さんに聞いたところ、ごしきが現れた時期と遊女の死体が上がりはじめた頃が同じみたいだな。偶然とは思えない」と、秋羽。 「ごしきに直接確かめる術があるといいのだが」 『闘神の書』は腕を組んで黙り込んだ。 ラルクが尋ねる。 「どうした闘神、不満そうだな」 「ああ、この国の男はどうも細っこくてな。肉とかあまり食わねえらしいしな」 どうやら『闘神の書』は、ごしきよりも別のことが気になるようだ。 秋羽が控えめに相槌を打っている。 「……そういえば、肉料理を扱ってる店なんて殆ど見かけないな」 「だろう!? やっぱりこう筋肉のぶつかり合いがねえと。今度からプロテイン持参だな。あんたもどうだ? ハハハ!!」 『闘神の書』が秋羽の筋肉を触ろうとしたが、すぐさま拒否されていた。 「そこは触るな……触るなといってるのに……あ……」 秋羽が護身用に仕掛けておいた罠(トラッパ―)が作動した。 『闘神の書』の頭上に、タライが急降下してくる。 |
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