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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【アキバ@カンテミール:2】




「そう簡単にはボロは出さぬか……」

 ドミトリエの協力で、式神が撮影していた映像をライブで眺めていたオットーは息をついた。理王のサイトで流してもらっていたが、多少の腹黒さが見え隠れした程度では、支持率に特に変動はないようだ。
「意外に人気があるんだな……」
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)が呟くように言った。
「アイドルとか、余り詳しくないんだけど……そんなに有名なのか?」
 その疑問には『微妙なのだぜ』とエカテリーナは答えた。
『地球での知名度は、実際そう高くないのだぜ』
 だがその反面、エリュシオン国内では急に人気が出てきているらしい。その急激さには気になるところだが、今は余りそちらを気にしている余裕はなさそうだ。
「動くみたいだぜ」
 町中の監視カメラの映像をチェックしていた又吉からテレパシーを受け、武尊が告げる。

 ティアラの龍騎士率いる親衛隊が、侵攻を開始したのだ。



 エカテリーナ、ティアラ両陣営は、それぞれ西と東に分かれている。
 地理に関しては公式データベースに存在しているため、互いに有利な点はなかったが、機晶技術に長けたドミトリエに、オンラインゲームが基礎とは言え、その手のネットワークに抜群に強いエカテリーナの陣営の方が、情報獲得と言う面では一歩リードしていると言って良い。隅々まで網羅、とはいかないが、街中のいたるところに配置された監視カメラによって凡その相手の侵攻具合を補足出来るためだ。
 その情報に従って、最初に飛び出したのは東側、ティアラ陣営に対して正面。先陣を切るのはバルムングを駆る猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)だ。だが、その勢いとは裏腹に、勇平はあまり乗り気ではないようだった。
「しかし、なんだな。戦う目的がアキバ対シブヤって……気が抜けちまうよなあ」
 はあ、と思わず溜息を吐き出したのに、セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)「何を言うんですか」と声を大にした。
「マスター、アキバを守ることは私たちの使命です」
 熱意の篭った言葉に、勇平は更にがっくりと肩を落とした。そもそも、勇平がこの戦闘に参加したのは、友人たちがアキバを守ってくれと頼み込んできたから、という消極的な理由だ。だというのに、セイファーの方は何を勘違いしたのか、世界でも有数の電気街であり、ロボットたちの聖域だとか、かなり片寄った知識のおかげで他人事とは感じられないらしく、この熱の上がりようだ。
「油断は出来ませんよ、マスター。数はあちらの方が上ですからね」
 その言葉の通り、ティアラ陣営は、数で一気に押し通るつもりなのか、正面は親衛隊地上部隊が直進し、その両脇をイコンが守っている、といった様子だ。まずは外側から崩すか、と、バルムンクは攻撃を開始した。


「BMI起動」
「了解。BIM起動を確認。80%前後を維持します」
 一方、南西から侵攻を開始したのは、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の駆るゴスホークと、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)リース・バーロット(りーす・ばーろっと)の駆る龍神丸だ。このルートを選んだ理由は、都市構造上、影の多い立地を利用するためだが、同時に、正面を迂回するように本丸を狙ってきたティアラのイコン部隊を迎え撃つ意味もある。
『上空の制空権は、まだ龍騎士にあるのだぜ』
「了解。上空の警戒を続行します」
 リースが答えると、互いに合図を交わして、ゴスホークは地面を蹴り、手近なビルの屋上へと着地した。中空、地上の両面から対応するためだ。立体マップからでも良く判るが、局地的に発展を遂げた町並みは道も狭く、Mサイズ以上のイコンにとっては殆ど一方通行で、見通しも悪い。まばらな高さなビル群も障害のひとつだが、それは相手にとっても同じことだ。慎重に侵攻していく二機は、十字路に差し掛かると足を止め、機体をビルの陰へと隠した。
「身を乗り出せば補足される可能性が高い」
 上から確認するのが、こういった状況では最も手っ取り早いが、互いに警戒している中で身を乗り出すのは、蜂の巣にしてくれといっているようなものだ。真司からの通信に「了解、こちらで確認を取る」と応じると、小次郎は手持ちのグレネードを十字路へと投げ込んだ。
 一瞬、視界を染める閃光の後に、反射的にか続いた相手方からの弾幕に、龍神丸が敵位置を知らせる合図を送ると、ビルの屋上を飛び渡ったゴスホークは、そのポイントへと強襲した。
 グレネードの飛び込んできた方向へ意識がいっていた所への、上方向からの攻撃だ。すぐさま身構えたが、遅い。プラズマライフルの弾雨が降り注ぎ、着地と同時にブレードがヴァラヌス一機を屠っていった。降って沸いたような敵襲に、相手部隊は散開して迎え撃とうと動いたが、その瞬間、今度はその背後からの攻撃が彼らに浴びせられた。ゴスホークに意識が集まっている間に、龍神丸が接近していたのだ。そのショットガンの斉射を喰らって、沈黙する味方機によって退路を塞がれている間に、ゴスホークは残る機体を屠っていったのだった。
「動きの割りに、連携が悪いですね。寄せ集め、といった印象です」
 ヴェルリアの分析に、小次郎は眉を寄せた。
「急遽集められたせいか、でなければ金にものを言わせたか……?」
 裏を取りたいところだったが、それを考えるのは後回し、と小次郎は機体を通路内へと寄せた。先行する部隊が沈黙したため、後続の部隊が接近してきているのだ。敵影を認めた瞬間に撃ってくる敵機に、真司もビルの防壁をバリア代わりに利用して弾幕をやり過ごしながら、両機は先程と同じように、前方に引きつけておいての奇襲攻撃で、部隊を撃破していった。
 その調子で、ティアラ陣営の本丸へと快進撃が続くかと思われた、が。
「そう簡単にゃあ行かせねぇぜ」
 撃破された機体の上げる煙を目印に、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)シメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が乗るデカログス・スフィアがやや後方の上空から砲撃を仕掛けてきたのだ。上空を警戒していた小次郎との射線が行き交う激しい銃撃戦のあと、武器を切り替えたデカログスが、再度その砲門を開いて仕掛けてくる。二機とも素早く建物の影を利用してそれを防ぎつつ迎撃しているが、そもそも距離もある上、空中と地上では、いかにビルが密集しているとは言え、射程的な有利不利がある。勿論それを使わないはずがなく、デカログスが角度を変えて、再び両機に照準を定めた、その時だ。
「させませんよッ☆」
 佐那のドリュヴニーがファスキナートルに変形し、ビルの隙間を縫って、両者の間に割り込むように立ちはだかったのだ。その飛び込んだ勢いそのまま、ファスキナートルのウィッチクラフトピストルが火を噴く。
「ちっ、俺様の邪魔をすんじゃねえ!」
 この戦いの戦功如何で、勝利した場合にティアラの傍につけるかどうかがかかっているのである。応じてデカログスの砲も火を噴き、激しい空中戦になった、が。
「……! 右舷より、高エネルギー反応ですわ!」
 エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が警告し、咄嗟に佐那が迂回した。その場所を走り抜けていったのは、アウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)カタストローフェが放ったバスターレールガンの一撃だ。
 指名手配犯であるアウリンノールは、出来るだけ表に出ないよう後方で狙撃支援に徹しているのだ。事前に調査した狙撃ポイントに潜んでいるため、監視カメラにも捕らえられない強みに加え、更に擬態を施した機体は、弾道を逆算しても位置が特定し辛い。
「誤差、修正。周囲に接近機影なし。第二射、行けます」
 サブパイロットのアプトム・ネルドリック(あぷとむ・ねるどりっく)が告げるのに、アウリンノールはスコープを覗き込んだ。ビル群は障害である反面、相手の移動も狭める。ゲドーの攻撃をかわすために、軌道が絞られたファスキナートルの装甲を、カタストローフェの狙撃が舐めていく。
「左翼被弾。ダメージが30%を越えますわ」
 エレナが僅かに緊迫した声を上げた、その時だ。ファスキナートルの後方から、別の一撃が音を立てて通り過ぎた。夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)バロウズからの火力支援だ。

 彼らの参戦によって、カンテミールの中空は、俄かに砲撃戦の様相となったのだった。


 

「しかし、馬鹿らしい戦いだな」
 エカテリーナ陣営最後方、その巨大さ故に市街を飛びまわれないバロウズで、前線への火力支援を行いながら、そのコクピットの甚五郎は息をついた。同じく機体の情報管制を行っていたホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)も「そうですねぇ」と同意する。
「こう言うと悪いですけど、街の未来的には、はっきり言ってどーでもいい理由ですよねー」
「本当、なんてアホな戦いなんでしょう」
 阿部 勇(あべ・いさむ)も言うのにブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)も同じく頷いたが、対して地上側前線のドミトリエは「そうだな」とその通信に紛れたぼやき達に苦笑した。
「”どんな理由なら戦争として正しいのか”ってのを論じるのと同じぐらい、どうでもいいことさ」
 皮肉に言ったドミトリエに、接近してくる親衛隊を光術で目くらましの牽制をかけながら、布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)が「それなら」と口を開いた。
「ドミトリエさんは、どう思ってるの?」
 その言葉にちょっと首を傾げたドミトリエに、佳奈子は続ける。
「どうでもいいって言ってたけど、どうなってもいい、ってことじゃないんだよね?」
 その言葉に、ドミトリエは何とも言えない顔で「言葉の通りだ」と肩を竦めた。
「ここがアキバだろうがシブヤになろうが、正直どうでもいい。町がどう変わろうと、どう変えようとしようと、皆適応していくさ。この町がこんな風になったようにな」
「でもそれなら、戦わなくったっていいんじゃないのかな」
 どこか他人事のような物言いのドミトリエに、今度は佳奈子の方が首を傾げる番だった。
「そうね、ちゃんとエカテリーナとティアラの二人で、話し合うことができれば……」
 エレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が同意して言葉を添えたが、「いや」とドミトリエは首を振った。
「エリュシオンは、力こそ全て、だ」
「……言葉じゃ意味がないってことかしら?」
 エレノアの追求に「そう言う訳じゃないが」とドミトリエは言葉を探す風だ。言葉が無意味なのではないが、ここエリュシオンでは、言葉に意味を持たせるのもまた力なのだ、と説明して、ドミトリエは続ける。
「どんなにくだらなく見えても、これは「戦争」だ。理由の貴賎は意味が無いし、どちらに力があるかを示すのに、一番手っ取り早い。そして、勝者が自分の有利を固めるために舞台から変えてしまうのは、可笑しいことじゃない」

 皮肉な口調で言って、エカテリーナたちのイコンを一瞬振り返って、ドミトリエは息をついた。
「あんたたち地球人や、シャンバラ人がどう思うかは知らないが、エリュシオンはこういう土地だ。だから理由なんてものは正直「どうでもいい」んだよ。選帝神を決めるかもしれない戦争に、四天王だの親衛隊だのしか出てこないのはそういうわけだ。「お手並み拝見」ってところだろうな」
「じゃあ、ドミトリエさんは、どうなの?」
 その説明に、佳奈子は真っ直ぐその目を向けると、尚も問いを重ねた。
「エリュシオンの考え方じゃなくて、ドミトリエさんは、この戦いを……どう、したいのかな」
 問われて一瞬言葉を詰まらせたドミトリエに、佳奈子は続ける。
「理由がどうでも良くても、この戦いまでどうでもいいわけないよね」
 もし戦い自体がどうでもいいのなら、こうして前線に出てくるはずも無いのだ。だったら、その意思を、ちゃんと言葉にしないとわからないよ、と、その本心を引き出そうとする様子の佳奈子に続き、ペガサスエニフの背で、敵前衛に痺れ粉をまいたりと足止めをしていた光一郎も「そうだなあ」と口を開いた。
「どうしろ、どうあれ、なんて野暮は言わねーから、どうしたいのかを言ってみろよ」
 選帝神にまつわる云々ではなく、本心の部分はどうかと言う直球の言葉に、ドミトリエは沈黙した。その考え込む様子に、光一郎達と連携して、ドミトリエの答えを引き出す時間稼ぎ、とばかり、煙幕ファンデーションで正面の敵を混乱させつつの未憂が「そんなに難しく考える必要もないんじゃないでしょうか?」と少し笑った。
「私は……私たちがこうして戦うのは、助けてもらった人たちの力になりたい、助けになりたい……それだけです」
 それは些細ではあるが、大切な想い。激しさは無いが、確かなその決意を覗かせる柔らかな笑みが、ドミトリエに向けられる。
「ドミトリエさんにはそういうこと……無いですか?」
 その言葉に、暫く考えるような間を空けて、「正直、助けられたって気は全くしないけどな」と、ドミトリエは苦笑交じりに、ようやく口を開いた。
「……選帝神がどうかとか、カンテミールがどう変わるか、とか、そういうのは、余り興味ない」
 遺伝子がどうだろうと、自分は自分で、育ててくれたのはドワーフだしな、と続けたのを、シリウスが僅かに目を細めながら眺める中、ドミトリエは若干口ごもりながら「ただ」と歯切れ悪く続けた。

「巻き込まれた縁で、と言うわけじゃないが、あいつがな……孤立無援、っていうのも、放っておけないんだよな」