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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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続・冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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第3章 世界樹【3】


 菩提樹前『阿我主帝亜神社』
 パラ実チックな名に反して、お正月を思わせる和風BGMが流れ、おごそかな空気が社内に漂う。
 社務所ではお守りや破魔矢、祝い箸にお札、木札、絵馬、お御籤などベーシックなものが押さえられ。
 また、関連グッズの巫女さんトリニティ人形や巫女さんパルメーラ人形などのレア人形シリーズも販売されている。
「はいはい、皆そろったかなー?」
 腹話術少女橘 カナ(たちばな・かな)が巫女装束でなにやらスーパーモンキーズに指示を出している。
 と、その片手に装着された第二のカナたる市松風人形『福ちゃん』がカタカタ語りはじめた。
『ワカリヤスク、鹿次郎組ハ巫女装束ニ鹿角、ミミ組ハ巫女装束ニ兎耳、雪サン組ハ巫女装束ニ雪耳ノ格好スルノヨ』
「あたしの組はツインテールね。それぞれの指示に従って、神社を完成させるのよー」
 神社は九割九分が完成、あとは仕上げを残すのみだ。
 カナの担当はパワースポットの強化である。女子の参拝客を望むにはそれはまさに必須事項だった。
 まぁもっとも、小石の代わりに『エアチョコ』を敷き詰めると言う……いささかイカレた方法だったが。
「やっぱり女子は甘いものが好きだもんねー」
『ア、ナンカ猿ドモガ手招キシテルワ。任セタ鳥居ノでざいんガ出来タンジャナイカシラ?』
「どれどれ……はうあっ!!
 とにかく『パワーを貰えるデザイン』とモンキーズに注文したのだが……その目に飛び込んだ光景に絶句した。
 鳥居自体は普通のデザインなのだが、薄気味悪い鴉が群がり、あとなんか腐ったような臭いがする。
「パワーが出るように骨付きカルビで鳥居を作ったウキ!」とモンキーズは嬉々として言った。
「……普通のにしといて」
 さてその頃。兎野 ミミ(うさぎの・みみ)がどうしてるかと言えば、神楽殿の建設指揮を執っていた。
 360度から観覧出来る大舞台。こんなステージなら自分も立ってみたい……と彼女は思った。
「ここでパフォーマンスを撮影してCM放送したらどうなるッスかねぇ〜。あ、もしくは完成祝賀会でステージに立つのも悪くないッス。それがキッカケでスカウトとかされて……はわわ、大変ッス。あ、でも自分はカナさんのお世話をしなければならないッス。残念だけど、そのお話はお断りするッス。普通の女の子に戻るッス……」
 ここまで全部妄想、ここからも全部妄想である。
 そんなナチュラルハイトリップ状態の彼女を横目に、カナと福ちゃんは神楽殿の見学に来ていた。
 ちょうど坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)が巫女さん達に神楽舞のレクチャーをしているところである。
「違うでござる! 腕はこうピンと伸ばして……ああもう、腰が入ってないでござるよ!」
 と指導と称して巫女さんにペタペタ。そのたびに集団でドツキ回される鹿次郎。
「や、やめるでござる! 拙者、不純な気持ちはなにも、ええ、なにも!
「最近、生傷が多いと思ったら……こんなことしてたんだ。と言うか、あんなことしてたら巫女さん辞めちゃうよ!」
『訴エラレタラ破滅ネ!』
 はぁとため息。もっとも巫女さんを愛するものが、もっとも巫女さんにウザがられる。人生とは皮肉なものだ。
 カナは「こらー!」と中に入って、その場に線を引き廊下と書くと、鹿次郎に立っているよう命令した。
 そして、こちらは参道。
 各種カレーの露店が並ぶ通りに、冥王【ガネーシャ・マハラシュトラ】の姿があった。
 露店の監督官である姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)は巫女装束で接待中である。
「さあさ、こちらのカレーうどんは絶品ですわ。神社ですから、和風カレーを今回を多く取り揃えてますの」
「ふむ……なかなか良い趣向だ。褒めて使わす」
「パラミタでもカレーはラーメンと並ぶ食文化、この機会にそのカレー文化を堪能出来る様にと考えておりますわ」
「それは良い心がけだ。が……あそこの猿どもはなんだ?」
「はい?」
 視線の先では、岡田 以蔵(おかだ・いぞう)がモンキーズに『バナナの叩き売り』を仕込んでいた。
 なぜか皆一様に『わたくし、生まれも育ちも、葛飾柴又です』な行商風の格好をしていたがなぜかは知らない。
「さて、ここに取り出した品物は、一流フルーツ店で買えば500ゴルダはくだらない代物。しかし今日は特別に300ゴルダ、どうだ300ゴルダ。なに、高い。ええい、もってけドロボウ、100ゴルダだ、ちきしょうめ!」
 そう実演して見せながら、その一方でお神酒をガブガブ飲んでいる以蔵。
 一見するとヨッパライがただふざけてるように見えなくもない……と、以蔵は突然立ち上がった。
 しょんべんしょんべんと呪文のように繰り返し菩提樹に向かう。
おう、おんしらもあそこで用を足すといいがじゃ。なんや可愛い娘っ子にオイタする感じがするき……
「ダアホッ!」
 雪の投げたラスター菜箸が以蔵の後頭部を射止め、ぴゅーと噴水のように血をあげて彼は倒れた。
 しかし、これは雪さんの優しさだ。あと一瞬対応が遅れてたらガネーシャにバラバラにされてるところだった。
 神聖なカレーを扱う場での下品千万な振る舞いは冥王的にNGである。
「道を空けてくれ、怪我人が通る、道を空けてくれ!」
 とそこに慌ただしく山中 鹿之助(やまなか・しかのすけ)が駆け込んで来た。
 そのあとに続くのは、パルメーラを抱えたラルクと天音。鹿之助の手引きでほろびの森からやって来たらしい。
 とにかく菩提樹の前に持っていくのが先決。そう考え、もっとも菩提樹に近い社へ二人を案内する。
「今のパルメーラちゃん?」とカナ。「確かパルメーラちゃんって、ウゲンって子のために……」
『惚レタ男ダカラッテ、命懸ケスギヨネ』
 ちょっと違うと思う……。
 それはさておき、社に運び込まれたパルメーラは祭壇の上に寝かせられた。
 社の代表たる鹿次郎は宮司装束であらわれ、神聖な儀式を執り行うための準備を進めていく。
 いつになく真剣な面持ちだった。横たわる彼女に巫女装束を着せ、アガスティアに二礼・ニ拍手・一礼をする。
「言っておくが、あくまで儀式のため!これは決して私利私欲ではござらん!彼女の為でござる!」
「あ、ああ……わかってる。早く助けてやってくれ」
「かしこまりでござる」
 とは言え、どう考えてもそう簡単に煩悩を断てる人物ではないだろう。
 あらためてパルメーラを見ると、イケナイ衝動に取り憑かれガクガクと禁断症状の震えに襲われた。
「せ、拙者と結婚して下さい!」
 するりと宮司装束を脱皮し、祭壇にダイブする鹿次郎。
 しかし、次の瞬間ラルクの丸太のような蹴りによって、社外におもくそ吹き飛ばされた。
「そんなことしてる場合かっ!!」と仕置きに行くラルク。
 肩をすくめ、天音はパルメーラの傍らに腰を下ろすと、彼女はうっすらと目を開けた。
「ねぇ訊いてもいいかな……。まだウゲンのことが気になるかい? 彼の起こした事の顛末を知りたいかい?」
「……ううん。もうウゲンくんは……きっとあたしじゃ友達にはなれないし……」
「じゃあアクリトのことは?」
「あたし達はちゃんとしたパートナーじゃなかった……。お互い利用してるだけだったから……」
「またパートナーに戻りたいと思う?」
「うん、あの人が必要としてくれるなら……」
「そう。ありがとう」
 天音はパルメーラの頭を優しく撫でる。
 と、鹿次郎をしばき倒したラルクが戻って来て、パルメーラを抱きかかえた。
「アガスティア、お願いだ! パルメーラを助けてくれ! こいつは、とんでもない事をしたかもしれねぇ。だが、償う事はできる……他の奴等とも歩めるはずなんだ! だから、頼む! どうか、チャンスをくれ! 大切な友達なんだ!」
 その叫びに呼応して、アガスティアが赤黒く光輝いた。
 パルメーラが浮かび上がったかと思うと、その幹に空洞があらわれ中に吸い込まれていった。
 一部始終を映像に納めようとカメラを回すブルーズも息を飲む光景だった。
 そして、不意に頭の中に不思議な声が聞こえてきた。
パルメーラ……眠ル。アガスティア、ヒトツニナル。パルメーラ……眠ル
「な、なんだ……? ぱ、パルメーラはどうなったんだ……?」
 その問いに答えたのは、様子を見にカレーうどん片手にやってきたガネーシャだった。
「本体に戻り再生のための眠りについたのだろう。どれほど眠ることになるのかは知らぬが、な……」
「ま、待ってくれ。じゃあパルメーラは現世に戻れないのか!?」
「時が満ちればいづれ蘇る。散った花に再びつぼみが現れるように。命があっただけでもありがたく思うといい」
 ラルクは拳を握りしめ、アガスティアに触れた。
「パルメーラ、早く戻ってこい。オレはずっと待ってるからな。また、ここにも遊びに来るし……」
「それは不可能だ」
「!?」
「おまえ達が生死の理(ことわり)を破ってここにいられるのは何故だか忘れたのか?」
パルメーラさんの暴走が原因……だから、トリニティさんが理を歪めることになった……?
 天音の言葉にガネーシャは頷く。
目的は今、達せられた。もはや理を歪める理由なし。境界は閉じる……なにごともなく元通りに、な