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リアクション
第五章 まだ逢えぬキミたちへ3
明仄は七刀 切(しちとう・きり) やイランダ・テューダー(いらんだ・てゅーだー)たちに外に連れだされていた。
口では厳しいことを言ったルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)も、明仄の身を案じて側にいる。
しかし、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に背負われた遊女は、すでに体力の限界のようだった。
咳をしながら、呼吸するのも辛そうだ。
トライブの背から降りると、よろよろと歩き出す。
「明仄さん大丈夫?……無理いってごめんね」
東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)が心配そうに覗き込んだ。
切ない声を要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)が出す。
「扶桑の噴花では、現世であえなくなった人と来世で逢うことができる……素敵な話かもしれませんが、できれば現世で想いを遂げてほしいです」
彼女に残された時間は少ないかもしれない。
だからこそ、ここで明仄を救ってやることができたなら……と、要は思った。
「正識さんに逢ってください。だから今でしか、だめなんです」
だが、秋日子が前方を指さしながら叫ぶ。
「いけない! 正識さんを殺そうとしている人たちが……たくさん!ダメ……どうしても逢わせたい人がいるの! お願い、それまでこの人に手をださないで!」
マホロバ城門を巡って攻守が続いている。
地面には幕府の刀を持った侍や兵士たちが死屍累々と横たわっていた。
秋日子は目を背けながらも、懇願する。
「正識さん、明仄さんに逢ってあげて! ここまで来てるの!」
「こんなときにまだ……」
正識は、戦いの最中に明仄たちの姿を見つけて舌打ちした。
なぜ、こうまでして、この人々は人の想いとか感情といった一過性のものを、まるで信仰するかのように重要視するのか、彼には理解できなかった。
彼らがマホロバを護りたいというのが、そういった感情的なものに支配されているように思えた。
「私は戦うために来たのだ。その気のないものは……去れ」
正識は槍を不振り上げ、渾身の力を放った。
七龍騎士の力は衰えもせず、その衝撃で周囲をなぎ倒していく。
だが、人々は傷を負い、倒されながらも、何度でも向かってきた。
正識の槍を持つ手が震えた。
「なぜだ……なぜ……私は間違ってなどない!」
心臓が早鐘を打つ。
視界が霞んでいた。
「何よりも……誰よりも、マホロバのことを考えている」
正識が槍を投げ捨て、両腕を広げた。
「私が正しければ、此処で果てる筈はない……!」
「正識、ダメだよ! 自分の命で運命を試そうとするなんて!」
桐生 円(きりゅう・まどか)が悲鳴を上げた。
秋日子とミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が正識を助けようと飛び出した。
しかし、七龍騎士を仕留めようと一斉に刃が向けられる。
樹月 刀真(きづき・とうま)がタイミングを見計らい、身体を回転させて黒コートをはためかせながら斬りかかった。
「これで終わりにする……正識!」
七龍騎士は受け身も取らず、体ごと受け止めている。
刀真は剣を引き抜き、後ずさった。
彼の顔には鮮血が飛んでいる。
「……なんだと……」
「刀真、避けて! 花びらがそこに……!」
戦いを記録していた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、それに気がついた。
いつも間にか血飛沫に混じって、淡紅色の花弁が彼らの頭上に降りかかっていた。
「正識様……!」
明仄のどこにそんな力があったのか。
彼女は、自ら桜の渦の中に飛び込んでいく。
「明仄姐サン!」
日下部 社(くさかべ・やしろ)に連れられその現場を目の当たりにしたティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)が、桜の花びらに分け入る。
社は必死に彼女の腕ををつかんでいた。
「アカン……ティファニーちゃんまで連れてかれてまう! 手を、放すんや!」
「姐サン!」
ティファニーが手を伸ばし、明仄の手に何かを握らせる。
指先に小さく硬いものが触れた。
「姐サンはティファニーにとって本当の姉さんデス! 家族デス! ファミリーですよ!」
ティファニーの声が遠くなる。
他の人の自分を呼ぶ声も聞こえなくなる。
「……明仄……よく、頑張ったな……」
どこからともなく、心地良い声だけが彼女の心をとらえていた。
明仄は微笑むと、桜の花びらと共に消えた。
・
・
・
「頃合いか……それとも、滅びか」
三道 六黒(みどう・むくろ)が低く呟く。
彼は金剛杵を放り出し、黒衣を被って桜の花びらに突き進んだ。
六黒にとっても一か八かの賭けである。
敗れたときは――その運命に従えば良いだけだ。
卍卍卍
鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は天守閣に登ってその様子を見ていた。
マホロバ城の門が破壊され、幕臣をはじめ兵士たちが血相を変えて火消しに回っている。
表のみならず、大奥の女たちも逃げ惑っている。
「七龍騎士を……止めたのか。鬼の力も借りずに」
腕の中の幼将軍に語りかける。
「……ナラカの淵をさまよいながらマホロバをみていた。己の弱さから家臣や女官を傷つけたのだ。決して、極楽浄土など有りえない。お前にこんな思いはさせたくない。これからも鬼の血で罪を犯さざるを得ないなら、全て父のせいにすれば良い」
貞継は両手に白継(しろつぐ)を抱き、天に向かって掲げた。
桜の花びら覆われた暗雲が晴れゆく。
空から光がこぼれた。
「鬼鎧よ……今一度、力をあわせ共に戦ってくれ」
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