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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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まほろば遊郭譚 第一回/全四回

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第一章 東雲遊郭5

 東雲遊郭は三丁四方を黒墨どぶに囲われており、一つの街になっている。
 遊女屋や茶屋以外にも、生活に必要なものが一通りそろうだけの多くの店が連なった。 時に商人が商売にやってくることもあった。


「それは今年流行の柄です。よくお似合いになるかと思いますよ」
 久我内 椋(くがうち・りょう)が広げる色とりどりの反物を、遊女達が食い入るように眺めている。
 流行に関しては彼女達は敏感だ。
 遊女の姿を街娘が真似るほど、彼女達の髪型や煌びやかな衣装は女性の憧れでもある。
胡蝶(てふ)殿ももうすぐお披露目なんですってね。ぜひうちで、『久我内屋』で内掛けを作ってくださるといいのですが」
 椋はティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)を姿を見つけた。
 胡蝶こと、ティファニーはあくびをしている。
「まったくこの子は緊張感がなくてね。見た目はいいんだから、もう少し色気があればいいんだが、暁仄はちゃんと仕込んでくれてるんだろうねえ」
 内所では楼主の海蜘がキセルをふかしながら愚痴を言っている。
 暁仄は反物を手に取っていた。
「胡蝶は頑張ってるよ。ようやっと外八文字が踏めるようになったからね。色気があればいいというのには同意だが……椋さん、この反物あたしにちょうだい」
「さすがお目が高いです、暁仄殿。ですがこれは……胡蝶さんには少し大人っぽいですね」
「アタシのだからいいの。胡蝶のは初客にださせるよ。それよりもさ、二階にいきなよ。あの妓、椋さんを待ってるよ。アンタも隅に置けない男だね、まあいい男だしね」
 椋はちょっと照れたフリをして、礼儀正しくその場を辞すと、ひとりで二回の遊女部屋に入っていった。
 部屋には在川 聡子(ありかわ・さとこ)が座っている。
 彼女は『桔梗』という名で遊女として売られてきた。
 椋の姿をみて彼女の顔がぱっと明るくなった。
「聡子、大丈夫か」
「椋様……大丈夫です。私は貴方のためにここに在るのですから」
 そういっても慣れない仕事だ。彼女にも疲労が伺える。
「俺が『悪役商会』と繋がってる事は、ここの者は知らないな?」
「はい。そして、瑞穂藩士日数谷 現示(ひかずや・げんじ)の情報は得られませんでした。ここには居ないのかもしれません」
「それでもいい。ここに居なければ、別に居るということだからな」
「椋様のほうは?」
「こちらも首尾よくいっている。竜胆屋は久我内屋の呉服を贔屓にしてくれそうだよ。東雲遊郭は幕府公認だし、そのうち要人と接触できるかもしれないな」
 椋はこの先『どちらについたらよいか』を計っていた。
 マホロバの先を考えると、商人としても、うかうかとしておれない。
「ともかく何かあったら伝えてくれ。悪役商会が情報を高く買い取ってくれるかもしれない」
 そういったところで、下のほうでなにやら騒ぎが聞こえた。
 ティファニーについてもめているようだった。