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リアクション
第五章 まだ逢えぬキミたちへ2
七龍騎士を人々が囲んでいた。
「なんなの、あんなの着ちゃって。死ぬ気だって? ふざけてんの?」
桐生 円(きりゅう・まどか)はオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)と共に憤慨していた。
扶桑の都からここまで正識を追ってきたが、芝居じみていると感じた。
「そんなことして……チカちゃんや現示くんがそれ程悲しむと思ってんの? そんなもの、ボクが燃やしてやるから」
「どけ。この先の……鬼に用がある。あの城へ行く」
正識の傍らには、三道 六黒(みどう・むくろ)が居た。
「誰も、この男の歩を止めることはできぬ」
六黒は、正識が城に進む道を援護する。
円が両腕から炎を放った。
「だめ、行かせないよ!」
正識は槍で、六黒は金剛杵で跳ね飛ばしながら、一歩一歩前に進んだ。
「貴方はどれほどご存知なのです? 貴方をかばい、瀕死の重傷を負った日数谷 現示(ひかずや・げんじ)や、瑞穂藩のために己を犠牲にしようとした瑞穂睦姫(みずほの・ちかひめ)のことを。将軍の子を生むためにどれほど苦しんだと思ってるんです……?」
オリヴィアの声が霧の中から聞こえた。
正識の隙を伺っているようだ。
「今まで自分の正しさしか、見えてらっしゃらないから、目の前のことが見えてないんじゃないですか!」
「私が知らなかったとでも言うのか。知っていた、認めてもいた。だが、それまでだ。結局は、事を成し遂げられなかった。それだけじゃないか」
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が、うぅ〜と唸っていた。
「……あの槍を止めなきゃ……あのおじさんも何とかしないと」
ミネルバは六黒を警戒しながら間合いを詰めている。
「正識といったな、睦姫の死を偽装させたのは俺だ。だから彼女を責めるな」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、あえて挑発するように大声を上げた。
「それに現示もな。主君に背くなんて武士としては決して許されないことだろう。奴の意を真に推し量ることは俺にはできないが、瑞穂の行く末を想ってのことだ。違わないか?」
正識は答えず、陽一を睨みつけている。
ようやく正識の頭の中で、睦姫がらみの線がつながったらしい。
「そうか。キミがたぶらかせたのか。私も睦は死んだと、唯一残された瑞穂の子が、彼女の代わりかと思った。だが、それも違った。偽りだった。誰も、何も……嘘と偽りばかりだ……瑞穂も私も、裏切ったのだ!」
正識は怒りを抑えられず、聖十文字槍(せいじゅうもんじそう)を縦に構えると、何やら呪文を唱えた。
周囲に電気のような火花が飛び始める。
「マイロード!あの時と同じですわ。最期まで詠唱させたら危険です!」
魔道書ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が警告を発した。
魔鎧ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)を纏った牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、直ちに、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)に合図を送る。
機晶姫のシーマは防御壁を張り、ぽつりといった。
「ボクらも命をかけてるんだよ。そう簡単にはやられない……」
「七龍騎士……自らの命を賭けにして、仕掛けてきたのは貴方です。そして、その死を望む者も居る。私が殺そうが殺されようが、私には関係ないのですよ。ただ……」
アルコリアはラズンの力で魔力を増幅させ、ナコトとシーマは瞬時に回復を試みる。
4人の共同作戦で正識の詠唱に耐えていた。
「『正しき行い』で踏み潰された者は、『正しく無かった』のでしょうか?!」
光が満ち、周囲がはじけ飛んだ。
正識から繰り出された衝撃波は、城下の建物を次々に吹き飛ばしていた。
まばゆさに目が開けられず、座り込むものも居る。
「お兄ちゃん……!」
酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は傷だらけとなった陽一の治癒を試みていた。
「それがテメエの正体だよ、正識。白く、純粋で……虚無だ!」
そのとき、樹月 刀真(きづき・とうま)は、その光を割くように現れた。
「月夜、剣を」
「はい」
刀真が右手を差し出すと、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が黒い剣を握らせた。
左手には封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)が居る。
「刀真さん……」
白花は聞き取れないほその小さな声で話した。
刀真は軽くうなづいただけで、剣を持って正識に対峙した。
「キミはあの時の……噴花で死ななかったのか。運がいいな」と正識。
刀真は両手を広げる。
「俺の右手の夜の月、左手の白き花、そして背には九尾の加護が付いている。こいつらと未来へ進むために、簡単には死なない。ここで終わる覚悟と決めているテメエには、負けない。絶対に勝つ」
「そうだ、刀真。あの約束を忘れてないだろうな。この戦いが終ったら我を好きに弄ぶと良い……」
刀真の背に立つ赤い唇の玉藻 前(たまもの・まえ)を見て、正識はせせら笑った。
「キミは、女の力を借りなくては前に進めないのか。悪いがそれでは、私には勝てないよ」
「なんとでも言えよ。俺は俺の我を通す、そう決めている。こいつらはそのことを理解っている。何者にも染められず、何者にも染まらぬが故の黒――それが俺だ!」
刀真が斬りつけると同時に、アルコリアたちも動く。
円と陽一が攻撃を繰り出すが、正識はそれらを跳ね返していた。
「その強さ……惜しいですねぇ!」
アルコリアが本当に悔しそうに言う。
「それを別に活かせばいいものを……でも、私は否定しませんよ。望みを持った瞬間、否定しなくてはいけない望みが出てくる。故に、如何に自分を削ぎ、無くすか。私の戦いの理由はそれです!」
「己を無くして戦うなどただの戦争狂の方便にすぎん。私は、お前の罪を許すつもりはない」
「貴方に許しを請う理由も必要もありませんけどね!」
アルコリアが正識の心臓めがけて真空波を放った。
いくら神と呼ばれようとも、心臓なら鍛えることもできないだろう、と彼女は踏んでいた。
しかも正識は、黄金天秤(おうごんてんびん)の使用で、心臓を蝕まれている。
「……クッ。ここでか……もう少しもってくれ」
正識が心臓を手で抑える。
鋭い痛みが彼の全身を駆け巡った。
「これ以上マホロバで好きにはさせない。テメエは俺がここで討つ!」
刀真が黒剣を構えた。
正識の額から汗が流れ落ちた。
顔はますます青ざめている。
目前にマホロバ城の城門が控えていた。
六黒が身構える。
幕府兵士が一斉に守備を固めていた。
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